コラム
2022.02.14
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カッコ悪くても勝つ。カーリング女子日本代表・吉田知那美選手が挑む「北京2022冬季オリンピック」

2022.02.14

「そだねー」は相手を否定しないコミュニケーションから生まれた言葉だった! カーリング女子日本代表・吉田選手が過ごした4年間に迫る。

平昌2018冬季オリンピックで一躍脚光を浴びたカーリング女子日本代表。日本カーリング界初の銅メダル獲得という快挙はもちろん、「そだねー」「もぐもぐタイム」で注目された選手たちの親しみやすいキャラクターも相まって、日本中がカーリングフィーバーに沸いた。

日本代表チームとなったロコ・ソラーレに所属する一方、ネッツトヨタ北見の一員でもある吉田知那美選手は、今回の「北京2022冬季オリンピック」が自身3度目のオリンピック。平昌からの4年間をどう過ごし、どんな思いで北京に挑むのか。森田京之介キャスターが、カーリングの見どころや魅力もあわせて話を訊いた。

「世界一の事前準備」をして挑む北京2022冬季オリンピック

――いよいよ北京2022冬季オリンピックです。今の心境はいかがですか。

「平昌2018冬季オリンピックからの4年間は長かったですか、短かったですか」とよく聞かれるんですけれども、しっかり4年間を過ごしたな、というのが私の感覚です。楽しいことも苦しいこともありましたが、今回のオリンピックに向けて本当にたくさんの事前準備をしてきました。「世界一の事前準備をした」という気持ちで大会に臨めることを、今はワクワクドキドキ楽しみにしています。

――4年前の平昌2018冬季オリンピックではそこまでの余裕はなかった?

4年前もワクワクドキドキはしていましたが、大会を終えてみて「もっとこういう準備をしておけばよかった」というような反省も多くて。でも今回は、4年前の失敗や課題を目標に変えて、それを達成しながら私たちの足でしっかりと歩んできた。そう実感できる大会になるんじゃないかと思っています。

平昌での英国との3位決定戦では、相手の最終投のミスショットで決まりました。同じ銅メダルではあるものの、勝ち心地がよかったかと言われたら正直そうではなかった。私たち日本代表は誰にもマークされていないダークホース状態で臨んだ大会だったので、そのぶん精神的アドバンテージがあったとも言えます。でも今回は、勝っても負けても言い訳のできない大会。日本や世界で応援してくださっているみなさんをはじめ、カーリングを初めて観るみなさんにも、私たちがこの4年間をどう過ごしてきたかが伝わるような大会にしたいです。

――4年間が詰まった戦いぶり、楽しみにしています。「特にここに注目してほしい!」というポイントはありますか。

メダルを獲得したことで世界中からマークされ、日本でも「ロコ・ソラーレにだけは負けない!」といった声をいただくようになりました。この4年間で勝ち負けを繰り返す中で、負けることに大きなリアクションがある苦しみも味わいました。もちろん、今も挑戦者であることに変わりはないのですが、4年前と違う部分はそこかなと思います。

また、平昌のときに主将を務めた本橋麻里さんが休養してロコ・ソラーレ代表理事になり、平昌で女子カーリングの解説を担当した方が選手復帰してチームに加入してくれました。7年ぶりの選手復帰、12年ぶりのオリンピック出場という、世界的にも例がない挑み方。その点にもぜひ注目してほしいです。

――改めて、北京2022冬季オリンピックの目標を教えてください。

「世界一の事前準備をすること」と「自分たちの最高のパフォーマンスをオリンピックの舞台で更新すること」。メダルを獲れるかどうかは相手ありきですが、この2つは自分たちでコントロールできることだからです。あの極限の舞台で、自分たちのやりたいカーリングをやり切ることができたら、どんな結果だったとしても私は100点満点をあげたいです。

自身の価値観を変えた、宇宙飛行士・野口聡一さんとの出会い

――吉田選手はチーム全体の視点をすごく持っていらっしゃいますね。ご自身の成長という観点では4年前に比べていかがですか。

技術的な向上はもちろんですが、一番の大きな変化はオリンピックへの向き合い方。4年前の私は、自分の弱いところや情けないところを誰にも見られたくなくて、いつも強くいようと頑張っていました。結局テレビの前でいっぱい泣いてしまったんですけど(笑)。でもこの4年間で考え方が変わりました。「自分の弱いところを受け止めよう」「弱くても情けなくてもカッコ悪くても勝つ方法がある」と思えるようになったんです。だから今回の北京は、メンタルトレーナーなどいろんな人の力を借りて、いろんな人に依存しながら、いろんな人と一緒に戦うオリンピックになると思っています。

――考え方の転換には何かきっかけが?

