トヨタが電池開発のコンセプトとして掲げる「安心」。その実現へトヨタが培ってきた強みとは?
車両・電池一体開発で電池コストを半減
ここからは将来の電池について、説明します。
BEVの普及のためにはコストを低減し、リーズナブルな車両価格でお届けしたいと考えています。
まず、電池そのもののコストを、材料や構造の開発によって30%以上の低減を目指します。
そして、車両としては、1kmあたりの消費電力の指標である電費をTOYOTA bZ4X以降、30%改善を目指します。
電費改善は電池容量の削減につながるのでコストを30%低減できます。
このように車両・電池一体開発を行うことで、20年代の後半には、TOYOTA bZ4Xと比較し、台当たりの電池コスト50%低減を目指します。
全固体電池はHEVから
これからの次世代電池について説明します。
液系電池は、材料の進化と構造の革新に挑戦します。さらに、全固体電池の実用化も目指していきます。
以上、3タイプの電池開発を行い、2020年代後半にはそれぞれの特長をレベルアップし、安心して使っていただける電池をお届けしたいと思います。
次に全固体電池について説明します。
全固体電池では、高出力、長い航続距離、充電時間の短縮などのうれしさが出せないかと開発しています。
昨年6月、全固体電池を搭載した車両を製作しテストコースで走行試験を実施し、車両走行データを取得できる段階にきました。
そのデータをもとに改良を重ね、昨年8月、全固体電池を搭載した車両でナンバーを取得し、試験走行を行いました。
開発の中で分かってきたことがあります。全固体電池は、イオンが電池の中を高速に動くため高出力化に期待できます。そこでHEVにも適用して全固体電池の良さを生かしていきたいと思います。
一方、寿命が短いという課題も見つかりました。これらの課題を解決するためには、引き続き、固体電解質の材料開発を主に継続していく必要があると考えています。
課題が見つかったことで、実用化に一歩近づけたという想いもあります。
全固体電池をHEVから導入するのは、なるべく早く世の中に出し、お客様の評価を得て、進化させていきたいという狙いもある。
いきなり多くの電池を積むBEV用の大規模なラインをつくるのではなく、まずは小さい電池で、なおかつ、開発し慣れたHEVから始めた方が市場への投入も早め、製造技術も上げやすい。普及を見据えたトヨタらしいアプローチと言えるかもしれない。
電池供給はフレキシブルに
BEVの普及のためには、電池供給体制の構築も重要です。
電動車両が急拡大する中、グローバルの地域ごとのさまざまなお客様のニーズに応えながら必要なタイミングで、必要な量を安定的に供給できるフレキシブルな体制構築を進めております。
電池開発のコンセプトである「安心に使っていただける電池」を目指すために、一定量のグループ内生産で技術を確立し、そのコンセプトをご理解し、実現いただけるパートナーの皆さまと協調・連携して、地域によっては新たなパートナーとの協議も進めます。
パートナーの皆さまと、およそ3年後の電池必要量を議論し、計画に織り込む体制をつくっています。
グループ内でも生産立ち上げのリードタイムを短縮し、変化に適応力のある体制を整えていきます。
グループ内での生産のアプローチは、言い換えれば「小さな原単位で立ち上げる」ということだ。岡田CPOによると、ここにはリーマン・ショックの教訓が生かされているという。
「(生産台数が)伸びていくときに、大きく(製造ラインを)構えたことによって、変化に対する我々の体質の弱さを思い知りました。伸びていくときは、そこに潜むリスクに気付きにくいので、『必要なときに、必要なものを、必要な分だけつくる』というトヨタの考え方に基づいて、リスクを抑え込んだ伸ばし方をしなければなりません」
また、電池は製造コストを下げ、安定期を迎えるころに次のものが出てくるなど、基本構造が定まっていないのが課題だ。
そういった変化への対応力を持つためにも、トヨタは「小さな原単位で立ち上げる」という戦略をとっている。
2030年までに1.5兆円を投資
2030年までの電池の開発と供給についてまとめます。
開発は、車両・電池一体開発によって台当たりコスト50%以下の実現を目指します。
供給は、変化するお客様のニーズに合わせフレキシブルに対応します。
例えば、BEVの普及が予想以上に早い場合も現在検討している180GWhを超えて、200GWh以上の電池を準備することを想定しています。
以上、説明してきた電池の供給体制の整備と研究開発の投資額は、2030年までに約1.5兆円になると見込んでいます。
開発と供給の両方の体制を整えることで、私たちはBEVを含む電動車の普及を進めてまいります。
目指すべき2050年のカーボンニュートラルに向けて、今後、継続的に各地域のエネルギー事情やインフラ、お客様の感性、利便性への要求は変わっていくと考えられます。
電動車において、クルマと電池は切り離せるものではなく、1997年から電池のグループ内生産にこだわり、HEVだけでも1810万台を導入してきたトヨタは、電池開発をグループで取り組んできた自動車メーカーであり、不確定な電動車の未来にも、確かなステップで前へ進んでいきたいと考えています。
未来に「サステナブル&プラクティカル」に適応していくためには、トヨタは、変化への適応力、自らの競争力を高め、もっといい電動車の本質的普及を目指し、カーボンニュートラルに貢献していきたいと考えます。
1.5兆円の投資規模は、HEV用の電池も含めた開発と供給の合計値であり、新しいラインへの投資はその内の1兆円に相当する。
2025年までに10本のラインを立ち上げ、2026~2030年にかけて、年間10本のペースで合計70本ほどのBEV用のラインを入れる。
岡田CPOは「1ライン当たりの生産量、要員数を抑え、ライン投入のリードタイムを短くし、ニーズに機敏に応えやすくする。ラインの投資もHEV電池の生産ラインのノウハウを生かし、コストを削減する」と語った。
トヨタの強み
2030年までに投資額1.5兆円、生産能力を年間200GWh以上に引き上げ、ラインを70本に増やすなど、会見で発表されたのはどれも規模の大きな数字だった。
そして、その投資を生かすための強みが、初代プリウスの開発から地道に、愚直に蓄えてきた電池開発の知見であり、車両と電池の一体開発である。
いろいろなクルマの使い方をするお客様に、電池開発コンセプトに掲げた「安心」を届けるため、ニッケル、リチウム、全固体とあらゆる電池の可能性を追求しているトヨタ。電動車だけでなく電池もフルラインナップ戦略で臨む。