あらゆる業界で注目されるUXデザインだが、トヨタのUXデザイナーが取り組んでいた驚きの内容とは。
外形や内装など、カーデザイナーの仕事は多様である。今回話を聞いたのはUXデザイナー。
UX(ユーザーエクスペリエンス)デザインとは、商品やサービスを通じた「顧客体験を設計」することを意味する。とは言っても、トヨタのUXデザイナーがどのような仕事をしているか、イメージしづらい読者も多いのではないだろうか。
印象的だったのが、「UXデザイナーの仕事って何?」という質問に、一斉に困ったように考え込むデザイナーたちの姿。つまり、容易には言語化できない「まだない何か」に挑むチームなのだが、一体何をしているのか?
知らなかったメーター表示のトリビア
冒頭の「UXデザイナーの仕事とは?」の質問に、少し間を置いて答えてくれたのが、クルマ開発センター ビジョンデザイン部 UXデザイングループの加藤康朝主任だ。
加藤主任
私たちが考える、クルマのUX(ユーザー体験)は“空気”のようなものです。
“空気”にはAirとAtmosphere(雰囲気)の2種類がありますが、我々がデザインしているのは後者。ブランド体験として、高級感や高揚感やリラックスといった空気感を伴った車内体験のすべてです。
たとえばドライバーが必要とする情報を、いかに自然に、いかに見やすくするかも重要です。それらは、安全安心に直結するものなので。
デザインを工夫することで、安全安心につながる運転判断をサポート。かつ、空気のように意識させないことも大事にしているという。つまりは、人とクルマがつながる感覚である。
その一例として、クルマ好きのトヨタイムズ読者でさえ、きっと気づいていないUXデザインのトリビアを教えてくれた。
レクサスNX。そのメーターデザインのギミックにお気づきだろうか。下記が走行中の画面。
そして、こちらが停車中の画面。どんなギミックが隠されているのか、じっくり見比べていただきたい。
実は、メーター中央部の文字の大きさを変えているのだ。
「走行中はスピード数値」を大きく。一方、「シフトがPやRの際はシフト表示」が大きくなっているのだ。それぞれのシーンで、最も重要な情報を、最も認識しやすくするUXデザインである。
クルマのUXデザイナーは、元をたどれば、クルマのカーナビゲーションシステムの開発が主な仕事だった。しかしインパネ周りのデジタル化に伴い、担当領域は急拡大。
いまでは「人とクルマをスムーズにつなげる」デザイン部隊に変化。そのため、多様なスキルを持った人材が求められており、加藤も、以前は携帯電話の画面をデザインする会社に勤めていたという。
運転中にオセロを楽しめるか
次に話をしてくれたのが、加藤と同じUXデザイングループの市川ひなただ。学生時代は、webアプリケーションのプログラミングを専攻していたという。
「デザインは全然やっていなかった」とさえ話す市川。彼女が関わっている一風変わった実験が下記である。
この写真、ドライブシミュレーターで「運転中」のシーンなのだ。運転席と助手席の二人でオセロを楽しんでいる。想定外の「ながら運転」。一体、何のために?
市川
私たちUXデザイナーは、体験価値をデザインすることが役割だと考えています。将来、自動運転になったときに、車内がどこまで自由になるのか。運転席でオセロを楽しめるかの検証です。
ほかにも、ステアリングに、PCのマウスやゲームのコントローラー、フライトシミュレーターのジョイスティックなど、さまざまなデバイスを連結。
操作デバイスの可能性も含め、シミュレーターにあらゆる指令を書き加え、次世代の車内の楽しみ方を探っています。
これからは、自動車会社に限らず、あらゆる企業がモビリティをつくっていく。そんな時代の「クルマ屋」のUXデザインはどうあるべきか。
次ページで、20代の女性デザイナーが「愛車」であるために必要なことを語ってくれた。