モビリティの未来に向けた第一歩は「物流・商用領域」から。いすゞ自動車会長の片山正則氏が自工会会長に就任。その狙いとは。
バトンタッチで悩んだこと
ここからは記者からの質疑応答へ。
時間をかけ一つひとつの質問に丁寧に答えていく中、豊田会長の2年に及ぶ悩みや、今後の自工会との関わり方が語られた。
豊田会長(トヨタ)
自工会との関わりは、私自身がトヨタ自動車の社長になってから(自工会の)副会長を仰せつかり、会長を1回、その後副会長を2回ということで13年になります。
13年あったからこそ今回「モーターショー」から「モビリティショー」へといろんな方々のお力を借りて、変革できたと思っております。
変化をするというのは、目の前の仕事をしておられる方からすると、あまり嬉しくないことだと思います。ですけど、自動車産業はグローバルにどの会社も活躍をしております。
そうなりますと世界の中で、日本の自動車産業の役割は日々変わってきており、その辺のセンサーが一番強いのが自動車産業だと思います。(自工会は)その変化に対応できる体制になり、土台ができたと思います。
ただ、今後も持続的に自動車産業が「この国にとってなくてはならない産業」となるために、どう(次の会長に)バトンタッチをすればいいのかは、この2年、非常に悩んでまいりました。
ずっと悩んできたのは「誰が次期会長をやるか」よりも「何を重点課題とするのか」。
副会長の皆さまが中心となり、経済産業省との話し合いの場も設けながら議論してきた結果、7つの課題が明らかになり(喫緊の課題を考える中で)どなたが次期会長に最適かが決められました。
私の今後の自工会との関わり方ですが、自動車業界から身を引くわけではございませんしドライバーモリゾウの顔もございますので、運転をしている場から自動車産業の元気につながるような活動ができればいいなと思っております。
これについて片山次期会長がこう補足した。
片山次期会長(いすゞ)
豊田会長の今後の自動車産業への関わり方として、経団連からの要請もございまして、経団連のモビリティ委員会の委員長を引き続き務めていただくと聞いております。
私としましても、最も自動車産業を理解いただいている最大の応援者でもございますので、自工会としても今後も一緒にやらせていただくということで、モビリティ産業を550万人、それから850万人へと拡大していくうえで、ぜひ力を合わせていきたいと考えております。
続けて、2024年問題にどう取り組んでいくか、ポイントが語られた。
片山次期会長(いすゞ)
まずは、物流の効率化のために我々が持っているデータ、例えば帳票類のデジタル化。
従来からコネクティッドという形でいろんな情報を持っていましたが、共有化が進んでこなかった側面がございますので、強力に推進していきたいと思います。
次に、自動運転への期待です。国を挙げて高速道路でのチャレンジも始まりますので、積極的に参画してまいりたいと思います。
この他にも、ドライバーの層を広げていく。例えば女性ドライバーにとって、より働きやすい環境をつくることもテーマの一つとして考えております。
次に、会長の任期が5月まである中で、なぜ1月から新体制が始まるのか質問された。
豊田会長(トヨタ)
私の気持ちは今日からバトンタッチをするという感覚でございます。
元々、私は、約1年前、トヨタ自動車の会長になった時に辞任を申し出ました。自工会というのは執行トップ、CEOレベルの方々で運営すべきだというルールを私自身が提案し、決定いただいたからです。
そういった以上、私自身が(トヨタ自動車の)会長になり、自工会のこの職を続けるということは皆さま方も納得がいかないんじゃないかということで辞任を申し出ました。
そうしたところ「1年間どうしても」と引き留めがありました。その間も日本の自動車産業のフルライン体制で副会長をやっていただくことで、日本には二輪、軽、大型、そして乗用のフルラインアップがあることが、本当に世界にない強みだと思いました。
その強みを活かすためには、CASE技術をはじめ100年に1度の変化が起こっていく中で、その都度、適材適所、一番強みのある方が引き受けるのがいいのではないかという議論が進んだと思います。
そうしますと、(私の任期が終了する)5月を待たずに、カレンダーが変わる2024年からスタートする方が良いということになりました。
特に物流は「2024年問題」と言われてるわけですので、解決すべき課題も、タイミングを合わせた形で新体制でやった方がいいという感覚で1月のスタートにさせていただきました。
その方が自動車業界に関わる550万人すべての方にとって、安心と信頼を得られるということで皆さま方と議論をして決めさせていただいたので、是非ともご理解いただきたいと思います。
