クルマのデザインを決めるデザイナー。クルマに含まれるさまざまな権利を保護する知的財産部。もっといいクルマをつくるために、日々奮闘する両者の間には、強い絆があった。
「知財功労賞」という賞がある。
日本の知的財産(知財)権制度の発展や普及、啓発に貢献した個人、知財権制度を積極的に活用した企業を表彰するために、経済産業省(経産省)、特許庁が1987年に創設した賞で、経済産業大臣表彰や特許庁長官表彰を行っている。
その2026年(令和8年)度の「知財活用企業(意匠)」として、特許庁長官表彰にトヨタが選出された。完成車メーカーでの、同部門の受賞は初。
・レクサスの「スピンドルボディ」やトヨタの「ハンマーヘッド」などのデザインに一貫性があり、ブランドアイデンティティにまで高めたこと。
・グローバルに意匠権を取得するとともに、商標権・特許権なども取得し、知財の保護に尽力したこと。
・経営・研究開発・知財が三位一体となり、意匠・特許・商標の活用を推進していること。
こうした活動が受賞につながった。
そこで今回はトヨタのデザイン統括部長であり、現在はブランドのトップでもあるサイモン・ハンフリーズChief Branding Officer(CBO)、さらに日頃権利の保護に尽力する知的財産部(知財部)の竺原慶和、服部博生にインタビュー。
グループビジョンやブランド再構築がデザインに与えた影響、知財を守るために重要な観点などを語ってもらった。
意志
ハンフリーズCBO
(グループビジョンは)「発明」をもう一度(トヨタグループの)中心に持っていこうという、会長の強い意志だったと思います。
「発明」がグループの中心にないと、将来の道はないという、意志をすごく感じました。
グループビジョン「次の道を発明しよう」は、英訳すると“Inventing our path forward, together.”。
日本語と違い、英語では「together」が入る。クルマはデザインだけでなく、仕入先や販売店、生産など、さまざまな現場で多くの人間が関わっている。
ハンフリーズCBOは「together」には強い意味が含まれているとし、グループビジョンから翌年に発表したブランド再構築、そして今回の知財功労賞受賞はつながっているという。
ブランド再構築は、センチュリーをトップに、レクサス、トヨタ、GR、それぞれのブランドに込められた意志を、もう一度定義する活動だったと語る。
ハンフリーズCBO
レクサスは何のために存在しているのか。トヨタは? ダイハツは? GRは? そしてセンチュリーが、その中に入ると、どういう役割になるか?
それぞれのブランドの意志が定義できてくると、デザインとしては、エンジニアリングも含めてコンセプトをつくる道筋が、より明確になる場合が多いです。
レクサスだったら、例えばジャパンモビリティショーで出した6輪車とか、カタマラン(双胴船)。トヨタならアフリカを走るIMV ORIGINとか。
あの5ブランド再構築によって、デザインだけではなく、設計も販売も、皆あのメッセージで、ある意味自信を持ってやっていけるようになりました。
結果的に、(両脇に座る竺原、服部に視線を送って)この素晴らしい皆さんと力を合わせて、一つのモノにすることができたんです。この活動は、ものすごく大事でした。
竺原、服部ら知財部にとっても、こうしたトヨタの変化は業務を遂行するうえで、動きやすくなったという。
服部
我々はブランド自体を考えるような部署ではないですが、そういった意志を持って考えられたデザインについて、意匠登録出願(意匠出願)を行うことで意匠権を確保しています。
クルマ全体の意匠を出願するのは当然ですが、特徴的な部分を(デザイナーに)聞いて、その特徴部分についても意匠出願を行うことで、権利化を図っています。
竺原
やはりブランドが定義されることで、何が大事なのかが、よりわかるようになります。
意匠権の取り方も、例えばクルマのデザインの中で、ブランドアイデンティティを考えると、どこが大事なのか特定しやすくなります。
そういったことが明確になると、知財部としても非常に活動しやすく、付加価値を高めるような意匠権の取り方も検討できるようになります。
ハンフリーズCBOはさらに「(ブランドの意志が)明確になればなるほどデザインに特徴が出てきます。特徴が出てくるということは、他と違ってくる。違ってくると、やはりしっかり(権利として)押さえないと守れなくなります。だから(デザインも知的財産権も)全部つながっていると思います」とも加えた。