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「緊急インタビュー 豊田章男社長に聞く」~今回の話し合いに何を見たのか~

2019.03.13

「これほど距離を感じたことはなかった」。異例の展開となった労使協議。話し合いを終えた社長の豊田に心境を聞いた。

「これほど距離を感じたことはなかった」。異例の展開となった労使協議。話し合いを終えた社長の豊田に心境を聞いた。

Q.労使協議会で「豊田綱領」の解説をした理由は

豊田社長

トヨタも大きくなったことで失ったことはある。トヨタは創業から、どういう想いを持ってこの世に生を得たのか、いわば憲法のようにずっとあるのが、「豊田綱領」だと思う。社長になって何年かした時に、「トヨタらしさを取り戻す闘いをしている」と口にするようになった。「豊田綱領」は代々、その時々、その時の人が、自分なりに消化した内容で解説し、みんなに伝えていくもの。トヨタで働く意義や目的、トヨタというチームでプロになること、こうした「チーム憲章」を改めて言う必要性を感じた。だから「豊田綱領」を振り返った。「なんでも時代に合あわせればいい訳ではない」、「トヨタで働きながら社会に貢献するためにも、豊田綱領を、我々の価値観として、しっかり聞いてほしい」という感じが強かった気がする。

私は十何代目かの社長で、よく創業ファミリーと言われるが、ひとつのタスキを持っている一人の継承者。それぞれの継承者が、それぞれの時に、自分の価値観でやってはいけない気がする。「原点に時々戻りなさい」、「(原点の)解説を、その時々の継承者がやりなさい」という2つがある。今回はそのタイミングだったと思う。

Q.「家族」という言葉にこだわる意味は

豊田社長

解決できないことばかりの話し合いだが、家族の縁は切れない。そういうことだと思う。普通であれば、問題解決が出来なければ、「他の人と一緒にやらせてもらいます」と言える。家族には言えないんじゃないか。何か問題提起があると、問題解決する。その方が格好いいです。ただ、家族と言った瞬間に格好いいものはどこかに行ってしまい、非常に格好悪い、だけど格好悪いものをいかに続けていくかによって、本当に大変な時の「一体感」、「絆力」が上がると思う。それが、私が思っている家族。

創業時代、自動車は海の物とも、山の物とも分からないようなベンチャーだった。それに付いてきてくれた人を大事にしたのが、この会社の原点。社員、仕入先、販売店、誰であれ、同志と呼べる人たちは、やはり家族と思ってやってきたからこそ、今があるのではないか。問題解決できない話し合いが出来るのが、家族なのではないか。

Q.今回の話し合いは、この先にどうつながるのか(「行司役を降りた」という発言の真意は)

豊田社長

トヨタは労働争議の後、労使宣言を経て、組合とマネジメントがクルマの両輪かのごとく、毎年話し合いを続けている。「会社は従業員の幸せを願い、従業員は会社の繁栄を願う」。これはトヨタの良い伝統であり、この伝統を維持しているのは、二人の議長(河合副社長)と副議長(組合の西野委員長)ではないかと思う。この二人がしっかりと運営をして、私は行司役として、生意気な言い方をすれば、お天道様となって判断をしていくことこそが、何十年も続いてきた「話し合い」を機能させていると思っていた。

トヨタは様々なステークホルダーに支えられている(自動車)産業の中にあり、格差が広がってはいけない。一方でデフレ脱却も重要との信念でやってきたが、良くも悪くも、トヨタのベアがひとつの基準になっていた。そうなることで、益々格差が広がりつつあると感じていた。昨年も始めからベアの非公表を決めていた訳ではないが、リアルストーリーとしてそうなった。また、今年もこういうこと(賞与を夏季分のみ回答、全員一律の処遇見直し議論など)になった。

この2年(の変化)を通じて、組合と会社が、「会社は従業員の幸せを願い、従業員は会社の繁栄を願う」ための話し合いはこうだと、今日を起点に動き始めてくれれば良いと思う。

去年と今年は大きな変化点。この変化点を議長と副議長に負わせてはいけないのではないかと思い、行司役を降りた。今回は、明確に「決める」という立場に(自分の立ち位置を)変えた。これは、そう(何度も)やってはいけないこと。また来年の労使協の時には、行司役に戻れるように、議長と副議長にもお願いをした。

