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【カーボンニュートラル】基幹産業としての切実な想い 自工会会見

2021.09.10

数値目標を掲げるだけでなく、リアルな「モノづくり」を行う基幹産業として世の中に示されたメッセージとは。

9月9日、日本自動車工業会(自工会)の記者会見がオンラインで開催された。

主題は、カーボンニュートラルについて。国際的な気候変動対策会議であるCOP26などを控えた今、「モノづくり」というリアルな現場を持ち、多くの雇用を抱える自動車業界が発信した重要なメッセージとは。

会見は豊田章男会長、神子柴寿昭副会長(本田技研工業・取締役会長)、日髙祥博副会長(ヤマハ発動機・代表取締役社長)、片山正則副会長(いすゞ自動車・代表取締役社長)、永塚誠一副会長と、正副会長が全員登壇。さまざまなデータを基に、日本の人々の仕事と命を守るため、自工会としてのカーボンニュートラルへのスタンスが改めて示された。熱を込めて語られたその内容とは。

パラリンピックで知り得たことを、未来へ生かす

まずは自動車産業の仲間も、裏方としてサポートしていた「東京2020大会」への感想が語られた。

豊田会長

皆様こんにちは。先日、オリンピックに続き、東京2020パラリンピックが閉幕いたしました。障がいをオンリーワンの個性にするパラアスリートたちの、オンリーワンの闘い方と、オンリーワンのストーリーに、多くの人が感動した大会だったと思います。

そして、選手たちが試合後に語っていたことは、「この場に立たせてくれてありがとう」「応援してくれてありがとう」「大会をサポートしてくれたすべての人に、ありがとう」という感謝の気持ちでした。

舞台裏では、ボランティアをはじめ、「大会運営を支えよう」と頑張っている人たちがたくさんいました。そこには、自動車産業550万人の仲間の姿もありました。アスリートや現場の皆さんが示してくれたものは、「自分以外の誰かのために」という想いであり、それこそが、今大会のレガシーではないかと思っております。

そして、自動車会社といたしましては、閉会後も、パラリンピックを通じて知り得た社会課題や技術課題をこれからのモビリティ社会で解決することにつなげてまいりたいと思っております。

敵は炭素であり、内燃機関ではない

そして、話題はカーボンニュートラルへ。

豊田会長

さて本日は、カーボンニュートラルについて、いま私たちが考えていることを申し上げたいと思います。今年11月にはCOP26もあり、各国の代表者からはこれまでさまざまな目標が提示され、その実現策として、出口であるクルマの選択肢を狭める動きも出てまいりました。

カーボンニュートラルにおいて、私たちの敵は「炭素」であり、「内燃機関」ではありません。炭素を減らすためには、その国や地域の事情に見合ったプラクティカルでサステナブルな取り組みが必要だと思います。

そして、目標を掲げること以上に、目標に向かって行動することが大切だと思っております。自工会においては、電動車フルラインナップという日本の強みを生かしてカーボンニュートラルに貢献するために、各社の得意分野に応じてタスクフォースを組みながら、課題の洗い出しや関係省庁を巻き込んだ議論を進めてまいりました。

各企業でも、新たなパートナーシップや実装実験を通じて「技術の選択肢を広げる」動きが加速しております。日本の自動車産業は、いち早く電動車の普及に取り組み、この20年で23%という国際的に見て極めて高いレベルでCO2を削減してまいりました。

この先の数年間やるべきことは、これまで積み上げてきた技術的なアドバンテージを生かし、今ある電動車を使って足元でCO2を最大限減らしていくことだと思っております。そこで自動車が余力を稼ぐことができれば、他の産業における技術革新に向けた時間や投資に回すこともできると思います。

