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豊田章男が大切にしてきたリーダーシップ 自工会会見

2021.06.04

ミッションを掲げ、自工会の改革を進めたこの3年。豊田が何をしてきたか。何が変わったのか。

6月3日、日本自動車工業会(自工会)のオンライン記者会見が開かれた。会長の豊田章男だけでなく、日髙祥博副会長(ヤマハ発動機・代表取締役社長)、片山正則副会長(いすゞ自動車・代表取締役社長)、永塚誠一副会長も同席。豊田が2度目の会長に就任して3年。この間で実感したミッションの重要性、またコロナ禍での取り組みや、カーボンニュートラル実現へ向けた今後についても語られた。

東京モーターショーで実感したこととは

豊田が自工会会長に就任した2018年、自動車業界は大きな岐路に立たされていた。モーターショーも、東京に限らず世界中で来場者が減少。そんな中、2019年の東京モーターショー開催前に、豊田が現場メンバーに伝えたミッションとは。

自工会・豊田会長

早いもので、2021年も折り返し地点に入り、コロナ危機が本格化してから1年以上がたちました。

この間、数々の危機を乗り越える中で実感しているのは、私が自工会会長としてやってきたこの3年間は、すべてつながっているということです。

私が2度目の会長に就任したのは2018年5月でした。当時の自動車業界は、CASE革命により、「100年に一度の大変革期」に突入し始めたころだったと思います。

「未来のモビリティ社会において、日本の自動車産業はこれからも主役でいられるのか」

これが私たちに突き付けられた命題であり、その象徴が、来場者数が減少し続けていた東京モーターショーだったと思います。

そこで私は、まったく新しい未来のモビリティショーを企画してはどうかと提案いたしました。

私が伝えたミッションは、ただひとつ。「未来のモビリティと今のクルマの楽しさをお客様に体感いただき、笑顔になっていただくこと」でした。

それを受け取った現場のメンバーが知恵を出し合い、多くの新しい企画が動き出しました。

大きくやり方を変えたことで、当初は反発もありましたが、多くの人たちの努力によって、目標の100万人を上回る、130万人ものお客様に笑顔になっていただくことができました。

意志を持って行動を起こせば、現実は変えられる。私も含め、東京モーターショーに関わった多くの人たちがそう実感したと思います。

危機の時こそ、明確なミッションが必要

次に豊田が語ったのは、自工会の組織改革について。業界団体といえば、自らの業界の利権のために動くイメージもある。しかし、現在の自工会のミッションや存在意義は別のところにあると豊田は語る。

自工会・豊田会長

(意志を持って行動を起こせば、現実は変えられるという)この動きが、自工会の組織改革へとつながってまいりました。

会長が代わっても、「自動車産業と日本の役に立つ」というミッションを持ち続け、実践できる組織にしたい。その想いで、改革に取り組み始めました。

その矢先に、コロナ危機が襲ってまいりました。自工会は「早速、自分たちの出番だ」と動くことができたと思います。

すぐに、ほかの団体に声をかけ、危機を乗り越えるために自動車5団体がひとつになりました。

日本のモノづくりを支える人財を守り抜くこと、そして、経済復興のけん引役になること。この2つのミッションを共有した現場のメンバーが動き出しました。

そして、こうした動きは、エネルギーや輸送なども含めた「クルマを走らせる550万人」へとつながっていきました。

また、この1年間、私たちが乗り越えてきた危機はコロナだけではありません。たび重なる自然災害や半導体工場の火災など、どれをとっても、日本経済に大きな影響を与える出来事ばかりでした。

危機に立ち向かう現場を訪れるたびに感じることがあります。それは、「自分たちの利益のために動いている人は誰ひとりいない」ということです。

そこにいるのは「日本のモノづくりを守る」ために必死で働く現場の人たちです。

私は、自工会会長として進むべき方向を示しただけです。その想いに共感してくれた多くの仲間が、企業や業界の垣根を越えて頑張り続けた結果、20年度の自動車販売・生産は想定よりも早く回復し、自動車産業は49兆円の経済波及効果を生み出すことができました。

