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人事トップが豊田章男と話した「例外をつくろう」の真相と、人事施策の裏側

2024.11.08

トヨタの人事施策の裏側を、次々と紹介するシリーズ「全員活躍をどう実現するか」。初回は人事トップに直接聞いてみた!

一律には限界がある

「全員活躍」とは、具体的にどのような状態になることを指すのか?

東本部長

社員一人ひとりが「自分はこの職場に必要とされている」と思える瞬間が持続している状態。自分の存在が100%職場で受け入れられていると感じられる状態を目指しています。

ピンと張り詰めながら仕事を続けられる人もいれば、介護や育児と両立しながら働く人もいる。あらゆる事情をもつ社員一人ひとりに寄り添い、その人の力を引き出すには、一律のルールだけでは限界がある。

「全員活躍」の実現に向けて、その人、その瞬間、その状況を踏まえ、会社と職場がどうサポートするのか。これを考え続けるのが人事の仕事です。

東本部長はさらに、豊田会長にかけられた言葉を明かしてくれた。

東本部長

豊田会長(当時社長)と人事施策を考えるなかで、常にあることを目指そうと言われてきました。会長の言葉をそのままお借りすれば「例外をつくろう」と。

一律の施策ではなく、特区みたいにいろんな施策をつくったり、一人ひとりに合ったオーダーメイド的な施策を考えていく。みんなが自分の力を発揮できる環境か。そこにはゴールがないと思っています。

ここ数年の労使協議会も様変わりしてきて、誰もが本音で話し合えるようになってきた。

そうすると、会社のルールだからと諦めていた人たちから「会社に声を届ければなんとかしてくれるんじゃないかと思えた」という感謝が聞こえるようになりました。

つまり、今まで声を上げられなかった人たちが、会社に期待し始めてくれたんだと思います。

例外をつくることは、言い換えれば「この領域は誰にも負けない」という例外になる人をつくることでもある。

技を身につけようと懸命に努力し、誰かのために頑張る社員を応援したい。だからこそ、そんな社員には一律ではなく例外を検討してまでサポートするのだ。

たとえば、頑張りたくても育児や介護などで悩んでいる人も多い。だからこそ仕事と家庭の両立支援も積極的に進めている。

社員からは「一律の制度を変えることは無理だと思っていたので、すごく嬉しい」という声が届き、部長やマネジメント層からも次々と人事に相談が届くようになった。

人事メンバーもその声にしっかり向き合い、より良くなる取り組みを考えるなど好循環が生まれている。しかし、東本部長は同時に大きな葛藤も抱えているという。

「年次・学歴・性別」を撤廃しよう

それまでは人事として、就業規則や時間管理などのルールをつくってきた立場。いわば番人のような存在だった。だからこそ一律を変えることや例外へも対応することにはバランスの難しさもある。

しかし東本部長はそれでもやる意義があると強調した。

東本部長

ルールづくりのほうが簡単です。一人ひとりに向き合って様々なパターンに応じることは大変。だからこそゴールはなく、実例づくりで人事のメンバーと試行錯誤しています。

我々は、目立たないところでも頑張っている人を探し続けたい。そしてそんな人にスポットライトをあてる。そのためには人に興味をもつ必要があります。

相手に興味をもてば「こういうサポートができるよね」と気づける。実際一人ひとりに「何に困っていますか」と聞き出すことは難しいけど、人事のみんながそういうセンサーをもつと、すごい会社になれると思うんです。

家庭との両立など、一人ひとりが置かれた状況により仕事への向き合い方は変わる。それでもその人が頑張れるようにサポートできているかが重要だという。そこでポイントになるのが「肩書より役割」というトヨタの思想だ。

日本の社会で重視されがちな肩書。かつてトヨタでも、何歳で課長に上がれるかを社内で競争していた時代もあったという。学歴が考慮されている気配もあったそうだ。

東本部長

なぜ、学歴が社会人になってからの40年にも影響を与え続けてしまうのかと、豊田会長から「年次・学歴・性別」を撤廃しようと声をかけてもらったんです。

区別するのは『成長しようとする意欲があるか』と『誰かのために頑張れているか』の2つだけにしようとなりました。頑張れば報われるし、失敗しても何度でもチャレンジできる。それも全員活躍で目指すべき姿です。

「年次・学歴・性別」の撤廃。これに関して豊田会長は、かつて終身雇用について尋ねられた際、こう語っていた。

豊田会長

「終身雇用」は、あってもいいと思っています。一方で「ある年齢に達したから」とか「大卒であれば何年目で昇格する」とか、そういうことはまったくナンセンスだと思っている。

チャンスは平等に順番に回ってくるとは限らない。だからこそ「いつでも出番があるぞ!」と思える会社にしたいと思っている。

だから、人によっては終身雇用だが、ある人は40歳くらいで自身がやり切ったと思えば、他の会社に移るということも“アリ”だと思っている。

2011年の東日本大震災、その後の急激な円高。困難のさなかでも、豊田社長(当時)は「石にかじりついてでも雇用を守る」と言い続けてきた。

トップが「人を大事にする」発信を続け、労使の話し合いでも「会社は従業員の幸せを願い、従業員は会社の繁栄を願う」と議論を続けるのがトヨタらしさなのだろう。

だからこそトヨタは「全員活躍」を目指しており、「多様性」「成長」「貢献」という3本柱を軸にさまざまな取り組みが進められている。

「多様性」の一例としては、5年ほど前までトヨタへ入社する社員の約95%が新卒採用の人員だったのが、今ではキャリア採用(中途採用)の割合が約50%まで増えている。

多様なバックグラウンドをもつ人が「トヨタで働きたい」と集まり、新卒採用で働き続けている人たちといい影響を与え合う。そしてトヨタのDNAを大事にしながら切磋琢磨していくのだ。

ところで人事トップの東本部長だが、トヨタの所属アスリートの活躍を支える部署も統括している。なぜ、人事とスポーツのトップを掛け持ちしているのか聞いてみると…

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