水素エンジンを積んだカローラが24時間レースを走り切った。歴史的な日となるかもしれない24時間をレースフォトグラファー三橋仁明の写真とTwitterで振り返っていく。
2021年5月22日15時から翌23日15時までの24時間、水素エンジンを積んだレーシングカーが世界で初めて耐久レースを走り切った。
“6人のドライバーたちが実際にコースを走行した時間”は11時間54分。
残りの12時間6分は、“約8時間”が故障修理や安全確認のためのピット作業、“約4時間”が水素充填に要した時間である。
富士スピードウェイを358周、距離にして1,634km。
総合優勝のクルマは763周走っていたので、それに比べれば半分以下となる。
この結果にSNSでは「半分も走ってなかったの?」という声もあがっていたが “トラブルも含めた24時間/358周/1,634km”という結果についてレース直後の豊田章男は次のように語っていた。
この映像は、完走した直後、ゴール地点からピットに戻る車内でトヨタイムズのカメラに語っていたものである。
よく完走できたよね…。1,500km以上走ったんでしょ!?
トラブル多々あり…、シェイクダウンみたいなクルマを全員の力で完走まで持っていけたと思います。
ここに(クルマを)間に合わせたからこそ分かったことが、いっぱいあったんじゃないでしょうか?
もっと完全を狙って“壊れないように、壊れないように”と言っていたら、きっと、今回壊れた部品は分からなかったし…。
それが、分かったことによって課題が見つかり、さらに先にいける準備ができる24時間レースになったと思います。
関係者の皆さん、本当にご苦労さまでした。
しっかり寝ましょう!
今回のレース…、カーボンニュートラルに対して、新たな選択肢をということで、こうして完走できましたけど、未来をつくるのは目標でも規制でもなく、意思のある情熱と行動だと思います。
550万人の仲間が、この意思ある情熱と行動を見ていたと思います。
ともに未来を一緒につくっていこうという仲間が増えることを期待しています。
待ってます!一緒に未来をつくりましょう!
レースの3分の1はトラブル対応に追われていたことになるが、その時間こそが、カーボンニュートラル実現に向けた“大切な財産”になったという捉え方である。
もし、このレースにクルマが間に合っていなかったら、スタートラインにも立てていなかった。
トヨタイムズではROOKIE Racingと連携して、この24時間をTwitterで追い続けていた。
カーボンニュートラルに向けた大きな一歩になったであろう24時間を、今後のためにも、ぜひ残しておきたい。今回は、そのTwitterを見返せるよう、ひとつの記録として残しておく。
【2021年5月22日】
世界の様々な24時間レースに出場した経験を持ち、今回のレース参戦の “言い出しっぺ”でもある小林可夢偉選手が、このレースのスタートドライバーに任命されていた。
可夢偉選手が、グリッドに並んだ水素エンジンカローラに乗り込む。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1395981208828350469?s=20
【15:00】
スタート後、ホームストレートを走り抜けていく水素エンジンカローラ。ドライバーは可夢偉選手。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1395985039779794945?s=20
【15:28】
スタートから10周を走りピットに戻ってくる。そして、給水素ゾーンへ。
「給水素は30分に1回程度」と言われていたので想定通りの周回数であった。
レースでの初めての給水素は2回に分けての作業。所要時間は7分程度。
給水素メンバーの長い戦いもここからはじまった。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1395996253868085251?s=20
【16:10】
ドライバーは可夢偉選手からモリゾウ選手へ。
「水素が安全であることを証明するためにも私がドライバーをとして参加していきたい」
自らがハンドルを握る、新たな挑戦が始まった。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396016400599158784?s=20
【16:15】
コースインするも、モリゾウ選手は1周でピットに戻ることになる。エンジンルーム内で“水素漏れ”をセンサーが検知したため、無線でピットインの指示が出ていたのだ。ピットにクルマを止め、メカニックたちが原因を探りはじめる。
エンジンの隙間から漏れる燃焼ガスを回収するための配管が外れていたことが原因。わずかに残る水素を、センサーがキャッチして異常信号を出していた。配管を修復し万全のチェックをしてモリゾウ選手は再びコースに戻る。
トラブルではあったが、これにより取り付けられた水素検知センサーが高い精度で機能していることが証明された。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396019750497447937?s=20
【17:56】
26ラップ、約1時間の走行を終え、モリゾウ選手から佐々木雅弘選手へドライバー交代。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396030468881993729?s=20
【18:12】
しかし、エンジンの圧力上昇により、わずか4周で再びピットへ。
インジェクターなど影響のありそうな部品を全て交換。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396037472677625873?s=20
【19:36】
約1時間半の修理を終え、エンジン再始動。
佐々木選手が乗り込み、再びコースへ。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396057188024475657?s=20
【21:15】
レース開始から6時間が経過。ドライバーは3人目の佐々木選手から井口卓人選手へ。
その少し前、モリゾウ選手はフラッとピット内を歩き回り、メカニックやエンジニアを激励していた。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396085358861852680?s=20
【22:49】
レース開始から8時間。ドライバーは5人目の井口選手から松井孝允選手へ。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396105079980126208?s=20
