昨年、自工会・豊田章男会長が世界各国を回って感じたこととは? 自動車5団体による初の賀詞交歓会で発信した新年のメッセージを取り上げる。
1月5日、自動車5団体 * の賀詞交歓会が行われた。
例年、賀詞交歓会は自動車工業団体(4団体)で行っていたが、昨年、一昨年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止。3年ぶりの開催を機に自販連も加わり、5団体で実施されることになった。
*日本自動車工業会(自工会)、日本自動車部品工業会(部工会)、日本自動車車体工業会(車工会)、日本自動車機械器具工業会(自機工)、日本自動車販売協会連合会(自販連)本来なら主催者を代表して、自工会・豊田章男会長があいさつをする予定だったが、この日は定期的に受けているPCR検査で陽性反応が出たため欠席。永塚誠一副会長が代読した。
例年、業界や政官界の関係者が新年を祝う同会だが、豊田会長は日本の未来のために、ある危機感をもって2023年を迎えるという――。
トヨタイムズでは、永塚副会長が代読した“豊田会長あいさつ”の全文を掲載する。
「ありがとう」で迎える新年
自工会・豊田会長あいさつ
皆様、あけましておめでとうございます。自動車5団体としては、初めてとなる賀詞交歓会をこうして集まって、開催できますことを本当にうれしく思います。
太田(房江)経済産業副大臣、斉藤(鉄夫)国土交通大臣におかれましては、公務ご多忙のところ、ご出席を賜り、誠にありがとうございます。
そして、自動車産業で働く550万人の皆様。「ありがとうございます」。私たちが、この言葉から新年をスタートするようになったのは、コロナ危機に直面した21年からになります。
自由に「移動」できることは、決して「当たり前」のことではない。世界中の人々が、それに気づいた年でもありました。こちらの映像をご覧ください。
コロナ禍でも、黙々と働き、日本の移動を支え続けている550万人の仲間。せめて、自動車5団体の私たちからだけでも、「ありがとう」を届けたい。その想いをカタチにしたものが、この映像でした。
「共に」「感謝」する
自工会・豊田会長あいさつ
昨年、米国、欧州、アジアを訪問する機会がありました。行く先々で感じたことは、「感謝」と「期待」です。
どこの国でも、自動車は基幹産業です。ただ、海外では、日本の自動車産業が現地に根付き、その国や地域の成長に貢献することを「当たり前のことではない」と感じていただいているように思いました。
だからこそ、私たちの存在に感謝し、期待をしてくださる。そして、それこそが、「誰かの役に立ちたい」、「より良い未来をつくりたい」という私たちの原動力になっていると思いました。
これが今の日本にはなくなってきたと感じております。
毎年恒例ですが、年が明けると、春闘の話題が盛り上がってまいります。賃上げの議論では、「単年」の「ベア」ばかりが注目されてまいりますが、本来注目されるべきは、地道に続けている分配の実績だと思っております。
この10年以上、私たちは全産業平均を上回る 2.2%の賃上げを続けております。
雇用を維持するだけではなく、コロナ禍の2年間、22万人の雇用を増やしております。平均年収を500万円と仮定すると、1兆1000億円のお金を家計に回した計算になります。
ただ、ここ日本では、そんな私たちに対して、「ありがとう」という言葉が聞こえてくることは、ほとんどありません。
「当たり前」のことに感謝しあい、頑張っている人をたたえ、応援する。「今日よりも明日を良くする」ために、みんなで必死に働く。その結果、成長し、分配して、「中間層」を増やすことで、私たちは豊かになってまいりました。
日本は、この強みを忘れてしまったのでしょうか? 忘れたなら、思い出せばいい。私はそう思います。
カーボンニュートラルをはじめ、今の私たちが直面する課題は、産業を挙げて、国を挙げて、みんなで一緒に取り組まなければなりません。今まで以上に、「共感」が大事になってまいります。
「共感」という言葉は、「共に」「感謝」すると書きます。「ありがとう」と言い合える関係から生まれてくる「未来への活力」。それが「共感」だと思っております。
日本の未来のため今年やるべきこと
自工会・豊田会長あいさつ
今年、私たちには、日本から「共感」を生み出していくチャンスがあります。
5月のG7広島サミットは、日本らしいカーボンニュートラルの登り方を各国の首脳にご理解いただく貴重な場になります。
そして、10月の「ジャパンモビリティショー」は、「モビリティの未来」を世界に発信する絶好の機会になってまいります。
G7も、モビリティショーも、「オールジャパン」の力が必要です。そのためには、産業界も官民も、心ひとつに動かなければなりません。
今年のチャンスを生かせなければ、日本の未来はない。この危機感をもって、自動車産業は必死に働いてまいりたいと思います。
「共に」「感謝」しながら、みんなで動く1年にしてまいりましょう! 皆様、本年もどうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。
「今年のチャンスを生かせなければ、日本の未来はない」。そんな強い言葉の根底にあるのは、豊田会長の「JAPAN LOVE」である。
先人たちは、日本に自動車産業を興そうと、当時は不可能と言われたクルマづくりに挑戦した。しかし、その後に国の基幹産業にまで発展した姿を見てはいない。
そんな先人たちへ強い敬意を払う豊田会長は、自工会会長として、トヨタ自動車の社長として、数々の逆風下で、石にかじりついて日本の雇用を守り、自動車産業の基盤を守り抜く道を選んできた。
今、日本が直面する課題は、産業を挙げて、国を挙げて、官民が心ひとつに取り組まなければならないものばかり。
この大変革期に世界の共感を得て、日本の未来につなげるため、2023年はオールジャパンで「共に」「感謝」して動く一年を目指していく。