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ライバルのいすゞと日野が協業? なぜそこにトヨタも?

2021.03.25

トヨタは、なぜ商用事業に加わったのか? ライバル同士のいすゞと日野は、なぜ手を組んだのか? その真意に迫る。

輸送の現場を変えるリーダーたちの意気込み

その後に行われた質疑応答。冒頭、豊田社長は壇上に並んだ顔ぶれを見渡し、改めて紹介した。

「ここにいるメンバーは、トヨタ、いすゞ、日野、新会社の社長ではありますが、同時に自工会(日本自動車工業会)会長、副会長(いすゞ・片山社長)、そして自工会の大型車特別委員会の委員長(日野・下社長)でもあります」

さながら、自工会が用意した会見のようだが、おのずと発言も「自動車産業550万人」に目を向けたものに変わっていく。

今回の会見は、豊田社長もスピーチで言及したように、あくまで「スタートポイント」であり、具体的な取り組みは「これから進めていく」と回答していた。

しかし、その一方で、会見に臨んだリーダーたちの言葉から伝わってきたのは、困りごとを抱える輸送の現場の声を聞き、個社を越えて役に立ちたいという意気込みだった。

――今回の取り組みにかける想いは?

最初に回答した豊田社長は、協業に取り組む意義を、輸送業界のデータを紹介しながら説明した。

豊田社長

コロナとの闘いで昨年来ずっと自動車業界は「復興のけん引役になりたい」と思い、「私たちは、動く。#クルマを走らせる550万人」というCM(を出す)とともに、5団体を結んでまいりました。

その550万人のうちの約半分が、物流業界に関わる方です。

昨年、総理からカーボンニュートラル(の宣言があり)、自工会のなかで自動車業界として、何とか達成しようと動いてきました。

そんな中で、日本の物流の約9割に相当するのがトラック物流であり、(編集部注:バスやタクシー輸送を含めて)270万人が関わっています。これは日本の自動車業界550万人の中の約半分になるわけです。

保有台数では、商用車は全体の2割ですが、走行距離で考えると、自動車全体の4割が商用車になります。カーボンニュートラルで考えると、日本の商用車のCO2は、年に約7,700万トンで、全体の約半分になります。

業界全体でカーボンニュートラルに取り組もうとしたときに、やはりこの商用車の世界に、誰かが入り込まない限りは、解決には向かわないだろうと(思いました)。

先ほど片山社長も言われたように、物流業界が抱える課題として、多頻度の物流、厳しい労働環境、人手不足、負担増という、いわば“負のスパイラル”が回っているのが現実だと思います。

今回の共同企画提案によって、このスパイラルをまず、この3社が中心となり、新会社で改善できれば、これほどうれしいことはないと思っております。

*日本自動車工業会、日本自動車部品工業会、日本自動車車体工業会、日本自動車機械器具工業会、日本自動車販売協会連合会

続くいすゞの片山社長は、志を同じくする3社協業への期待を語った。

いすゞ・片山社長

今回の3社の提携は、従来の枠組みだと考えつかなかったと思いますが、「社会に対する想いや責任」を考えたときに、志として非常に近いものがあると感じました。

こういう新しい枠組みが、従来商用車メーカーだけでは解決できないような、今までにない+αであると感じています。

まさに今、商用車としてやっていかねばならないイノベーションを生み出す力がこの3社の提携にはあると確信しています。

ユーザー目線で生まれるサービス

――コネクティッドの領域で、世界最大規模のビックデータが集まることになる。「ユーザー目線」でどのような新しいサービスが生まれてくるのか?

スタートポイントに立ったばかりの今回の協業。とはいえ、3社が手を組むことで得られるデータは膨大だ。

新しいサービスの可能性について、商用事業のかじ取りを担ってきた片山社長と下社長がユーザーの声を紹介して回答した。

いすゞ・片山社長

コネクティッドに関して、いすゞはいすゞのシステムを持っており、日野と違うことで、まさにお客様から「1つのシステムを使いたい」と話がありました。

今回、1つのプラットフォームにしようとしていることで、お客様にとっては「やっと日野といすゞが(一緒に)やってくれる」という答えになろうかと思います。

それに加えて、商用車メーカーで提供できるアプリケーションを考えると、やはり限られています。それに対して、トヨタとコンテンツを(一緒に)考えれば、ものすごいことになると思います。

また、お客様である物流事業者の仕事が「どうデジタル・トランスフォーメーション(DX)していくか」という時代において、「商用車のプラットフォームが別々なのは非常に困る」という厳しい声もあります。

その一例として、トラックの積載効率が50%を切っているのが今の現実です。この効率を上げるのが、間違いなくコネクティッド技術であり、我々も持っていない架装物のモニタリングは、3社の力を合わせれば絶対にできると思います。