その中で、日本の事情に合った選択肢を模索していくことが、プラクティカルで、日本らしいアプローチだと考えております。

カーボンニュートラルは、雇用問題でもある

次に、カーボンニュートラルは「環境問題」だけではなく「雇用問題」でもあるということ。その理由が、経済に直結するデータとともに明かされた。

豊田会長

これまで申し上げてきましたとおり、輸出で成り立っている日本にとって、カーボンニュートラルは雇用問題でもあるということを忘れてはいけないと思います。

私たちが、必死になって「選択肢を広げよう」と動き続けているのは、自動車産業550万人の雇用、ひいては日本国民の仕事と命を背負っているからでございます。

東京2020が終わり、世間の関心事はすっかり総裁選に移っているが、そのことにも触れていく。

豊田会長

これから総裁選も始まります。一部の政治家からは、「すべてを電気自動車にすれば良いんだ」とか、「製造業は時代遅れだ」という声を聞くこともありますが、私は、それは違うと思います。

「今の延長線上に未来はない」と切り捨てることは簡単です。でも、日本の人々の仕事と命を守るためには、先人たち、そして、今を生きている私たちの努力を未来につなげること、「これまでの延長線上に未来を持っていく努力」も必要だと思っております。

それが、日本を支え続けてきた基幹産業としての私たちの役割であり、責任です。

いま私が実感しておりますのは、多くの産業と関わり、人々の生活と密着したクルマというリアルなモノがあるからこそ、自動車産業を軸にすると、カーボンニュートラルにおいても「納期」と「課題」がわかりやすくなるということです。

納期と課題が明確になれば、いろいろな行動につながってまいります。そこで、来月には、カーボンニュートラルの出発点でもあるエネルギーについて、「プラクティカル&サステナブル」の観点で、自動車産業を軸にした課題を提示させていただく予定でございます。

そして、自動車産業の「つくる」「運ぶ」「使う」の各ステップにおいて行動を起こすことにつなげていきたいと思っております。カーボンニュートラルのペースメーカーとして、日本の基幹産業として、自動車産業は今後とも行動し続けてまいりますので、ご支援いただけますと幸いです。

ありがとうございました。

この会見で、豊田会長が特に語気を強めたのが、「すべてを電気自動車にすれば良いんだ」とか、「製造業は時代遅れだ」という声に対し、「それは違うと思う」と断言したシーン。そこには、昨年から自工会として、繰り返し訴えてきたことが、いまだに理解されていないという実感がこもっていたように思える。

国や地域によって、クルマを使用する環境も、エネルギー事情も異なる。だから当然、カーボンニュートラルに貢献できるアプローチも異なる。「日本の人々の仕事と命を守るために」「先人たち、そして、今を生きている私たちの努力を未来につなげるために」強く提言せずにはいられなかったのだろう。

800万台以上の生産が失われ、経済・雇用に重大な影響

ここで、記者との質疑応答へ。

さっそく投げかけられたのが「カーボンニュートラルが雇用問題という点について、改めて想いや考えを教えてほしい」という質問。ここで、さらに踏み込んでその理由が説明された。

豊田会長

カーボンニュートラルは、エネルギーをつくる・運ぶ・使うというすべてのプロセスにおいてCO2を削減するということが求められます。

「つくる」部分が(火力発電の多い)今のエネルギー事情だと、(CO2を大量に排出して)つくったクルマは輸出ができなくなってしまう、ということになると思います。

日本政府は今年のCOP26を意識してか、いろいろな目標を出しておりますけれども、ただ目標値を示すだけであり、それは日本の実情を踏まえて決められたものではなく、欧州の流れに沿ったやり方ではないかと思います。

ですからカーボンニュートラルはそれぞれの国の事情によってやり方が違う、ということを是非ともご理解たまわりたいと思います。たとえば再生可能エネルギー比率の目標は示しておりますが、そこにコストの議論は見えてこない、すべて「実行するのは民間で」、と言っているように我々には聞こえてしまいます。

日本の自動車業界は生産台数が約1000万台、その半分の500万台が輸出になります。

それを「内燃機関は敵」と言われますと、ほとんどのクルマが生産できなくなります。私どもの試算では、2030年代でも、内燃機関以外のクルマ(BEVFCEV)の生産台数は、200万台にも到達しないと見ておりますので、(現在が1000万台であることを考えると)800万台以上の生産台数が失われるということにもなると思います。