雇用を守るだけでなく、12万人もの新たな雇用も生み出しました。

この3年間、私が実感したことは、自動車は一人ひとりがミッションドリブンで動く現場に支えられた産業であるということです。だからこそ、旗を振り続けることで現実を変えていけたのだと思います。

豊田はトヨタ自動車の社長としても、求められるリーダーシップは根回しでなく、「この指止まれ」だと語ってきた。進むべき方向を示し、同じ想いをもつ仲間と力を携えてこそ、未来を動かせるという姿勢を一貫している。

ミッションを共有できたからこそ、コロナ危機でも自動車5団体が素早くひとつになることができた。550万人が同じ方向を向き、行動を起こす。その力こそが、危機を乗り越える原動力になっているのだ。

まだ、日の目をみていない優れた技術がたくさんある

そして話はカーボンニュートラルへ。

自工会・豊田会長

そして、次のチャレンジは、カーボンニュートラルです。

そこで必要なことは、数値目標や規制を掲げるだけではなく、何としてもカーボンニュートラルを実現するという「意志」と「情熱」と「行動」だと思っております。

私たちは、みんなで一緒に強くなってきた産業です。「中小零細」と言われる数多くの企業には、日本のモノづくりを支える人財がいて、まだ日の目をみていない優れた技術がたくさんあります。

私たちは、誰ひとり取り残さず、そしてこれまでの蓄積を生かして技術の選択肢を広げ、未来につなげていく道を選びたいと思っております。

簡単な道のりではありませんが、このミッションを掲げ、現場の努力を未来につなげていくことが自工会会長としての私の役割だと考えております。

コロナ危機において、自動車産業は経済復興のペースメーカーとして一定の役割を果たしたと思います。カーボンニュートラルにおいても、自動車産業550万人の底力をもっとあてにしていただきたいと思っております。

これからも私たちのチャレンジを応援いただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

4月に行われた前回の会見でも、「日本らしいカーボンニュートラル実現の道筋がある」と語ってきた。

カーボンニュートラルの達成には、さまざまな手段が考えられる。日本には、まだ日の目をみていない多くの革新技術があり、モノづくりを支える多くの人たちがいる。そういったチームでこれまで戦ってきたのが日本の自動車産業である。だからこそ豊田は、自工会会長として「ミッションを掲げ、現場の努力を未来につなげていく」と多くの記者の前で語ったのだ。

自動車産業を、活用していただきたい

続いては、記者との質疑応答へ。まずは政府が発表した成長戦略についての質問。この成長戦略には、2030年までに水素ステーションを1,000基、電気自動車向けの急速充電器を3万基整備するという、インフラの数値目標も含まれていた。

豊田は、政府がインフラ整備を成長戦略に取り入れてくれたことに感謝を示した上で、こう語った。

自工会・豊田会長

是非とも、設置することだけを目標にしてほしくないと思います。数だけを目標にしてしまいますと、どうしても設置できる場所につけるということになり、稼働率が非常に低く、結果として使い勝手が悪いということになりかねないと思います。

(だからこそ)もう少し自動車業界をあてにしていただきたい。自動車には既にコネクテッド技術、GPSを入れている場合がございます。電動車の多く走る場所も特定できると思います。必要な場所に充電・水素インフラを、優先的に整備できるんじゃないでしょうか。

豊田はこのようにも語った。

自工会・豊田会長

自動車は、二輪・商用車も含め、(町で)景色に入ってくるので、Vehicleが目に見える形で今どういう状態かが分かりやすいと思います。

乗用領域では、例えば5年から7年に一度モデルチェンジをします。カーボンニュートラルに向けて一歩ずつ進む状況が見えやすいと思うんですね。

それとモデルチェンジを“納期がある”というふうに見ると、部品とか素材をつくる側も納期に合わせる形にしていただくことで、カーボンニュートラルの実現(度合)が分かりやすく、かつ国として進めやすくなるのではないかと思い、(自動車産業をカーボンニュートラルのペースメーカーにと)そういったことを申し上げております。

自動車産業は経済波及効果も大きいので、もっともっとご活用いただきたいと思っております。

日本経済に“リアル”に貢献できる産業

続いて、「日本経済における自動車産業の役割について」という質問。

今回は、二輪車・大型車の代表として2名の副会長も出席した。それぞれ乗用車とは違った特有の事情があり、それぞれの領域でも課題を克服できなければ、自動車業界全体でのカーボンニュートラルは実現できない。

