何が正解かわからない。そんな時代だからこそ、トヨタの進むべき道が明確に示された。その全文を公開する。
タイの人たちが、教えてくれたこと
豊田社長
タイトヨタの60周年記念式典では、「過去」「現在」への感謝をお伝えするとともに、トヨタがタイの皆様とつくる「未来」についてお話したい。ずっとそう思っておりました。
これまでトヨタは、自動車産業を育てることで、タイの発展に貢献してきたと思います。これからは、アジアでもカーボンニュートラルへの貢献が求められることになる。そしてCO2削減は「今すぐに」「みんなで」やらないといけない。
そう考えていたときに、タイ最大の民間企業であるCPグループとの出会いがありました。
今回、CPグループとの協業を進める上で、私が真っ先に訪問したのは、長年のパートナーであるサイアム・セメント・グループです。「彼らが少しでも懸念を示すなら、プロジェクトは白紙に戻そう」。そう思って、CPグループとの協業について相談いたしました。
会談は、プラモン相談役のこの言葉から始まりました。「まずは、タイ国民6700万人を代表して、ありがとうと言いたい」。
そしてサイアム・セメントのルンロー社長は、こう言われました。
「あなたがリコール問題で公聴会の証言台に立ったとき、タイ国王のラーマ9世は『何かの間違いではないか』と言われました。国王があなたをサポートするということは、タイ国民がサポートするということです。タイのためになるならば、何の問題もありません」。
その後、CPグループのタニン上級会長とお会いしました。トヨタについて、そして私自身について、様々なご質問をいただきました。
プロジェクトの相談というよりは、豊田章男という人間を信頼してもらう勝負の場だったと思います。3時間近く続いた面談の最後に、タニン上級会長は、こう言ってくださいました。
「私たちは目をつぶってあなたについていきます。あなたは間違っていたら、すぐに直す人だから。一緒にやりましょう。」
これが式典の2日前のことです。
式典では、CPグループと日本の「CJPT」が連携し、「カーボンニュートラルでタイの未来に貢献する」という私たちの意志と情熱をお示しすることができました。
そして、私がタイの人たちに「一番に」お見せしたかったもの。「IMVゼロ・コンセプト」と「ハイラックス・レボBEVコンセプト」をお披露目することもできました。
「国民車」として、ハイラックスを愛してくださるタイの皆様に、未来のモビリティ社会の真ん中には、ワクワクする「クルマ」があるということを感じていただけたと思っております。
そして迎えた25時間耐久レース。水素エンジン・カローラ、カーボンニュートラル燃料を使用した86。タイのクルマファンが見守る中、無事に完走することができました。
そこには、たくさんの「笑顔」がありました。今回、タイでいろいろな人から「社長、すごく楽しそうですね」。そう言われました。
体力的にはすごく大変でしたが、身体の底から情熱というか、エネルギーがこみあげてくる。「タイの人たちのためにできることは何でもしたい」。その気持ちが疲れを吹き飛ばして、私を動かしていく。そんな感覚の一週間でした。
私の行く先々で、タイの人たちが見せてくれる「笑顔」。伝えてくれる「ありがとう」という言葉。
タイを愛し、タイの幸せのために働いてきたトヨタ。私自身もそうです。これまでの私たちを信頼し、これからの私たちがつくる「未来」に期待いただいている。タイの人たちから伝わる「あたたかさ」が何よりも嬉しく、私に力をあたえてくれました。
未来は「自分以外の誰か」の幸せを願う仲間たちが、一緒に努力し、行動してつくるものだと思います。自分の利益のために大きな声を出していても、そこには対立しか生まれません。
そして、対立と分断は、誰も幸せにはしません。意志ある情熱と行動で、まずやってみる。共感してくれた仲間と、たくさん失敗しながら、少しずつ前に進んでいく。
「共感」という言葉は、「共に」「感謝する」と書きます。
「ありがとう」と言い合える関係から生まれる未来は、きっと今とは違う景色になってくると思います。そこには必ず「笑顔」がある。それを「微笑みの国」、タイの人たちが教えてくれたと思います。タイの皆様、本当にありがとうございました。
「もっといいクルマ」と「町いちばん」が、モータースポーツとつながり、カーボンニュートラルとつながり、世界へとつながってまいりました。
やがては、「クルマ屋にしかつくれない未来」につながっていく。私は、そう確信しております。