トヨタが電池開発のコンセプトとして掲げる「安心」。その実現へトヨタが培ってきた強みとは?
5要素を高次元でバランスするのがトヨタ流
ここからは電池の開発において、トヨタが大事にしていることを説明したいと思います。
トヨタが最も大事にしていること、それはお客様に安心して使っていただくということです。
安全・長寿命・高品質・良品廉価・高性能という5つの要素をいかに高次元でバランスさせるかということを重視しています。
例えば、長寿命化は車両残価にも影響します。航続距離を考えればエネルギー密度の高さという高性能も必要です。充電速度は速くしたいですが、速くしすぎても安全性に影響します。
ですので、それぞれの要素のバランスをとることが、安心に使っていただくために重要だと考えています。この考え方は初代プリウスに電池を搭載したときから変わらず、電動車両すべての電池に共通の考え方です。
これまでHEV用電池で培ってきた技術を、これからのBEV用電池にも生かすことで安心して使っていただける電池をお届けします。
安心につながる5つの要素をバランスさせると言っても、あるものを立てようとすると、他と背反することもある。
「高性能」を求めて充電を速くしすぎると、発火や発熱などを引き起こし、「安全」に影響を与えるといった具合だ。
ここで大切なのが、後述する「電池と車両の一体開発」である。
電池の使われ方は車両がどう使われるかによる。例えば、タクシーにはタクシーの使われ方があり、充電の頻度や電池の温度などの情報が分かるため、その使用条件に応じた電池の評価や設計にフィードバックすることができる。
これは「クルマだけの開発でも、電池だけの開発でも難しい」と前田CTOは言う。
5つのバランスが取れるポイントを探すには、走行条件や使用環境など実走行データをとり、電池に置き換えたらどういう条件になるのか、そして、電池の内部に何が起きているかをとらまえて、繰り返し繰り返し、検証していくことが必要だ。
こういった地道で、愚直な取り組みを、電池と車両であわせてやれるのが「トヨタの優位性」(前田CTO)である。
安心できる電池のためにトヨタがやっていること
それではリチウムイオン電池を題材に、安心して使っていただける電池をつくる上で必要な多くの取り組みの中から、事例を3つご紹介します。
1つ目は安全を確保する事例です。
スポーティな走りなど、電池に大きな負荷がかかる走りでは、電池セル一つひとつに局所的な異常発熱の兆候が見られることが分かっています。
私たちは電池の中で起こっている現象を解析し、膨大なモデル実験を行うことで、走り方が電池内部に与える影響とそのメカニズムを明らかにしてきました。
その結果をもとに、電圧・電流・温度を、一つひとつの電池セル、それが複数集まったブロック、そして、電池パック全体と多重で監視することで、セルの局所異常発熱の兆候を検知しています。
そして、異常発熱を未然に防ぐ電池の制御を行っています。
一つひとつの電池の局所に至るまで安心・安全、信頼性を確保する思想はBEVのシステムでも変わることなく磨き続けていきます。
2つ目は長寿命へのこだわりです。
HEV用の電池開発で培った技術をPHEVに生かし、C-HR EV用の電池ではそれまでのPHEVに使用していた電池より、10年後の容量維持率を大幅に向上しました。
さらに、間もなく市場投入を予定しているTOYOTA bZ4Xでは90%という世界トップレベルの耐久性能を目標に置き、達成に向けて開発の詰めを行っています(車両についてはこちら)。長寿命を達成するために、取り組んでいる開発の中から一例を紹介します。
リチウムイオン電池内部の詳細な解析から、電池の負極の表面に発生する劣化物が電池の寿命に大きく影響することが分かっています。
この劣化物の発生を抑制するために、発生メカニズムを明らかにし、材料の選定、パック構造、制御システムなどさまざまな面で対策を行っています。
詳細な解析と対策の積み重ねを丁寧に実施することで耐久性能向上につなげています。
3つ目は高品質への取り組みの一例です。
製造工程において電池に金属異物が入り、正極と負極が電気的に直接つながってしまうと故障に至る可能性があります。
工程内に入り込んでしまう異物の形状・材質・大きさと耐久性への影響を確認し、電池へ影響を与える関係性を明確にしました。
それを基にサイズ・形状にまで気を配り、該当する異物は発生させない、入らないように管理を行っています。
以上、本日ご説明したものはほんの一部に過ぎないですが、こうした地道で綿密な解析、今までのHEV用電池のフィードバックから得た経験により、安心して使っていただける電池をこれからもお届けしていきたいと思っています。
電池において最も致命的なのは発火だ。劣化が進む中でも絶対に燃えないようにするためには、事前に分析や調査を行い、電池をしっかり監視できなければならない。
これまで、「温度」「充電量」「電流」「劣化状態」の各条件の掛け算で出てくるパターンを地道につぶしこんできたが、そういった評価がデジタルデータとして貯まってきており、最近ではAI 解析技術なども入れ、持っているデータとデータの間を補完することもできるように。
長年、内製で電池開発に取り組んできた強みはこういったところにも生きている。
HEVで培った技術でつくる次世代バッテリー
次に今年7月に発表した新型アクアに採用したバイポーラ型ニッケル水素電池について説明したいと思います。
豊田自動織機と共同開発を行い、バイポーラ構造にチャレンジし、駆動用車載電池として実用化しました。
旧型アクアに搭載した電池と比較しても出力密度は2倍に向上し、パワフルな加速を感じられるようになりました。
次世代BEV用の電池としては、1996年に発売したRAV4 EV以降、培ってきたBEVの技術やHEVで培った電池・電動車両の最新の技術をTOYOTA bZ4Xに織り込み、まもなく市場に投入します。