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トヨタグループビジョンを公表 豊田会長「責任者として変革をリード」

2024.01.30

トヨタグループが進むべき方向を示したビジョン「次の道を発明しよう」が発表された。グループ全体の責任者として豊田章男会長が発信したメッセージ、記者との質疑をレポートする。

Q&Aセッション(21:30更新)

ビジョン策定に込めた想いを語ったのち、豊田会長は記者から質問を受け付けた。記者からは、グループ責任者としての不正の受け止めや、グループの立て直しに関する質問が相次いだ。

4つの観点でやりとりをまとめた。

グループビジョンについて

――グループ会社の不正で世間から厳しい目が注がれる中、トヨタグループ発祥の地で、新しいビジョンを発表しようと考えた理由や想いを教えてほしい。

豊田会長

グループのことなので、どこかの会社の本社ではダメだと思いました。

そうすると、みんなにとって等距離で、共通の場だと思える場所で考えついたのが、この産業技術記念館でした。

また、この場所には、よくトヨタグループの幹部が集まっていました。

その意味からも、再出発させていただく場所としては、少なくともトヨタの本社ではなく、産業技術記念館がいいのではないかと考え、この場で、本日やらせていただきました。

ビジョン発表は214日にやろうと思っていましたが、これだけいろいろと問題が出てきています。

それから、正直なところ、昨日(129日)の豊田自動織機の会見を待ちました。待ってから速やかにとなると今日(130日)以外ありませんでしたので、設定させていただいました。

――トヨタには古くから豊田綱領など、さまざまな指針を掲げているが、今回の新しいビジョンと共通するところ、新たに変更・発展させた部分は?

豊田会長

「次の道を発明する」という言葉の中に、「現在」「過去」「未来」があると思っています。「次の」は未来、「道を」は現在、「発明」はトヨタグループの原点(創始者)である(発明王と言われた)豊田佐吉(=過去)。

「現在」「過去」「未来」を現代風の言葉にして、みんなが考えられるビジョン、未来の道をみんなでつくる。

英語の方がわかりやすいと思います。“Inventing our path forward, together.”英語に入っていて、日本語に入っていないのが“together”。道も“road”ではなく“path”にしています。

私がトヨタの社長に就いたときに、「もっといいクルマをつくろうよ」というビジョンを掲げました。メディアの方からは「何を言っているかわからない」「数値目標も言えないのか」と言われました。

社員からは、「『もっといいクルマ』ってどんなクルマですか」とよく聞かれました。

私は「それは皆さんが考えることじゃないですか」と、自分にとっての「もっといいクルマ」を決して言いませんでした。だからこそ、トヨタからいろいろなクルマが出てきたと思っています。

私が仮に答えていたら、スポーツカーだけになっていた可能性もあります。

ですが、働くクルマ、コモディティのようなクルマ、ファミリーが使うクルマ、長年モデルチェンジもしなかったクルマ。TNGA、カンパニー制、地域性で、いろいろなクルマが出てきた(モデルチェンジしてきた)わけです。

今回(のビジョン)も「道」は、いろいろな解釈が出てくると思います。そして、原点である「発明をしよう」をグループビジョンにして、「モノをつくろう」「モノを発明しよう」を、グループの再出発の旗印にすることからスタートさせていただきたいと思います。

――グループで不正が相次ぐ中、各社の幹部は今回のビジョンをどう受け止めているか? 説明会のやりとりを教えてほしい。

豊田会長

トヨタグループを統括する会社はありません。ガバナンスとは、私の理解では「統治」「支配」「管理」を意味する言葉だと思います。

企業におけるガバナンスとは、健全な企業経営を行うための管理体制をつくること。

私がトヨタでやってきたのは、主権を現場に戻し、どんな立場や出身であっても、経営に参加できるようにしてきたことであり、それが私流のガバナンスだったと思います。

かっこいい言い方をすれば、「もっといいクルマをつくろうよ」という単純なビジョンに基づき、現場が自ら考え、動くことのできる企業風土をつくったこと。

いわばビジョンドリブンの経営であり、現場経営、商品経営であると言えると思います。

ガバナンスの語源を調べると、「船の舵をとる、導く」とあります。それは、「統治」「支配」「管理」というより、私がやってきたことに近いような気がします。

それができた理由は、トヨタの現場に「思想」「技」「所作」があったからです。そして、「もっといいクルマをつくろうよ」という単純なビジョンがありました。

何よりも、私という人間が「現在」「過去」「未来」において責任者となることで、トヨタの中で主権を現場に戻すガバナンスができたと思います。

(米国の経済学者ジェームズ・コリンズ氏が提唱する)「企業の衰退の5段階」というものがありますが、トヨタグループに私自身が責任者となる意志を表明することによって、現場が自ら考え、動くことができる企業風土の構築へ一歩進みたいと、グループトップ、現場でリーダーをやっている方々に話をしました。

そして一方通行の話だけではなく、現場の人を中心にいろいろな質問を受けながら、私の考えを示す情報交換の場を持ちました。

最初は私から相当強い言葉を受けるのではないかと思って会場に来た方が多かったと思いますが、期待を裏切り、こういう状況をつくると誰でも声を発することができると、トップの方々に多少共感していただけたんじゃないかと思います。

不正の受け止めについて

――会長として一連の不正をどう受け止めているか? トヨタグループで不正が相次いで発覚している原因をどうとらえているか?

