コラム
2019.04.03
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「新入社員へ音と匂いのプレゼント」~社長挨拶なんか明日になったら忘れてる~

2019.04.03

4月1日の入社式。「式では社長の話を聞きますけど、3時間くらいです...覚えていられるのは」と自ら語った社長挨拶。

4月1日、トヨタ自動車は約1500名の新入社員を迎え入れた。
新たな“家族”を迎え入れる入社式は豊田市の本社にあるホールで行われる。

壇上には、社旗と演台、そして1台の赤いスープラが置いてある。
その壇上に、会社代表挨拶として上がったのは豊田社長であった。

入学式の様子

いきなりこのような話をしてよいものか…

冒頭の言葉こそ「おめでとうございます」で始まった挨拶だが、
その後に語られたのは、自動車産業が変わりゆく途上にあるということ、
そして、トヨタも生まれ変わらなければ“終焉”さえあり得るという強い危機感を伝える内容であった。

新入社員の門出に、いきなりそんな話をすることをためらったと、素直に伝えながらも、
豊田社長は、ありのままの想いを語った。

<豊田社長挨拶>

今日からトヨタの仲間になった皆さん、入社おめでとうございます。
皆さんが入った会社は、トヨタ自動車という名前ですが、今、トヨタは、
「自動車会社」から「モビリティカンパニー」に生まれ変わろうと、全員が懸命に努力しているところです。

「モビリティカンパニー」とは、人の移動を可能にするモビリティをつくるだけではなく、
モビリティに関わるあらゆるサービスを提供する会社です。

これまで自動車産業は、よく出来たビジネスモデルの中で、成長を続けてまいりました。

たくさんの自動車会社がありますが、各ブランドは差別化されていて、それぞれのお客様がいらっしゃる。
魅力的な新型車を出せば、お客様が買い替えてくださる。
買い替えられたクルマは中古車となり、そこでも市場が存在する。
クルマを買っていただいた後も、保険やメンテナンスなどのバリューチェーンが確立している。

しかしながら、現在進行している「CASE」と呼ばれる技術革新により、
このビジネスモデルが壊れる可能性が出てまいります。

これは自動車会社にとって、これまでにない大きなピンチであるとともに、
生まれ変わろうとする者にとっては、大きなチャンスでもあります。

皆さんは、100年に一度の大変革の時代、トヨタが新しい時代に適合し、生き抜くことができるのか、
それとも終焉をむかえるのかという、瀬戸際の時代に入社をされました。

希望に胸をふくらませて入社した皆さんに、いきなりこのような話をしてよいものなのかどうなのか。
正直なところ、少し悩みましたが、この現実を受け止めてもらうことから、
会社生活をスタートした方がよいと思い、お話をすることにいたしました。
壇上で挨拶する豊田社長

“たから”になって欲しい

これから一緒にトヨタを変えていく新たな仲間たちに期待を込めて話を続けた。

成功体験を持つ人や、企業が変わるというのは、本当に大変なことです。

会社には、4つの“ジンザイ”がいると思っています。
一人目は、人に材料の「材」と書く「人材」。
二人目は、人に財産の「財」と書く「人財」。
三人目は、人に存在の「在」と書く「人在」。
四人目は、人に「罪」と書く「人罪」。
それぞれの意味は説明しなくてもわかると思います。

今日ここにいる皆さんは、人に材料の「材」と書く「人材」です。
努力をすることによって、どのような人にも、なることができます。

ぜひ、会社の「たから」になってください。
できることなら、世の中の「たから」、世の中から必要とされる人になってください。

豊田社長の挨拶を真剣に聴いている新入社員たち

この4つのジンザイの話は、同じくトヨタの社員である編集部の私も会場で聞いていて、
正直、ドキっとした内容であった。

入社式の映像は、社内イントラネットでも中継されている。
もしかしたら新入社員よりも、画面で式を見守っていた多くのベテラン社員の方が背筋が伸びていたかもしれない。

時は命なり

豊田社長は、その後、ザイの字を変えるためのヒントともとれる話をした。

そのためにどうすればよいのでしょうか。
社長である私と新入社員の皆さん。どちらにも平等にあたえられているものは何だかわかりますか?

それは時間です。私にも、皆さんにも、与えられている時間は「1日24時間」です。この24時間をどう使うか。
その積み重ねによって、皆さんがどの「ジンザイ」になるか決まると思います。

まずは、がむしゃらに、働いてみてください。会社のためではなく、
自分自身が必要とされる人になるために、我を忘れるぐらい、仕事に向き合ってみてください。

「時は命なり」という言葉があります。
これは、豊田英二さんが社長だった頃、管理者の人たちに対して、投げかけた言葉です。

「上司の命令が不適切な場合、その部下にとっては、時間のムダ使い、すなわち命の浪費ということにもなりかねない。言い替えれば、管理者たるものは、自分の命令を通じて部下の時間、すなわち部下の“人生”までも左右しているということになる。

部下の“人生”を預かっているからには、自分の時間の使い方と同様、あるいは、それ以上に、
部下の時間の使わせ方について、いきとどいた配慮をされるようお願いする。」

いま、私自身が、この言葉の意味を、重く受け止めております。
私からも、上司の皆さんにお願いがあります。部下をどう育てるか、チームで課題をどう乗り越えるべきか、
まずは上司である皆さん自身が、とことん悩んで下さい。
「立場が上がる」ということは、それだけ、「悩みの数が増える」、ということでもあります。
悩み、それでも全力で前に進む上司の背中を見て、部下の方も、全力で付いてきてくれるはずです。

