袋に入った謎のマテリアル、トヨタオリジナルの香りレシピ、4人のデザイナーは何をしているのか。
今回は、トヨタの社員ですらよく分かっていないCMFXデザインを取材。読者の皆さまも「こんなことしているの?」と驚くデザインの現場をお伝えする。
訪れたのは、クルマ開発センターのカラーマネジメント室。日々、環境問題や未来のモビリティについてディスカッションしつつ、視覚、触覚、嗅覚など五感に関するあらゆる研究・開発を進めているという。
未来は「海藻」や「紅茶キノコ」もクルマの一部に?
デザイナーのヴィヴィアナが持っているこの袋、中身はいったい・・?
正解は「紅茶キノコ」という発酵ドリンク。でも、なぜカラーマネジメント室のデザイナーが紅茶キノコを持っているのか?
実はこれ、モビリティで使える素材を探すマテリアルの先行研究。土に還る自然由来の原料から新しい素材をつくろうと、外部のデザインスタジオと共同研究を重ねているという。
話してくれたのは、ドイツ出身でスウェーデン育ちのヴィヴィアナ。サステナブル領域の研究が進む北欧文化に精通している強みを活かし、テキスタイルの先行開発に取り組んでいる。
ヴィヴィアナ・ホーヘンスタイン
海藻からつくったバイオ素材や、横編みの技術とサステナブルな糸を組み合わせ制作したファブリックなど、今までの「こうあるべき」という領域を超えて考えています。
未来のカスタマーがフォーカスするような素材はどういうものか、それらがどのような新しい体験につながるかを研究しています。
同じく、新しい心地よさを生み出そうと先行開発を進めているのが加藤舞グループ長。3Dプリンターで出力したという、こんなものを見せてくれた。
加藤舞グループ長
このオブジェクトは、3Dプリンターから生みだせるテクスチャや機能を研究したものです。色や形、香り、手触りによって気持ちに変化を与えることができるんです。
新しい素材と技術の組み合わせで、どのように感性に響くものをつくれるか検証しています。
日本人は細かい仕事が得意だと言われていて、独自の技術を持っています。それをライフスタイルでの「価値のあるもの」に変換することにおいて、私たちデザイナーにできることがあると感じています。
だから、技術・美的感覚・トレンド・実用性なんかをカオス状態にあえてまぜこぜにして、そこから新しい価値をつくれないか取り組んでいます。
「気持ちよく生活すること」をデザイン
今回、話を聞いたカラーマネジメント室は、その名の通り、もとはクルマに関する「色」をデザインする部署だった。しかし受け持つ領域はここ数年で急拡大。
今は「すべてのモノの表面をデザイン」する、CMF(Color, Material, Finish)へと広がっているそうだ。さらに、カラーマネジメント室では自分たちの役割を、Experience(体験)を示すXの1文字を足した「CMFX」だと考えているという。
岡本桃子グループ長
もともとはクルマのエクステリアカラーやファブリックなど、装飾的な意味合いでカラーが使われることが多かったのですが、現在は五感を使ってお客様にコミュニケーションしていくことをミッションとしています。
「機能的価値」だけでなく、言葉や機能で表せない「情緒的価値」も大切にして、素材を通して感動を伝える。複合的な体験価値を高めるために、エクスペリエンスの領域に力を入れています。
モノのデザインを超えた体験価値へ。
多様な領域への変革、トランスフォーメーションという意味も込め、CMFXのXの部分にフォーカスしているのが現在のカラーマネジメント室だ。
社内からも、新たな領域にまつわる特殊なオーダーが増えている。その一つが「香り」だという。