豊田会長

やってはいけないことをやったと思います。やってはいけないことは何なのか。ダイハツ、日野、そして、豊田自動織機に共通しているのが、認証制度に対する不正が行われたということだと思います。

私も第三者委員会のレポートを見ようとしましたが、時間もなく、すべては目を通せませんでした。

しかしながら確認した人から解説をしてもらいました。

日本国内における認証試験とは、安全、環境の分野において、ルールに沿った測り方で決められた基準を達成しているか確認する制度であり、基準を達成できなければ、クルマを生産、販売することができない。

ですから、認証を通らない限り、そのクルマを量産することはできない。しかし、認証で不正をしながら、量産をしてしまった。それが今回起こったことだと思います。

3社は認証で不正をしたわけですから、本来、販売してはいけない商品をお客様に届けた。

これは絶対にあってはならないことをやってしまった。認証制度があるからお客様は安心してクルマに乗ることができる。その制度に不正を働いてしまいました。

それはお客様の信頼を裏切り、認証制度の根底を揺るがす、極めて重いことであると受け止めています。グループ責任者としてお詫び申し上げます。

お客様から信頼を取り戻すのは時間がかかることだと思います。ですから、まずは私が責任者となる。

トヨタの社長としての14年間は、決断もでき責任も取れる。自分の覚悟でできましたが、グループの責任者というのは(会社の)トップではありません。

ただ、私が経験してきた中で、最初に信頼を失ったのはトヨタ自動車です。その経験、トヨタをクルマ屋に戻してきた実績は、今のトヨタグループのトップの相談相手として、頼りになるんじゃないかと思います。

再発防止をする場合、原因追究に動くと思います。

原因が一つであればソリューションも非常に簡単ですが、いろいろなことが重なり合って起きたのが、今回の現象だと思います。

私が社長を辞めてちょうど1年になります。私自身、会長になったことで、現執行チーム、そして、各社に対して多少の遠慮と微妙な距離感を持っていましたが、責任者として、もう一度トヨタグループ、トヨタ自動車を見ていきたいと思います。

決して屋上屋になるつもりはありません。自分が出張るつもりもありません。

ただ、主権を現場に戻した実績を活用し、不正を起こした3社、そして、トヨタグループがビジョンに基づいて(前進する)第一歩につなげていきたいと思います。

――社長在任14年間でさまざまな危機があったかと思うが、一連の不正はどれぐらい重大で、どういった意味を持つものなのか、受けとめを聞きたい。

豊田会長

大変に大きな重要性を持った出来事です。一番の問題は、原点を見失っているところにあると思います。

グループビジョンを説明したときに改めて考えたのは、トヨタグループの起源はいつなのかということです。

自動織機から自動車を始める議論をした場面が出発点なのかなと考え、系譜を整理すると、最初のうちは縦に伸び、ある時期から横に行き始めた。

現在、トヨタがモビリティカンパニーに変わろうというときにこういう事態(不正)が起きた。

根っこが同じだったはずが、それぞれが別の価値観を持つ大きな会社になり、機能分業で接することが多くなった。

機能で接したところで、会社自体の評価、運営、経営は測れない。そして、トヨタが発注者になっている場合も多々あり、トヨタに物が言いづらい点もあると思います。

変なヒエラルキーではなく、元々は同根でモノづくりをしてきた同志であり、ともに発展してきた継承者であることを出発点に、新たなビジョンを掲げ、上から目線でも、下から目線でもなく、普通に話をする。

私自身が社長を辞めて、普通のクルマ好きのおじさんになったように、マスタードライバーとして、いろんな方と話していくことが必要だと思います。

トヨタの会長という肩書はその邪魔をします。それを崩しながら、社長時代の14年間で得た仲間たちとともに、一つずつ探っていきたい。

一連の不正は重要であり、原点を見失ったことが一番の問題だと思います。なので、今日、原点を改めて共有しました。

共有したから再スタートできるわけではなく、しっかり消化、理解したうえで、初めて行動や発言につながっていくと思います。

私も見ていきますが、ぜひとも皆さまにも厳しいご指摘をお願いしたいと思います。

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