日野・下社長

もう1点、物流事業者が今1番困っているのは「安全」です。

例えば、「今ムリをして走る状況ではない」というように、これからの運行状況がわかるなど、従来できなかった「安心・安全にものが届くため」の物流のビックデータの活用が、トヨタ、日野、いすゞからの情報により可能になるのではないかと期待しています。

新会社を率いることになる中嶋裕樹社長は、その取り組みにおける「大事なこと」として、「現場で汗をかく」ことを挙げた。

CJPT・中嶋社長

随時トラックのデータを取ることができ、そこにトヨタの乗用車のデータを組み合わせることで、この大きなビックデータをベースに、お客様の困りごとを解決していきたいというのが新会社の狙いの1つでもあります。

大事なことは、お客様の現場に入り込み、実際の困りごとを我々自身も体感させてもらうことで、その問題点の本質と我々が持っているコネクティッド技術がどのように融合できるか(考えられる)という点です。

「現場で汗をかいて困りごとを解決する」というのが新会社の狙いですし、お客様ごとにソリューションを提案できればと思います

実装に向けて手を組んだ3社

――「実装」に向け、どのように広げていきたいか。なぜ競争していた2社が、一緒にならなければならなかったのか?

最後の質問は、この日、繰り返し用いられた、「実装」への想いについて。競合していた2社が手を組むに至った「実装」への強いこだわりは何なのか。片山社長は、時代の変化に触れ、その価値について答えた。

いすゞ・片山社長

自動車で言えばCASE、お客様の産業で言えばDXといった大変革を必ず乗り越えていかなければなりませんが、この3社でやっていくことで、それを実現できる、あるいは商用車として受け入れられる器ができると思っています。

従来の流通物流、商用車と乗用車のメーカーの関係を考えたときに、なかなかシナジーが難しかった。

CASEの時代になって、DXが本格化したときに、そこに(本当に)壁があるのかということなんですよね。

まさにシナジーをつくることが目的であって、それだけに、「社会を良くするエネルギー」にものすごいものがあると思います。

実際トヨタでは、e-Paletteをつくっていますし、そういうヒントがすでにいくつもある。

それを最終的には量産していくわけですが、その手前として、社会実装する価値というのはものすごくあると思います。

その価値が出てくれば、いろんなお客様から「これもやってくれないか、できるんじゃないか」という声が、どんどん出てくるんじゃないかと思っています。

最後は、豊田社長が締めくくった。ライバル2社が手を組むに至った背景として、新型コロナウイルスの感染拡大という大きな社会的変化の中で、「復興の原動力になろう」と取り組んできた自動車業界の変化に言及した。

豊田社長

それ(ライバル2社が手を組んだの)は550万人として「私たちは、動く」という宣言をしたからだと思います。

ちょうど昨年の今頃、コロナですべてのものが止まり、自粛生活になり、海外はどんどんロックダウンになったという状況があったと思います。

街を見ても、人の流れ、クルマの流れが全くない。「今まで、こんなに世の中にモノが流れていたんだ」「それがないだけで、こんなに元気を失ってしまうんだ」と(実感したと思います)。

そこで、自動車業界が基準を示し、何とか復興の原動力になろうと取り組んでまいりました。

本当に現場の皆さんにも頑張っていただいた。お客様にも好意的にオンラインショッピングでクルマを買っていただいた。それで、何とか復興の原動力にもなってきたと思います。

その中でもやはり、乗用系は乗用だけ。2輪系は2輪だけ。そして大型トラックは大型トラックだけ。

しかし、そこに「550万人」、そして「カーボンニュートラル」という共通点で、自動車メーカーだけではなく、仕入先を含んだ形で「この国をどうにかしよう」「自動車業界に関わる550万人の幸せを考えよう」。

青臭いようですが、そういうことを、素直に考えられた自工会があったと思います。

そんな中で、それぞれの会社が強みを出し合って、今後のグリーンエネルギー政策でも「自動車業界を真ん中に入れてください」と言っています。

今回けん引役になった自動車業界をあてにしてもらい、そこをベースに産業政策やグリーンエネルギーの活用も考えていく上で、我々がどんどん提言していきたいという想いがあります。

ただ、協調するにしてもある企業の都合に寄せるのではなく、物流の負のスパイラルをなんとか "元気のスパイラル" にできるようにしたい。

今、ソリューションはありませんが、みんなが得意分野を出しあうことで、何かができるのではないかと思っていますので、是非とも応援いただきたいと思います。

トヨタ、いすゞ、日野という異なる3社の協業と新会社の設立についての会見。しかし、登壇したリーダーたちの目は、自動車業界550万人を見据えていた。

「困っている仲間たちを助けたい」「自動車が世の中の役に立ちたい」。そんな志を共有したパートナーシップであることを感じさせた。

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