ここまで聞いて、やはり、この挨拶は、新入社員だけに向けた言葉ではなかったことが分かる。

壇上に映し出される、豊田英二さんの「時は命なり」という言葉

私自身、必死になって働きたい

豊田社長自身も「部下の人生を預かっている」ことを重く受け止めていると語り、
そして、新入社員に向け、自身の決意も、この場で語った。

人生には「楽しい」と思うことが、たくさんあります。家族や友人など、大好きな人と一緒にいる時。
趣味など、自分の好きなことに没頭している時。おいしいものを食べている時。

しかしながら、仕事を通じて、組織の役に立てているとか、自分自身が成長できていると実感できることは、人生の「楽しさ」の中でも、極上のものだと思うのです。

働く人たちが、成長を実感できる会社は、それだけで、存在意義のある、素晴らしい会社だと思います。
何年か経ち、皆さんが、「トヨタにいれば、成長を実感できる。」、「生まれ変わっても、
またトヨタに入りたい。」そう思える会社にするために、私自身、必死になって働きたいと思います。

入社式の様子

従業員は家族

最後に、先日のトヨタイムズでも伝えた「家族」という言葉を挙げ豊田社長は新入社員への期待を伝えた。

「従業員は家族」。これは、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎の言葉です。
トヨタには、厳しくも優しく、身体を張って守ってくれるオヤジやおふくろ、
身近な目標となり、相談相手になってくれる姉や兄がいます。
そして、悩みや困りごとがあれば、素直に打ち明けることができ、答えは出なくとも、ともに悩み、
ともに打開策を模索していくのが、トヨタという家族の流儀です。
失敗を繰り返す中で、成長していってほしいと願っています。

豊田喜一郎の言葉、「従業員は家族」

イチロー選手からのメッセージ

しかし、挨拶は、ここで終わらず、先日、引退を表明したイチロー選手の話に移っていった。

先日、メジャーリーガーのイチロー選手が引退を表明されました。
昨年の入社式では、イチロー選手からメッセージをいただきました。
大変革の時代を生き抜いていこうとする私たちが、改めて、胸に刻み込むべき、大切なメッセージだと思いますので、今年も、この場で、ご紹介させていただきます。

映像が終わると、豊田社長の口からは、引退会見でのイチロー選手の言葉が紹介された。

イチロー選手は、引退の記者会見で、こう言われました。
「最低50歳までと、本当に思っていましたが、それは叶わず、『有言不実行の男』になってしまったわけですが、でも、その表現をしてこなかったら、ここまで出来なかったかもしれないという思いもあります。難しいかもしれないけれど、言葉にして表現するというのは、目標に近づく一つの方法ではないかと思っています」

そして、こうも言われています。
「人より頑張ることなんて、とても出来ない。あくまでも、秤は自分の中にある」

皆さんには、トヨタという会社で「これがやりたい」ということを見つけてほしいと思います。
「偉くなりたい」とか、「誰かからほめられたい、認められたい」ということではなく、
「私はこれを実現したい」という目標を、自分で見つけられる人になってほしいと思います。
そして、目標に向かって、努力を続け、いくつになっても、成長し続ける人であってほしいと思います。

最後のメッセージは“皆さんには…”という呼びかけで始まり、そして “いくつになっても…”という言葉が含まれていた。

“令和”という新たな時代が始まる年は、冒頭の豊田社長の言葉を借りれば、
“100年に一度の大変革の時代”そして“トヨタが新しい時代に適合し、生き抜くことができるのか、終焉をむかえるのかという瀬戸際の時代”が始まる年でもある。

その門出の日、豊田社長のメッセージには、新入社員を迎える想いだけでなく、その向こう側にいる “若さが足りないと思っているベテラン”の皆へも届けたい想いが乗せられていた。

壇上の豊田社長とスープラ

社長の話なんか覚えてられるのは3時間…

豊田社長の話は、まだ続いた。

「最後に私から皆さんへのプレゼントを贈りたいと思います」と言い、
会場にいた友山副社長を突如呼び出した。

「はい!」と言って立ち上った友山副社長は、壇上のスープラの運転席に乗り込む。

演台で豊田社長はニヤリとしながら言った。明らかにアドリブである。

「得てして、この入社式では社長の話を聞きますけど…、3時間くらいです…
覚えていられるのは…。もう明日になったら忘れてます。」
新入社員の苦笑が聞こえる。

「でも、この入社式が、皆さんの一生の記憶に残るようなことを今からしたいと思います。」

ここで、友山副社長がスープラのエンジンを掛け、アクセルを吹かす。
エンジン音が響く中で、豊田社長が再び話し始めた。

「電動化の時代に、このガソリン(エンジン)の音…」
「レースカーじゃないんで、ちょっと品のある音ですが…」

「ぜひともね…、クルマは五感で感じるものだと思います。
どんなCASEの時代になっても、全ての人に移動の自由、そして
クルマって楽しいなと思うモノを…、クルマづくりを…、皆さん一緒にやっていきましょう!」

「そして看護師の皆さん、クルマづくりをする人…、もっといい人づくり、
ぜひとも、お力をお借りしたいと思います。」
(*豊田社長の正面にはトヨタ記念病院へ配属予定の新人看護師が座っていました)

「新入社員も、ベテランも、みんなで楽しんで、がむしゃらにいい仕事をしてまいりましょう!」
「本日は、トヨタ自動車に入社おめでとうございました!」



↓“豊田社長が新入社員へ贈ったプレゼント”を是非映像でご覧ください。

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