国内最高峰の四輪レース、スーパーフォーミュラ。「このままではなくなってしまうかもしれない」という強烈な危機感から生まれた改革の最前線を取材した。
国内最速にして最高峰の四輪レース、全日本スーパーフォーミュラ選手権(主催:日本レースプロモーション[JRP])。今年は、日本でフォーミュラレースが始まって50周年の節目を迎える。
そんな中、モータースポーツの次の50年を見据えた、あるプロジェクトが始まった。
「このままではレースがなくなってしまうかもしれない――」。そんな強烈な危機感のもと、一致団結して立ち上がった“クルマ好き”たちの改革の最前線を取材した。
この記事は本田技研工業のオウンドメディア「Honda Stories」編集部との共同取材をもとに制作しています。ホンダとトヨタ、それぞれの切り口で記事にしているので、是非、ご覧ください。
かすんでいた「国内最高峰」
日本の四輪レースには2つのトップカテゴリーがある。一つが「ハコ車」と言われる市販車ベースの競技車両を使い、ドライバーが2人1組で戦うSUPER GT。
もう一つが、1人のドライバーがフォーミュラカーというタイヤがむき出しのレース専用車で競うスーパーフォーミュラ。
その魅力を一言で言うと、前者は異なるマシン・クラスが混走する「バトルが激しい」レース。後者はマシンの性能差が少なく、「最速ドライバーを決める」レース(関連記事)。
モータースポーツファンを魅了してきた国内の2大レースだが、2000年代に入り、明暗は分かれてきている。
コロナ前の2019年に行われた1レースあたりの観客動員数(土日2日間合計)を比較すると、SUPER GTが約5万人。一方、スーパーフォーミュラは約3万人と6割の水準。いつしか両者の間には、埋めがたい差ができつつあった。
改革を生んだある事件
そんなスーパーフォーミュラに、ある転機が訪れる。2020年8月、新型コロナウイルスの感染拡大で4カ月遅れの開催となった開幕戦に、参戦チームの一つ、ROOKIE Racingの豊田章男オーナー(トヨタ社長)が足を運んだ。
チームを激励したのち、豊田オーナーの申し入れで行われた打ち合わせの場で、JRPの上野禎久社長(当時は取締役)はこんな感想をもらった。
「ドライバーにとって意義のあるレースで、魅力もある。彼らもこのマシンに乗れることを喜んでいる」
「褒められたのかな?」と思ったのも束の間、耳の痛い指摘が飛んできた。「でも、おもしろさがまったく伝わってないね――」
無理もなかった。コロナ禍のレースのため、入場制限を設けて実施。さらに、メカニックなどピットの人員を減らすため、レース中は給油を禁止し、タイヤの交換義務をなくす特別ルールを適用した。
結果、決勝レースではまったく波乱が起きず、チェッカーまで、ほとんど順位が入れ替わらないレースに。
「ずっとパレードのような隊列走行を見ているみたいだった。あれではファンも盛り上がらない」と豊田オーナー。
上野社長は当時をこう振り返る。「あのレースが転換点だった。こういう改革を生んだんだから――」。
間もなく、トヨタのトップとして、豊田社長から同じくレースにエンジンを提供する本田技研工業の八郷隆弘社長(当時)に連絡が入った。
「スーパーフォーミュラは自動車産業にとって大切なレースのひとつ。もっと魅力あるレースになるよう一緒にやっていきませんか?」
改革はここから動き出した。
SF NEXT50、始動
日本の自動車産業で働く人の数は550万人に上り、クルマ文化を育むモータースポーツ関係者もその一員である。
その中でも、中心的な役割を果たしているドライバーたちにとって、スーパーフォーミュラは特別なレース。
エンジン以外、タイヤ、シャシーなどの主要なパーツはワンメイク(単一メーカーによる提供)で、ほぼ同じ条件のマシンを使って競う個人戦。ドライバーの腕が純粋に問われることから、その技能向上に大きな役割を果たしてきたと言われる。
世界三大レースの一角に数えられるル・マン24時間レースでTOYOTA GAZOO Racing(TGR)の5連覇を築いてきた中嶋一貴TGR-E(TGR-Europe)副会長、小林可夢偉チーム代表兼ドライバー、平川亮ドライバーも長年このレースに出場している。
海外選手のチャレンジの場としても機能しており、2020年9月にF1(FIAフォーミュラ・ワン世界選手権)初優勝を果たしたピエール・ガスリー選手、2021年にインディカーでシリーズチャンピオンに輝いたアレックス・パロウ選手らも、ここで実績を積んできた。
しかし、残念ながら、その魅力が十分に伝わっているとは言えない。
「業界がもう一度、このスポーツの楽しさ、見せ方を根本から変えないとダメだ」(上野社長)。そんな想いを共有した、ドライバー、メーカー、プロモーターの改革の旗印として、昨年10月、「スーパーフォーミュラNEXT50(ネクストゴー)」(以下、SF NEXT50)が始動した。