ドライバー交代を済ませコースに入る前に水素充填を済ませる。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396107746605371392?s=20
【23:15】
無事に日をまたげると思っていた矢先、電気系統にトラブル発生。緊急ピットイン。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396118851570470921?s=20
メカニック、エンジニア、そして可夢偉選手、松井選手も加わった、総出の修理作業は長時間に及び、コース復帰出来ないまま、日付が変わった。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396150164667043840?s=20
【 1:30】
修理が続くピットに、モリゾウ選手が駆け付けた。魔法の言葉をかけて回り、厳しい作業が続く、チームメンバーを笑顔に。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396161550143000577?s=20
魔法の言葉とは…?
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396166641428221952?s=20
【 3:30】
作業開始から4時間。レース開始から半分がたった深夜3時半に、ついにエンジン再始動。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396168726727127040?s=20
再び松井選手が乗り込み、ようやくコース復帰。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396178757371588612?s=20
【 4:32】
夜が明け始めた午前4時半。ドライバーは松井選手から石浦宏明選手へ。毎年“夜勤担当”を任されていた石浦選手は、長時間の修理作業のおかげ(?)により、明け方を走れることになった。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396188215279710209?s=20
給水素を済ませ“明るい道”を走りに出る石浦選手。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396195194408562688?s=20
石浦選手は、このあと2時間走り続ける。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396197565956169729?s=20
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396214894978945026?s=20
走り終えた石浦選手は「楽しく走れた」「ミッションを、いたわらないといけない」
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396225685090308096?s=20
【 6:35】
石浦選手から可夢偉選手へバトンタッチ。これでドライバー6人が一巡。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396218632808566798?s=20
給水素中の可夢偉選手「クルマはすごく乗りやすい」
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396229220578119681?s=20
【 8:11】
スタートから17時間。走行累計1,000km突破。バックミラー代りのリヤビューモニターが映らなくなるトラブルは発生するもクルマ自体は順調に走り続けていた。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396230113650376705?s=20
【 8:25】
レース開始から17時間半。モリゾウ選手、2回目の走行へ
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396249755123011584?s=20
【 9:30】
1時間を走行。タスキはモリゾウ選手から井口選手へ。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396260033839583232?s=20
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396264025130864650?s=20
【10:40】
井口選手から佐々木選手へ。レース残り4時間。終盤戦へ。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396290998720811011?s=20
【11:30】
佐々木選手から松井選手へ。松井選手が2時間近く走り続ける。残り2時間を切った頃、走行距離が1,500kmを突破。
【13:30】
残り1時間半。松井選手から再び石浦選手へ。「安全第一で走り、最後のドライバーであるモリゾウ選手へつなげたい」と石浦選手。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396324339767603209?s=20
ここから1時間走行を続け、最後のタスキをモリゾウ選手につなぐ作戦だった―――。
【14:00】
残り1時間、ステアリングが定まらず、走行安定性が悪化。石浦選手が緊急ピットイン。
右リヤのアブソーバーのナットが外れていることを確認。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396334682162098179?s=20
交換部品の予備がピット内にはなかったが、メカニックの一人が「GRヤリスにも同じ部品が使われていること」を覚えていた。
ピット裏に停めてあったメンバーのGRヤリスから部品を外して持ってくるよう指示が出される。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396336355349647362?s=20
チーム全員が、コース復帰を願い見守る中でメカニックの修復作業が続く。
24時間レース終了まで残り45分。部品交換が終わり、GOサインが!
