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世界初の液体水素車、完走までの1年半 第2戦富士

2023.06.30

液体水素を燃料とするGRカローラが24時間レースを完走した。開発が始まって1年半。世界初の挑戦はいかにして成し遂げられたのか? 現場に密着した編集部がその軌跡をレポートする。

“理解不能”なトヨタスペック

裏を返せば、それだけ協力先を見つけるのが難しかったということでもある。

無理もなかった。液体水素を燃料とするモビリティはロケットくらいで、その他での使用例はほとんどない。

巨大なタンクをつくるメーカーはあっても、乗用車に載る小型タンクを開発しているメーカーはないに等しかった。

山本主任をはじめとする開発チームは、日本各地を調査した。求められるのは、開発の“キモ”であるタンクがつくれる高度な技術力と、レースに対応できるスピード感のある開発力。

そんな中、知人の紹介でたどり着いたのが、山口県宇部市の新光産業だった。

土木・建築などの大型工事に強みを持つ同社にタンクを依頼することになったのは、高度な溶接の匠の技術があったからだ。

限られた空間いっぱいに真空二重層のタンクを収めつつ、水素の出入口となるノズルを取り付けなければならない。しかも、一品モノの開発なので、溶接はすべて手作業となる。

だが、いくら溶接に強みを持っているとはいっても難しかった。新光工事 * 河野啓史部長代理は言う。

*新光産業の子会社で液体水素車の気化器の開発、製造も請け負った

「それまで、自動車メーカーとの付き合いはありませんでした。日ごろ扱っているのは、クレーンや土木工事など、大きな物が中心です。通常、何十台も同じものをつくることはなく、一品一様の世界です。我々からすると、トヨタスペックは“理解不能”なレベルの精度でした」

新光工事の河野啓史部長代理。溶接やモノづくりも自ら手掛ける。 2022年6月に富士スピードウェイに展示した液体水素システムも自ら製作を買って出た

求められるのは、コンマ数ミリの精度。溶接によって生じるひずみを事前に計算して、スペック内に収めるのは至難の業だった。

半年仕事を3カ月で形にした総合力

難しさはもう一つ。タンクの都合で、設計を自由に変更することができなかったことだ。

着手から1年ほどでレースを目指す“超スピード開発”では、数々の部品が同時並行で走っており、タンクの設計変更が他の部品に影響を与えてしまう。

ノズルの角度を少し触るだけでも、他の配管に影響してしまうギリギリの状況だった。

しかし、そんなハードな開発を、なぜ、同社は二つ返事で引き受けたのか。

「日本の未来を見据えるトヨタの意気込みを肌で感じたからです。そこに、一緒になって関われることが一番のやりがいだと思いました」

「自分たちのつくったタンクが、実際にクルマに載って、走って、大勢の人が見守る中で安全であることを証明したい。いつか、液体水素でクルマが走るのが当たり前になる未来がきっと来ると信じて全力投球しました」(いずれも河野部長代理)

タンクを構成する部品の中でも、フランジ(配管の継ぎ手部分)やノズル類などは、JIS(日本産業規格)基準の材料を使用してもトヨタの要求水準に届かなかった。

そういった部品は新光グループ一丸となって一から製作し、超短納期・高精度の品質に対応。

特別な技能が必要だと思えば、第一線を退いた経験豊かなベテランも現場に呼び戻して、メンバーに加えた。

製造に加え、設計や認可の届出などを含めると、関係者は25名に。交代で休日出勤も行うなど、“オール新光”で取り組んだ結果、通常なら、半年はかかるであろう仕事を、わずか3カ月で形にした。

「できあがったものを初めて見たときは感動しました。自分で書いた図面を超えたオーラすら感じました。手づくりで精度確保が難しい中、最大限対応していただいたことに感謝の気持ちでいっぱいです」(山本主任)

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