そうなってしまいますと、昨年コロナ禍において、12万人の雇用を増やした自動車業界であっても、550万人の大半の雇用を失う可能性がある、そのことを是非ご理解いただき、今年のいろんな意味での環境問題に対処いただきたいと思います。

私ども自動車業界をあげて、決して地球温暖化、CO2削減に対して異を唱えている訳ではございません。全面的に協力しようというスタンスは変わりない、ということを併せて付け加えさせていただきます。

経済に大きな影響を及ぼしたコロナ危機にあっても、自動車産業は雇用を増やし、日本の家計に6000億円の貢献をした。しかし、そんな自動車産業もカーボンニュートラルへの順番を間違えると、雇用を守れなくなってしまうのだ。

多様な自動車だからこそ、多様な選択肢を

その後、カーボンニュートラルへどう取り組んでいくか、乗用車だけでなく、商用車、二輪車についても質問が投げかけられた。商用車についてはいすゞの片山副会長、二輪車についてはヤマハの日髙副会長が回答した。

片山副会長

商用車は小型から中型・大型まであり、こういう非常に大きな多様性に対して、どう商用車メーカーとして取り組むかというのは根本的な問題。そうなりますと当然、何かの技術に特定されるということではなくて、いろんな技術の選択肢をうまく使っていくということが最終的なカーボンニュートラル社会にとって必要です。

日髙副会長

ひとくちに二輪車と言いましても、排気量、ユーザーの用途、地域性によって最適なパワートレーンの在り方が多様であると考えております。2050年までの時間軸で考えると、電気だけでなく、水素、合成燃料といった動力源の選択肢も出てくるのではないか。

自動車と言っても、乗用車、商用車、二輪車で事情は異なる。しかし、2人の副会長の発言は、そのそれぞれにおいても、さらに多様なお客様のニーズがあることを示していた。カーボンニュートラルに向け、選択肢の多様性がいかに必要かを物語る発言だった。

自動車産業を軸にすれば、納期と課題がわかりやすくなる

豊田会長は「来月には自動車産業を軸にした課題を提示する」と語っていたが、一体どのような内容になるのか。これについて豊田会長が自ら答えた。

豊田会長

日本政府は30年のエネルギー政策の目標を立てておりますけれども、目標実現にはこれまで問題提起してきました送電網の老朽・更新など必要な投資に加えて、新規に再エネ関連だけで約25兆円以上の追加投資が必要とされております。

それに加えまして、再エネは自然に左右されるエネルギー源でありますので、安定供給のための費用も毎年1兆円以上かかる可能性がございます。

自動車産業が国内生産1000万台を維持し、雇用を守りながら日本の発展に貢献しつづけるために、まず自動車産業として必要なエネルギー量とCO2排出量を整理し、いつ何がどれだけ必要なのかという原単位を明確にしていきたいと思っております。

そのうえでどれだけの投資や研究開発が必要でコストがどうなるのか、自動車生産の競争力は維持できるのか、国内での事業性が成り立たない場合、国から何か支援策が期待できるのか、その財源はどうするのか、自工会で自動車を軸にこのような課題を整理し、議論のきっかけをつくっていきたいと思っております。

運輸部門のCO2排出は、日本全体の約18%であります。しかしながら自動車産業は多くの産業と関わり、クルマというリアルなものを持っておりますので、この産業を軸にするとカーボンニュートラルについて、「納期」と「課題」が分かりやすくなる、という風にも思っております。

これこそが常々私共が申し上げている「自動車産業をペースメーカーにしていただきたい」ということにもつながります。来月までに今申し上げたことを皆さんにご報告させていただきますので、それまで少しお待ちいただきたいと思います。

カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車産業は、ただ数値目標を掲げるのでなく、日本を支えるリアルな産業として、「いつ何がどれだけ必要なのか」具体的な提言を行っていく。

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