「もっといいクルマづくり」の重要拠点に潜入。トヨタの"味"をつくるために行われていることとは。シリーズでお伝えする第一弾。
評価ドライバーと、レーシングドライバーの違い
ここで大阪GXが、トヨタが評価ドライバーを育成するうえで大切にしていることを教えてくれた。マスタードライバーだった成瀬弘氏は、評価ドライバーの能力を、「できる・分かる・言える」の3つだと定義したという。
大阪GX
“できる”というのは、求められた条件で確実に走ることができることです。クルマの性能をフルに発揮して何回でも同じ現象を再現させることが“できる”。
“分かる”というのは、その現象がどうして起こるのか、クルマのメカニズムを理解したうえで、原因がサスペンションなのかボディ剛性なのかタイヤなのかが“分かる”。
“言える”というのは、エンジニアや関係部署に対して、具体的にどういう現象が起きているのか、その原因や直すための手立てを含めて言語化し、“言える”ということです。
ただの運転技能ではなく、クルマが発する微かな歓声や悲鳴を聞き取り、それをエンジニアに的確にフィードバックする能力が求められるのだ。
大阪GXの発言を受けて、矢吹主査がこう続ける。
矢吹主査
サーキットのラップタイムが速い人が、優れた評価ドライバーというわけではありません。
評価ドライバーにとって一番大事なのは、いかなる状況においても冷静かつ真摯に「もっといいクルマづくり」に取り組める人間力と、センスだと思っています。常に安全性を意識し、絶対にクルマを壊すようなことがあってはいけません。
「人間力があって、クルマの性能を100%まで安全に出し切れる人財」を育てていきたいですね。
ラップタイムという話が出たところで、評価ドライバーとレーシングドライバーの違いを尋ねてみた。
矢吹主査も大阪GXも、ニュルブルクリンク24時間をはじめとするレースにドライバーとして参戦しているから、その違いがよく分かるはずだ。
大阪GX
車両に高い負荷をかけるだけの技量があって、起こった現象を伝えるという点では、評価ドライバーも、レーシングドライバーも、似たようなことをやっていると言えます。
限界を超えたところまで速く走らせて評価してくれるのがレーシングドライバーであり、評価ドライバーは限界までの領域でクルマの性能を出し切り、解決策まで提案する。役割的にはそういった違いがあると思っています。
今回はここまで。次回は、感覚で語られがちな“乗り味”について伺った。
最新のデジタルツールでさえ、はじき出せないレベルの“気持ちいいクルマ”。人にしか表現できない聖域など、評価ドライバーの真髄が語られる。乞うご期待!