「認知症の方の外出は不安」と思っている人は必読。当事者が語る真実と前例なきデバイス開発

2024.09.20

認知症の方が外出中に迷う不安を解消する腕時計型の徒歩ナビ「ツギココ」。誤解や偏見の多い認知症に懸命に向き合っている

もし、ご家族が認知症と診断されたらどうしますか?

本人の安全のためにお出かけを制限し、GPSを付け、余計なものを買わないために財布を持たせないなんてこともよく聞きます。でも、もしあなたが認知症と診断された日から、突然外出を制限されたらどう思うでしょう?

認知症の誤解だらけの実態がいくつも語られた今回の記事。身近な人が認知症になられても、住み慣れた環境で暮らし続けられるようにどうか最後までお読みいただきたい。

子どもの数と認知症患者の数、実は…

「認知症・軽度認知障害」の方は全国に1,036万人で、なんと「小学生以下」の人口とほぼ同じ。みなさんの町でも、子どもを見かける数と同じだけ実は認知症の方がいるかもしれない。

そんな認知症当事者の一人で、ご自身の経歴が映画にもなり、日本各地で講演活動を行う丹野智文さんに話を聞いた。

丹野さんはネッツトヨタ仙台のトップセールスマンとして活躍中の2013年、39歳で若年性アルツハイマー型認知症と診断されたという。

認知症当事者 丹野智文さん

診断されたときは「人生終わった」と思いました。家族も心配して、認知症に効果があるというものは何でも試させられました。

でも、その時期はいちばん最悪(笑)。自信をなくして落ち込んでしまう。すると進行も早まってしまうんです。

たしかに認知機能は衰えていく。でも今の時代はITを使えば補える。人の顔や場所は「忘れる」というより「確かさがない」のですが、だからこそITで補えばいいと思っています。

講演会で日本中を飛び回る丹野さん。スマホなどITツールを駆使することで、認知症でも問題なく一人で移動できているという。

認知症当事者 丹野さん

成功体験が大事なんです。

でも周りが「失敗させない」ように行動を制限し、工夫する機会を奪ってしまう。だから、成功体験もなくなり自信もなくしていく…。そうなると引きこもりやすくなり、進行も早まります。

私はいつも、地図アプリや乗り換え案内を使っています。いつも迷っているから家の近所で迷っても不安にならない(笑)

家族に「どこにいるの?」と聞かれるけど、どこにいるかわからないから困っているわけで、そんなときはテレビ電話でその場所の景色を見せればいいんです。

症状が軽度でも、家族が心配してGPSを付けることも多い。しかし丹野さんは「常に見張られて、本人が嫌がる場合が多い」と語る。認知症と診断されると自由に外出もさせてもらえない実態がある。

またスマホも、機能がシンプルなシニア向けに機種変更する人が多い。でも、いろんな機能を使えたほうが成功体験を積むことができる。周囲の思いやりが実は逆効果ということもあるのだ。

「認知症の症状は、100人いたら100通りある。だからこそ、説得より納得が大事。周囲が勝手に自由を奪うのはおかしい」と丹野さんは語る。

知っていましたか?見え方の変化を

我々は、福岡市が運営する認知症フレンドリーセンターも取材。「認知症になっても住み慣れた地域で、安心して自分らしく暮らせる」ことを目指す全国でも珍しい施設だ。

ここでも多くの驚きが。まず、床に敷かれたマットを見ていただきたい。

認知症の方は、このマットがどう見えるのか?擬似体験できるゴーグルを装着すると、一部の人にとっては地面に大きな穴が開いているように感じることもあるという。これは恐怖だ。

実は認知症には、視野が狭まり空間認識が難しくなるケースもあり、今いる場所が分からなくなり迷ってしまうこともあるとか。

だからこそ家族が行動を制限するのだが、それがどんどん自信を失う負のスパイラルに…

福岡市 認知症フレンドリーセンター 党一浩(とう かずひろ) センター長

これまで認知症は少数派でしたが、今後はマジョリティになっていく。認知症を隠すのではなく、カミングアウトできる社会をつくる必要があります。社会が衰退していくのではなく、将来に向けてアップデートしていくことが大切だと感じています。

一人では何もできなくなる。認知症にはそんなイメージがあるが、実際は誰かが注意していれば自立した生活を送れる軽度の方が7割だ。

福岡市 認知症支援課 住田篤 主査

社会参画することが、認知症の進行を遅らせることに有効です。軽度の方もたくさんいらっしゃり、まだまだ活躍できる方がたくさんいるんです。

ストレスとエラーが認知症の進行を加速させるので、環境を変えていくことも大事。「まだやれる」という気持ちが希望につながります。

認知症に関する機器は「家族の負担軽減」を目的としたものが多く「本人の自由な移動」をサポートするものはほとんどない。そんな状況に違和感を持ったのがトヨタの山田浩史(やまだ ひろし)だ。

彼は、軽度の認知症当事者が一人で安心して外出できるように、誰でも簡単に使える徒歩ナビ「ツギココ」の開発を進めている。

事前にルートを設定し、ワンタッチで案内開始。ナビ画面は、シンプルな矢印でわかりやすく、曲がり角に近づくと振動&音声で教えてくれる。

道を間違えたときは「ルートを外れています」、長い直線では「この道で合っています」と教えてくれ安心につながる。

先進プロジェクト推進部 山田浩史 主幹

高齢者が免許返納しなくていい社会を実現するため、10年以上自動運転のエンジニアをしていましたが、認知症患者の多さに驚いて、その方たちの移動課題を解決しようと思いました。

丹野さんのように工夫して解決されている方もいる。そんな工夫を多くの人に広めるイメージで、当事者の想いを大切に自治体や経済産業省などあらゆる人に協力をいただきつつ開発を進めています。

山田は「実は『ツギココ』というネーミングは妻が考えてくれて、ハートフルな響きが大好きなんです」と笑顔で答えてくれた。

ところで、認知症のことは「視力」で考えるとわかりやすい。きっとこの話を聞くと、あなたも認知症への向き合い方が変わるだろう。

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