大きなきっかけは、宇宙飛行士の野口聡一さんとの出会い。東京大学先端科学技術研究センターの熊谷研究室が実施する研究会でお会いしました。当時、野口さんは3度目の宇宙飛行、私は3度目のオリンピックを控え、野口さんらしいミッション達成の仕方、私らしいオリンピックの戦い方を研究室でサポートしていただいていました。

宇宙飛行とカーリング。まったく別ものに見えますが、実は共通点があるんです。宇宙飛行士のみなさんは同じ宇宙船に乗るクルー同士で厳しい訓練をおこない、お互いに弱みを見せて認め合ったり、極限に追い詰められたときの反応を確かめ合ったりしながら、チームでミッション達成を目指していく。ウィンタースポーツでは珍しいチームスポーツであるカーリングもまた、同じようなプロセスを経て大会に臨みます。

オリンピックという極限の舞台では、精神的に追い詰められて普段はしないような言動をしてしまうことがあります。でもそういう弱い自分を否定するのではなく、「今の私は極限状態にあるからこの反応が起きているんだ」と自覚して、チームのみんなにも知っておいてもらうことが重要。極限に追い詰められても勝つことを諦めない。宇宙飛行士なら、ミッション達成や生きることを諦めない。野口さんとの共通点を知り、いろんなアイデアをいただいたことで、私自身の価値観が大きく変わりました。

カーリングは「置きたいところに置けない将棋」

――カーリングという競技の面白さは、選手目線ではどう捉えていますか。

「氷上のチェス」という表現は間違いないと思うんですけど、私はチェスがわからなくて…(笑)。私の中では「置きたいところに置けない将棋」という表現をしています。頭の中に勝つためのセオリーはあるものの、カーリングではその駒を自分たちで運ばなくてはならず、しかも思ったとおりに運べないこともある。そういうイレギュラーの中で、何手も先を読んでシミュレーションして、持ち時間内に4人全員の同意を得た上でベストな選択をしなければいけません。チームワーク、瞬発力、判断力が試されるスポーツであり、そこが見どころかなと。

最近重視しているのは、記憶と確率。氷は生きものなので、1試合の中でもウニョウニョと状態を変えます。刻々と変化する氷と対話しながら、氷の状態やストーンの動きといった情報を4人で役割分担して記憶し、必要なときに取り出して確率を判断しつつ戦略を決めていく。そういうプロセスを氷上で踏んでいます。

――チェスに馴染みのない日本人は多いので、「置きたいところに置けない将棋」という表現はいいですね。勝敗を分ける要素としては、戦略と技術、どちらのウェイトが大きいのでしょう。

ストーンを投げることをデリバリーと言いますが、デリバリーが安定していなければ正しい情報収集ができません。ですので、まず重要なのはデリバリー技術で、すべてはその土台の上に成り立っています。

――チーム内のコミュニケーションで意識していることはありますか。

絶対に相手を否定しないこと。どんな意見に対しても「なるほどね」「そうだね」と一度受け止め、選択肢を広げる目的で「こういうアイデアもあるよ」と意見するようにしています。平昌2018冬季オリンピックでフィーチャーしていただいた「そだねー」という私たちの口癖も、言葉自体は意識して使っていたわけではなくて、相手を受け入れるというモットーから来ているものなんです。

――豊田章男社長はよく「多様な課題がある今の世の中、多様な選択肢が必要。選択肢を広げよう」と話していますが、吉田選手のお話とリンクするなと感じました。「そだねー」という言葉はみなさんの中では自然というか、当たり前だったんですね。

そうですね。メディアで取り上げられるまで、自分たちにそういう口癖があることも、さらに北海道弁でなまっていることも全然気づいていなくてびっくりしました。流行語大賞までいただいてしまって(笑)。

トヨタグループのアスリートとして

――ネッツトヨタ北見ではどんなお仕事をしているんですか。

海外遠征中以外は、トヨタauで携帯販売のアシスタントスタッフをさせていただいています。正直、販売員としての戦力にはなれていないのですが、ネッツトヨタの一員として私に何ができるかをいつも考えていて。みなさんが少しでも楽しくリラックスして過ごせるように、お店ではよく歩き回ってお客さまと世間話したり、スタッフのみなさんに近況報告したりしています。

――スポーツだけに専念するアスリートもいますが、仕事があるという今の環境は吉田選手にとってどうですか。

100%プラスになっています。私にとってネッツトヨタ北見は、実家のような「戻ってくる場所」であり、自分の土台。カーリングで頭がいっぱいになってナローフォーカス(狭い視野)になったときも、会社に行けば吉田知那美というひとりの職員に立ち戻れます。心をいい状態に保ち、社会人として社会の動きを知るためにも、なくてはならない場所ですね。会社への感謝の気持ちは、戦う姿勢や結果で返したいです。

――最後に、トヨタのアスリート仲間に向けてメッセージをお願いします。

私がネッツトヨタ北見に入って一番よかったと思うのは、トヨタグループの繋がりや支えがあることです。アスリートは孤独と隣り合わせ。光が当たらない時期は苦しいし、遠征やチーム内で寂しい思いをすることもあります。でも、世界中に会社があり仲間がいるトヨタグループの一員というだけで、応援してくれる人がいて、絆を感じられる。トヨタのアスリートのみなさんは勝手に仲間だと思っているので(笑)。一緒に励まし合いながら、一緒に戦っていけたらいいなと思っています。

2月16日の放送部では、カーリングの競技説明や、吉田選手を含むグループ会社の選手たちを特集する。そちらも是非チェックしてほしい。

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