「愛車と過ごす時間の99%は車内」と力説するインテリアデザイナー。知られざる内装デザインの世界をお楽しみください。
進化が目覚ましいパーツ、それは「シート」だという。
自在に位置調整できる電動リクライニングや、温度調整できるベンチレーションなど“快適装備”だけでなく、シートには衝突時に乗員を守るという“安全装備”の側面もある。
だからこそ進化に終わりはない。シートのさらなる可能性を見つけ出そうと最先端のツールを使って奮闘するデザイナーに話を聞いた。
まるで動物の骨。なぜこの形に?
この骨のような物体。その正体をビジョンデザイン部 インテリアデザイン室 大森慎介主幹が教えてくれた。
大森主幹
近年注目されている、ジェネレーティブデザインという設計方法でつくったクルマのシートの骨格です。スペースの広さ、座る人の体重、衝突時の負荷などをソフトウェアに入力。生成されたデザインを3Dプリンターで出力しました。
従来の手法では生まれなかった斬新な骨格。最新のツールを駆使することで、まったく新しいシートのデザインが生まれる可能性が出てきた。
最新のデジタルツールで最適化した結果が、太古から生き続けている動物の骨格を彷彿させることも面白い。
「使うツールによって、出てくるアイデアも変わってくる」と話す大森主幹。
トヨタ生産方式には「改善後は改善前」という思想があるが、最新のツールも次々取り入れ、常により良いデザインに向き合い続けているのだ。
本当にご利益があった「御神体」
そしてもう一人が、新型クラウンの内装を担当したビジョンデザイン部 インテリアデザイン田中俊輔室長だ。実は今回のクラウンから、内装のデザイン工程で新たなチャレンジがあったという。
それがこの写真の物体。一体、内装のどの部分かお分かりだろうか。
実は、どの部分でもない。実際のクラウンに搭載されていないものだという。
田中室長
内装デザイナーには大きなフラストレーションがありました。それは粘土のクレイモデルでインテリアの検討会をしても、質感まで共有できなかったこと。
イメージが伝わっていない状況で、いろいろ修正指摘を受けることもしばしば。そこで作成したのが、色や質感を現物で確認できる「御神体」でした。内装のディテールのさまざまな要素をピックアップして、1つの造形に集約しています。
実際に触れて確かめることができる「御神体」。デザイナーが目指す方向を具体的に示すことで、営業担当や各部門の開発メンバーとの会話も円滑になり、アジャイルな開発が可能になったという。
さらに、ヘッドマウントディスプレイを装着し、ヴァーチャル・リアリティでシートに座った際の車内の見え方がわかるツールを活用。早い段階で細部まで検討できるようになったのだ。
デジタル技術の進化で、開発時のムダをなくしていく。それがデザイナーの働きやすさにもつながった好事例である。
だから内装デザインは面白い
最後に、内装デザイン一筋のキャリアを歩む大森主幹が、改めてその魅力を教えてくれた。
大森主幹
外形デザインはどちらかというと造形の追求ですが、内装は、デザインの端から端まで関われる、そんな面白さがあります。
インパネやステアリングなどのパーツを、素材にまでこだわってデザインできる。またスイッチの使いやすさや走行情報のわかりやすさ、さらには人や物の配置を変えれば、今までになかった心地よい室内空間をつくることもできるんです。
読者のみなさんがもしカーデザイナーになるなら、外形か内装。どちらを選びますか?今後、新しいクルマが発表されたら、インテリアの進化にも是非注目を!