二輪車については、日髙副会長から、街乗りの原付から大型のツーリングバイクまで、それぞれの特徴に合わせたカーボンニュートラルの道を探っていること、大型車については、片山副会長から、ドライバー不足などの課題も含め、物流を支えるインフラとして、従来の枠組みにこだわらず大きな仲間づくりの中で、今後どうあるべきか取り組みを進めていることが紹介された。

そして、豊田もこう語る。

自工会・豊田会長

両副会長から出ましたが、自動車業界550万人は、今生き残るために必死になって仕事をさせてもらっています。クルマがつくれないときはマスクをつくろうじゃないか、フェイスシールドをつくろうじゃないか、我々が培ってきたモノづくりの技能を生かして仕事をさせていただいております。

今、ウィズコロナでもこういう結果が出ておりますのは、動き続けてきたからだと思います。我々が今後、日本経済にどのように貢献するかですが、我々は550万人と共にリアルな雇用を生み、リアルな設備投資をし、リアルな販売をし、リアルな物流をやっております。

リアル=人が関わっておりますので、現地現物をして、現実をより改善していくことによって、より競争力も上がるし、我々の価値も認められるんじゃないかと思っております。

3者の回答には、基幹産業としての自負がにじんでいた。

一人の大人として

そして、「コロナ禍の状況をどうみているか」という問いに、豊田はこう答えた。

自工会・豊田会長

今は大変有事な状態であると、認識しております。有事であるがゆえに、その状況変化への迅速な対応や、危機対応が必要だと思っております。

コロナ危機に直面してから、すでに1年以上の期間が経過しているわけですが、その間、多くの知見が積み重なっているはずなのに、状況がなかなか改善しない、どういう知見が積み重なったのかわからない状況ですので、不満や不安が募る日々が続いているのが現実だと思います。

その中で、経済界の立場である前に、一人の大人として、子どもたちに目を向けたいと思っています。この1年、子どもたちは外で満足に遊ぶこともできておりません。校歌も歌えないのです。修学旅行もなくなってしまいました。

未来をつくる子どもたちが、人間形成において大切な時期を制約の中で過ごして大人になっていくことは、決して望ましいことではないと、大人の一人として思っております。

これは我々、大人の責任だと思っております。大人はこうして発言の機会もあり、不平不満を言えますが、子どもたちはそういう機会すら与えられません。

今の子どもたちが歳を重ねたとき、「あの頃の大人たちは何をやっていたんだ」と言われないように行動することが今の大人たちに求められているのではないかと思っております。

この1年で、町の風景も、私たちの暮らしも大きく変わりました。仕事を失われた方、給料が満足に支払われない方、いろんな現実がございます。

コロナ前の状態がいつどのように戻ってくるのか、それは誰も見通すことはできないと思いますが、こういうときだからこそ、私たち大人には、苦しんでいる人たちの心に寄り添い、みんなが前を向いていけるような言動、リーダーシップ、そして、丁寧な説明が必要なんじゃないかと思っています。

自動車産業も、この1年はコロナ危機や半導体不足など、あらゆる苦難に見舞われた。しかし素早く動くことができたのは、自分たちが何をすべきかというミッションが明確だったから。

ミッションドリブンで動ける組織は、ブレない。そして危機を乗り越える強さがある。550万人一人ひとりの、そして幾多の企業の力を結集し、未来を動かしていく。そんな自工会の強い意志が示された会見となった。

そして、子どもたちに言及した豊田の発言には、聞いているこちらも“一人の大人”として、考えさせられるものがあった。

業界団体の記者会見で、子どもへの想いが語られることはめったにないだろう。しかし、カーボンニュートラルなど未来のための取り組みを語る場で、目を向けずにはいられなかったのかもしれない。

この日も、豊田の胸にはSDGsのバッジが付けられていた。「あの頃の大人たちは何をやっていたんだ、と言われないように行動すること」。これはまさに、持続可能な社会の実現を目指すSDGsの視点でもあり、私たち大人が今、何をすべきかミッションを問われているのかもしれない。

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