トヨタのデザイナーがつくるのは、クルマだけではない。真相を担当デザイナーに直撃した。
カーデザイナーでしかできないボートデザイン
こちらがLY650。全長65フィートの大胆なプロポーションは、海におけるラグジュアリーの象徴を目指したという。
まるで巨大なクーペタイプのクルマが浮かんでいるような光景だ。特にサイドデザインはクーペそのもの。
岩田主任
棧橋から見えるファーストインプレッションで何を与えるか、心に響くかを意識しました。
心に訴えかけるカーデザインの知見を生かしつつ、ボートで表現したことをやがてクルマにフィードバックできたらいい、岩田はそう考えている。
興奮の届け方など、クルマ屋として今までとはまったく違った視点で気づくことが多い。たとえばキャビンのデザイン。もはや建築デザインと言っても過言ではない。
非日常な体験をつくるため、色だけでなく、手触りで違いがわかる「素材のコントラスト」も徹底。たとえばドアハンドルはレザーになっている。
「細部のマテリアル選びでセンスが見抜かれる。だからやりがいがある」。クルマよりもデザインできる領域が幅広い。金丸は楽しそうに語る。
トヨタのマルチパーパス思想を
金丸主査
トヨタは幅広いお客様に楽しんでいただくことを大事にしていますが、ボートも同じです。国内の多くのボートは釣りを目的としたものですが、我々はクルマづくりと同様、さまざまな使い方に対応するマルチパーパス(多目的)を重視しています。
実際、トヨタのPONAM-31が目指しているのは海でのFun to Drive。アルミ製の船底にはじまり、後方デッキにはドリンクホルダーを備えたソファ、さらに日差しを遮るタープなど、快適なクルージングを叶えるオプションが多数用意されている。
その一方、釣りを楽しみたい人は存分に釣り竿を振れるよう、後部デッキの上部空間は開かれたデザインになっていた。
また、レクサスのLY650では、運転する人、招かれた客、もてなすホスト、釣りを楽しむ人、海に感動する子ども、バカンスを過ごす人・・あらゆる人のわがままを受け入れる唯一無二の空間を極めた。
550万人の力をボートにも
ところでボートのデザインは、クルマ以上に独自の知見と技術的制約があるはずだ。そこで頼りになるのが協力会社と実際に企画から開発・生産・販売・サービスを手掛けるマリン事業室だ。
金丸主査
ボートは常に紫外線、水、塩にさらされながら、船内ではさまざまな使われ方をする。マテリアル選定でこれほど過酷な条件はありません。
それを乗り越えるため、マリン事業室とクルマづくりの協力会社さんが、ワンチームとなり、デザイナーと技術者がすごく近い関係になっています。
4月に発表された「トヨタモビリティコンセプト」では「新しい領域へのモビリティの拡張(モビリティ2.0)」が語られた。クルマに留まらず、陸海空の領域で、すべての人に移動の自由と楽しみを。トヨタの思想は海の上でも変わらないようだ。