その心は、トヨタは社長という立場の人が、どちらにも属さず、お天道様のような立場で、確かめる人がいないといけないと思う。今回も世間からはどう言われるかわからない。わからないが故に、今回が組合と会社の話し合いの再出発になるのであれば、そこは敢えて自分が出る所だと判断して、行司役を降りた。

Q.「一律」に対する考え方は

豊田社長

「一律(イコール)」は、自分の中では“NOT FAIR”。「イコール」は、「フェア」ではない。

これは、組合、会社、いろいろな方と、私の考え方に相違があると思っている。これは、時間をかけて、どう評価されるのか、どうみんなが納得するのか、みんなが理解するのかを見ていきたい。

Q.高度経済成長時代、「企業内組合」「終身雇用」「年功序列」が人事の大切な要素と言われていた。いま、大切に思っていることは何か

豊田社長

3つの要素の内、「企業内組合」は、今も大切だと思っている。トヨタは改善を重ねていく会社なので、時々、改革が必要になってくる。しかし、改革をするから全てを壊せばよいというものではない。そういう時に、同じ企業の中で立場の違った話し合いが出来るのが企業内組合。だから、企業内組合にはこだわっていきたい。

「年功序列」については、一部のエリートだけが、やる気になるような人事は反対。しかし、これはエリート自体を否定しているという訳ではない。今は、エリートの定義が間違っているのではないかと思っている。

自分が思うエリートの定義は「どんな立場になっても絶えず成長し続けられる人」。ところが「学歴」「自画自賛の実績」、「自分の実力を超えた立場」、この3つが揃うと、成長が止まってしまう。これを打破したい。

実績は絶えずベターベターベターで過去を上回っていくべきものだから、過去の実績を振り返ってもしょうがない。

肩書き(立場)というのも、その肩書きを何に使うかが大切になってくる。肩書きが無い人達の様々な“もがき”や“苦しみ”を、肩書きのある人が解決していく。こういうことが重要。「年功序列」に置き換わる言葉は見当たらないが、「成長し続けられる仕組み」と、その中での「適材適所」が大切なのだと思う。

もうひとつの要素「終身雇用」は、あってもいいと思っている。一方で、「ある年齢に達したから」とか、「大卒であれば何年目で昇格する」とか、そういうことは、まったくナンセンスだと思っている。チャンスは、平等に、順番に、回ってくるとは限らない。だからこそ、「いつでも出番があるぞ!」と思える会社にしたいと思っている。

だから、人によっては終身雇用だが、ある人は40歳くらいで自身がやり切ったと思えば、他の会社に移るということも“アリ”だと思っている。

これもどんな言葉に置き換えて表現していけばいいか分からないが、人生65年と考えてやっていく考え方もあるし、そういう人も、いつでも「自分は出番があるんだぞ」という緊張感を持ってやれるような環境にしていきたい。

昔から続いている様々なルールを崩してきている。それを考える時に、自分自身の中にある大切な考えを整理すると「適材適所」、「成長し続けられる人」、「自分の肩書きを誰のために使うか」の3つ。

自分自身が(社長の立場を)変わらないという前提で話をしている訳ではない。それも大切なことだと自分で思っている。結果、こうして10年近く、社長という立場を続けているが、社長になった瞬間から、全ての責任を負う立場になっているのだから、いつ「このポジションは終わり」と言われるか分からない。社長になってすぐに公聴会に行った時からそう思っていた。

この10年で、様々な問題を解決できたか?と問われれば、まだまだ課題が出てきている。自分が社長の時にしか解決できないようなことを、今やっておかないと、このあとにタスキを継ぐ人は大変だろうなという想いでやっている。

自分は、会ったことない祖父の喜一郎に、感謝と憧れの想いを持っている。今すぐ、理解して欲しいと言っても無理なのかもしれないが、いつか、自分が死んだあとでもいいので、今やっていることが評価されれば、そう思ってくれる人が一人でも出てきたら有り難い。逆に、「あの人のおかげでメチャクチャにされた」と言われるのは嫌だから、そのために、いま頑張っている。

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