中東カタールで販売代理店業を営む創業家3代目が日本を訪問。未来ある若い経営者候補に豊田章男社長が伝えたこととは?
改善≠効率化
豊田社長はこの織機に採用されたもう一つの発明について説明をするにあたり、当時の織物工場の問題について話し始めた。
当時、工場で働いていた女性は肺を痛め、病気になることが多々ありました。
糸がなくなると、シャトルの穴の中から吸い出すようにして糸を通していた。しかし、綿埃が舞う環境では、衛生上の問題があった。
それを改善するために、ピッと引っ張って糸を切れば(反対側に設けた)穴に通る。それが特許の一つです。
「トヨタ=改善」と言われます。ただ、トヨタ流の改善は、まず現場に立って、現実を見る。そこで何に困っているかを見るのが出発点です。
今だとすぐ「改善=効率化」とか「生産性を上げる」と言われますが、それは結果です。
皆さんのように、社会で中心になるビジネスマンだと、生産性を上げるという結果を求めがちになると思います。
でも、「その目的は何?」「なぜその問題を解決したいの?」というのは、現地現物で、自分で探るしかないと思います。
喜一郎ら先人による“3つのI”
これらの特許を、当時、世界の織機業をリードしていたプラット社に売ることによって、トヨタは資金を得ました。
そういうと、今度は奥に展示してあるトヨタ初の量産乗用車「トヨダAA型乗用車」の方へ向かいながら説明を続けた。
その資金で息子の喜一郎がクルマを開発しました。最初にやりだしたのは、クルマのイミテーションです。
アメリカのシボレーを輸入して、それを(分解して)部品に分け、コピーしようとした。ですから、トヨタの最初の自動車事業はイミテーション。
ところが、その後、喜一郎と仲間は何をやったか?もっといい部品のつくり方はないか、もっと数を減らせないかとインプルーブメントした。
イミテーションからインプルーブメントになった後、我々の先人たちは、さらにイノベーションにつなげていった。
トヨタの先人へ想いを馳せてきた豊田社長。今度は、3人の祖先への想いについて語り始めた。
皆さんのお国の初代の方々が、トヨタビジネスをやっていたときのクルマと今のクルマは違います。
今は、信頼も相当大きくなりました。それは先代たちがインプルーブメントを重ね、イノベーションに変化させてきたからだと思います。
ですが、皆さんのおじいさん方は、商品として、海のものとも山とものともわからないトヨタの商品を扱ってくれた。その勇気に、私ども本当に感謝をしております。
AAB社も、トヨタはおろか、日本という国でさえ、まだあまり知られていなかった時代にトヨタ車を扱う決断をした。苦労はしても、今ほどいい時代を見ていない初代を思い、感謝の言葉を述べた。
社長を戒めるもの
創業の原点ともいえる2つの発明品について説明し終えると、それらをこの場所に置く理由を語った。
こちら(トヨダAA型乗用車)をつくったのは私のおじいちゃん。あちら(G型自動織機)をつくったのは私のひいおじいちゃん。私がよく来るこの場所にこの2つを置いている意味は「創業の原点を忘れるな」と自分を戒めるためです。
皆さんのような継承者もくる。創業者のお孫さんなり、ひ孫さんが来られたときには、その方々を介して、創業者に感謝を伝えたいと思っています。
改めて、3人を温かい目で見つめ直した豊田社長。送ったのはこんなアドバイスだった。
皆さんのような方々は、世の中が変化する中でも、時々、原点に戻る。そして、創業者たちがどういう気持ちで、どういう目的で、いろんな方とこのビジネスを始めたのかを考える。そういう時間を持っていただきたいと思います。