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396336314685935620?s=20
監督やチーフメカニックと最終確認を行いカローラに乗り込む。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396340444410257411?s=20
残り30分。モリゾウ選手がステアリングを握りコースへ。
あとは無事完走してくれることを祈るのみ。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396340895616622599?s=20
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396341563840634883?s=20
【15:00】
ついに迎えた “2021年5月23日15:00”
32号車の水素エンジンカローラは、28号車のGRスープラと揃ってチェッカーを迎えた。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396349727319334913?s=20
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396351091936169991?s=20
完走を喜ぶメンバーたち。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396348771483619331?s=20
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396349087650177026?s=20
ピットロードに戻ってきたクルマをメンバーたちは歓喜で迎えた。
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396352743221219328?s=20
[記録]
走行距離 1,634km(358周)
走行時間 11時間54分
ピット時間 12時間6分(うち修理/確認作業8時間1分、水素充填4時間5分)
水素充填回数 35回
https://twitter.com/ROOKIE_Racing_/status/1396423184140750850?s=20
水素エンジン車両でのレース参戦は、多くのトラブルを乗り越えながら24時間を完走することができた。
ゴールから30分後、ドライバー、メカニック、エンジニア、水素充填メンバーなど全てのスタッフがピットに集まる。
モリゾウこと豊田章男は、メガホンを手に取り、24時間走り抜いたメンバーたちへ言葉を投げかけた。
豊田:皆さん、おはようございます!
全員:こんばんは!
豊田:正解ですね(笑)
“魔法の言葉”で、そこに集まった全員が “一緒に戦ったメンバーである”という確認できた豊田章男は、このチャレンジへの想いを最後にもう一度みんなに伝えた。
1,500kmを超える距離という「東京⇔大阪を2往復」を24時間でやり切りました。
この期間に、このクルマが仮に間に合わなかったら、今日ここで、この24時間の中にあったトラブルもなかったわけです。
そうすると、“もっといいクルマづくり”…、“モータースポーツを起点にしたもっといいクルマづくり”は、まだスタートしなかったということだと思います。
水素エンジンを使う未来のカーボンニュートラルに向けて、新たな選択肢を作ろうと、会社の枠を超えて、550万人の代表者として皆さんがここに集結したと思います。
カーボンニュートラルで未来をつくるというのは、決して規制でも目標でもなく、“意志ある情熱”と“行動”だと思います。
その行動を今回このスーパー耐久24時間レースの多くの皆さんの前で、皆さんはその“行動”を示してくれたと思います。
会社を超え、立場を超え、「おはようございます」からの挨拶で、心をひとつにしていただき、本当にありがとうございました。
我々の未来への旅は、いま始まったばかりだと思いますので、ぜひとも550万人のみならず、日本の、そして海外の多くの方も、今日の水素エンジンの走りを、そしてここで戦った皆さんの姿を見て感動したと思います。
この“行動”をこれからも続けていくお約束をして、皆さんへの感謝の気持ちに代えたいと思います。
本当にご苦労様でした!そしてありがとうございました!
今日はしっかり寝てください!!
“約束”で24時間レースの幕は閉じた。
水素エンジンカローラを、なんとか間に合わせようと4カ月間、意志ある情熱で行動し続けたエンジニアは、この約束を聞いて「これでやっとスタートラインですね」とうれしそうに呟いていた。