コロナ禍で迎える3回目の入社式。リモートでのイベントが当たり前になる中、リアル開催に込めた豊田章男社長の想いとは?
4月1日、トヨタ自動車の本社(愛知県豊田市)で入社式が行われた。
コロナ禍で迎える3回目の入社式だったが、感染対策を施したうえで、1000人を超える新入社員を会場に集め * 、式典を行った。
*コロナ禍での会場のキャパシティの制約により、中途入社者はリモート参加今年は、職種によって、先輩社員だけでなく、人事の採用担当とも対面で会えずに、入社が決まった人も少なくない。
リモートでのイベントが当たり前になり、人と人との直接的なつながりやコミュニケーションが制限されてきた世代だからこそ、リアル開催にこだわって入社式が実施された。
式典で豊田章男社長が語ったのは、「集まる」という言葉に込めた想いだった。自動車産業で働く550万人の一員となった新たな仲間へのメッセージをご覧いただきたい。
トヨタを多くの人が「集まる」場所に
新入社員の皆さん、入社おめでとうございます。
コロナ禍での暮らしも3年目に入ります。この2年、皆さんは、「リアルな体験」や「人と会うこと」を待ち望んできたと思います。
そんな皆さんだからこそ、今年の入社式では、なるべく多くの人に、「みんなで集まる」という経験をさせてあげたいと思いました。
「一カ所に全員が集まる」ことは実現できませんでしたが、オンラインで参加している皆さんも、ぜひ、この場にいると思って聞いてください。
この場所は、トヨタ自動車が生まれた場所、トヨタの「原点」です。
皆さん一人ひとりの「原点」もこの場所であってほしい。そんな想いを今日の入社式に込めました。
コロナ禍では、人と人が触れ合うことが「悪いこと」のようになってしまいました。
それでも、私たちは、デジタル技術を使い、違う形で「集まる」工夫をしています。
ここで、以前、私が出会った「人が集まる9か条」を紹介したいと思います。
例えば、「人は、夢の見られるところに集まる」「人は、心を求めて集まる」。この9か条はデジタルが普及した今日でも、まったく変わらないと思います。
私は、トヨタを、多くの人が「集まる」場所にしたいと思っております。
それはなぜかと言うと、自動車産業は、クルマをつくる人、売る人、運転する人など、550万人という多くの仲間と「みんなで一緒にやっている産業」だからです。
創業者の豊田喜一郎は、自動車事業に挑戦するときに、こう言っています。
技術もお金もなく、「日本人に自動車はつくれない」と言われた時代です。それでも喜一郎は、国産にこだわり、自動車部品をつくってくださる仲間を求めました。
協力会社の皆様には、こう言ったそうです。
トヨタのクルマづくりは、ここからスタートしております。
今では、6万社もの仕入先の皆様がトヨタと仕事を一緒にしてくださっています。
「みんなで一緒にやる」。それが私たちトヨタの原点です。そのためには、「人が集まる」場所でなければならないと思うのです。
人は、嬉々としてやっている人のところに集まる
今、カーボンニュートラル社会の実現に向けて、クルマそのものが大きく変わろうとしています。
「すべてを電気自動車にしなければならない」。皆さんも、そんな声を耳にしたことがあると思います。私は「少し違う」と思っています。
トヨタのクルマは、世界中のお客様に使っていただいています。
砂漠のような場所。氷点下以下になる場所。そんな過酷な環境においても、トヨタのクルマが人々の命や暮らしを支えています。
トヨタは、グローバルで、フルラインナップの会社です。私たちがやるべきことは、世界中のお客様に多くの選択肢を残しながら、カーボンニュートラルを実現することです。
そのために、電気自動車も、ハイブリッドカーも、水素で走る自動車も、すべての選択肢に本気で、全力で取り組んでいます。
昨年から、水素エンジンのカローラで「スーパー耐久」というレースに挑戦をしております。私自身も、マスタードライバー、「モリゾウ」として、その開発に参画しています。
ここで映像をご覧ください。
とにかくやってみよう。そうして始まった挑戦の場は、少しずつ「人が集まる場所」になっていきました。始めたときには、想像もできなかったことです。
なぜ、一緒にやろうと言ってくださる仲間が増えたのか。
「水素でカーボンニュートラル社会を実現する」という志に共感してくださったことはもちろんだと思いますが、何よりも、私たちが「深刻なテーマ」を「真剣に」、「楽しんで」やっていたからだと思っています。
「人が集まる9か条」に、もう一つ追加するならば、「人は、嬉々としてやっている人のところに集まる」。これだと思います。
どんなことでも、楽しんでやる。当たり前に聞こえるかもしれませんが、会社で仕事をするうえでは、重要なことではないかと思っています。
社長から3つのお願い
皆さんに、私から「3つのお願い」があります。1つめは、クルマを好きになってください。
クルマは、世界中のお客様の人生を支えています。「人生をあずけられる」。お客様がそう思えるクルマをつくれるのは、やはり、クルマが好きな人だと思います。
これから皆さんは、いろいろな職場に分かれていきます。クルマの開発をする人、工場で生産する人、人事や経理の仕事をする人、病院で命や健康を守る人。
役割はそれぞれ違いますが、すべての仕事が「もっといいクルマづくり」につながっています。
仕事を楽しむための第一歩は、クルマを好きになることだと思います。
2つめは、まずは3年間、がむしゃらに、何事も楽しむつもりで仕事をしてみてください。
3年が長ければ、3カ月、それも長ければ、3週間でも構いません。仕事を通じて出会う人たちの姿を見て、何かを感じるはずです。
そこには、クルマを好きになり、トヨタを好きになり、仕事が楽しくなっていく「きっかけ」があると思います。
そして、最後に。挫折を恐れないでください。
これから職場に入れば、うまくいかないことの方が多いと思います。仕事の厳しさや人間関係に悩み、苦しむこともあると思います。私自身もそうでした。
キャリア入社でトヨタに入り、理不尽な状況に苦しんだこともあれば、自分の無力さを実感し、挫折したことも一度や二度ではありません。
それでも何とかやってこられたのは、「トヨタが好きで、クルマが好きだ」という気持ちが消えなかったことと、つらいときこそ、寄り添ってくれた上司、同僚、友人がいたからです。
皆さん。壁にぶつかり、くじけそうになったときは、一度、会社の外に、目を向けてみてください。
トヨタという「大きな会社の小さな社会」から抜け出してみると、そこには、「ひとりの人間」としての自分がいるはずです。「ひとりの人間」として接してくれる家族や友人がいるはずです。
皆さんのこれまでの友人関係やいろいろな経験こそが大きな力になると思います。過ごしてきた日々に、自信をもってほしいと思います。
私自身、振り返ると、当時は「試練」や「まわり道」だと思っていたことが、すべて、自分の成長の糧になっていたと思います。
そう思えるのは、10年後、20年後かもしれません。それでも、これだけは言えます。生きていく中で、ムダな経験などひとつもありません。
私は、挫折を経験し、試練を乗り越えるたびに人は成長し、やさしく、強くなっていくと思っています。
皆さんは一人ではありません。「みんなで一緒にやる」のが、トヨタです。
これを胸に刻み、トヨタでの人生をスタートしてほしいと思います。
トヨタという会社が、多くの人が集まる場所になるように、明るく、楽しく、元気よく、一緒に頑張ってまいりましょう。
改めまして、入社おめでとうございます!