そしてこう続けた。
豊田会長(トヨタ)
正副会長を、乗用3社による輪番制から、フルラインアップみんなで担当する体制にしたり、理事会をスリム化して各社トップによる議論の場に変えてまいりました。
これまで形式ばった議論が中心だったのが、本音に近い形で競争している仲間たちが協調分野を真剣に議論できる土台もできたと思います。
我々はとにかく日本の競争力を上げたい。そのために、自動車業界を活用していただきたい。
そして、日本の自動車産業には550万人の雇用がかかっております。これをモビリティ産業に変革することで550万人を850万人、ひいては1000万人ほどの新たな雇用創出につなげられると思いますので、これからの自工会にご注目とご支援をいただきたいと思っております。
片山次期会長(いすゞ)
言葉をちょっと変えてお話ししますと、商用車メーカーが会長になること自体がいかに自工会の変革が進んできたかという証であります。
持続可能な自工会の運営をどうあるべきかを副会長を中心に話をいたしまして、出てきた答えがやはり「チーム運営」でした。
それから7つの課題が明確にでき、やることも非常にはっきりしました。
さらに(課題を担当する)オーナーシップもはっきりしてきているので、それであれば商用車メーカーでも、皆さんがバックアップしていただくことによって会長職を務めることができると感じ、お受けさせていただいたということでございます。
続いて「豊田会長が国内外に一番伝えたかったメッセージは?」という質問が投げかけられた。
豊田会長(トヨタ)
カーボンニュートラルについては、私自身に未来を見通す能力があるわけではなく、現実をしっかり見ようと努力したということだと思います。
私が発言した内容は、550万人の方々、モビリティの恩恵を被っておられる方々の利便性(を発展させ)、難しさを解決しながら、どう未来につなげていくかということだったと思います。
今年のG7広島サミット(主要国首脳会議)では、世界に先駆け、日本政府がマルチパスウェイを発信されたことで、世の中の動きが変わってきたと思います。
大切なことは、それぞれの国のエネルギー事情に応じて、一般のユーザー、みんなが地球温暖化に取り組むことであり、それぞれの国、それぞれの会社が得意分野で今できることをやることです。
日本の自動車産業はフルラインでグローバルに戦っており、電気がない(環境の)10億人にモビリティを提供している会社もあれば、3億トンの牛の糞を活用している会社もあります。
「その日本をベースにすれば、未来の変革にモビリティが使える」ということが、私の一番伝えたかったことでございます。
変化には時間がかかります。誰かを犠牲にすればいいというものではないと思います。
未来はみんなで創っていくものですし、変化するにも、それぞれのスピード感があると思います。
今まで自動車産業に人生をかけていただいた方が「未来には居場所がない」というようなことは、自工会会長としても、いちクルマ屋としても、到底発言できることではありませんでした。
我々はユーザー目線、市場目線で、我々の技術がどう役に立つのか、どう未来につながるのかという想いでやっております。是非とも応援いただきたいと思っております。
全正副会長が登壇し、新体制について発表された今回の会見。各副会長からは豊田会長が中心になって築いた体制への想いが語られた。
日髙祥博 副会長(ヤマハ)
(今後は7つの課題に対して)誰が主担当になるのかも決まっておりますし、情報共有をしながら全体で前に進んでまいりたいと思います。
三部敏宏 副会長(ホンダ)
私自身はこの変革期を絶好のチャンスと捉えておりますので、自工会が主体となって、モビリティ社会への変革を進めていきます。
鈴木俊宏 副会長(スズキ)
自工会一丸となって日本の産業力、競争力を上げていき、地球環境等の課題解決に向けても片山新会長と共に頑張っていきます。
内田誠 副会長(日産)
人々の生活をいかに豊かにできるか、社会的な責任と雇用をどう守っていくかについて、ここにいる全員で覚悟と勇気を持って取り組んでいく所存です。
佐藤恒治 副会長(トヨタ)
今の自工会では、理事会の議論も活性化しており、副会長同士の会話も非常にフランクかつ活発に行われております。片山新会長は情熱をもったリーダーですので、ワンチームで取り組んでまいりたいと思います。
永塚誠一 副会長(自工会)
豊田会長が築いた土台を大切にし、モビリティ産業への変革に向けて他の副会長、理事の皆さま方と共に難局を乗り越えていきたいと考えています。
口々に語られたのは、片山次期会長をワンチームでサポートする決意。
来年1月から始動する新体制。今後の自工会がどのような方向に進んでいくのか、ぜひ注目いただきたい。