第5回「年式問題」という難題を乗り越えて

2023.06.06

自動車業界が大変革期にある今、トヨタの原点に立ち返るべく始まった「初代クラウン・レストア・プロジェクト」。第5回では、旧車のレストアでは避けて通れない「年式(バーション)」問題についてリポートする。

正解のない年式問題

初代クラウンはRS型の時代だけでも、もっといいクルマづくりのために、発売後も細かな仕様変更が積み重ねられた。

たとえばエンジン。1955年型に搭載されているR型エンジンの出力は48馬力。だが1957年には圧縮比を6.8から7.2に高めることで55馬力にパワーアップ。さらにマイナーチェンジ後の195810月には58馬力に向上し、最終的に62馬力にまで高められている。

また1955年式では6Vだった電装系の電圧は、1957年式から12Vに変更されている。

さらに分割式だったフロントガラスやリヤガラスは、1958年のマイナーチェンジからは一体型に変更されている。

今回のレストアは当初、疑いなく1957年式として完成させる方針だった。フレームとその刻印、さらに車検証などの書類には「1957年製」と書かれていたし、フレーム側面の鋼板の板厚も1957年式と一致したからだ。

ところが5月ごろ、足まわりやボデー、内装品、電装系などの多くの部品が、図面を見るとどうやら1955年式だということが分かってきた。

たとえばエンジンフードヒンジの取付け穴の向きは1955年製。またサイドブレーキレバーのバネの構造も1955年式の設計図と一致する。電装系も1957年式の12Vではなく6Vで、配線の被覆や端子の素材や形状も1955年式と同じだった。

6月に入るとエンジンチームからも悩ましい事実が判明する。どうやらエンジンが1955年式に載せ替えられているということが、エンジンのヘッド周りの形状から判明したのだ。

だがエンジンブロックやクランクシャフトに違いはなく、交換用の1957年型のヘッドも入手済みで、ヘッドを交換して1957年式としてリビルドできるという。トランスミッションのチームからも同様の報告が寄せられた。

1955年式と57年式。いったい、どちらの年式がこのレストアのゴールとしてふさわしいのか。クルマのレストアが趣味で、事務局の誰よりも旧車のレストア経験を持つ冨安金治は語る。

冨安

何十年も走り続けてきた「旧車」では、その間の整備や修理でさまざまな年式の部品が取り付けられていることは珍しいことではありません。

修理工場で行う一般的なレストアでは、今回のレストアのように年式ごとの詳細な部品の設計図が手に入るわけではありませんから、そのときに入手できる部品で何とか走れるように仕上げます。年式が異なる部品の存在は当たり前のことなのです。

R型エンジンの年式をメンバーと確認する冨安(中央)

だが今回のプロジェクトは、70年近くも昔とはいえ、このクルマを開発・製造したトヨタが、社内の高技能者の手でどこまでレストアできるか、その限界に挑戦する画期的な試みだ。

そしてこの過程で、当時クルマづくりをしていた人々の想いと技能に迫り、伝承すること。それがこのプロジェクトの趣旨になっている。

足りない部品は設計図を基に新たにつくることもするわけだから、安易に妥協はできない。

そうして、旧車のレストアでは避けて通れないこの年式問題に、プロジェクトメンバーは真正面から対峙することになったのだ。

冨安

この問題に正解はありません。今回の初代クラウンを1955年式と57年式、最終的にどちらにレストアするのか。それぞれのチームが担当する部分のレストア作業を進めながら、プロジェクトチーム全体で徹底的に議論することにしました。

ボデー、フレーム、エンジン、インテリア、電装系、そして塗装。各担当チームからは、自分たちが行った詳細な部品の仕様調査に基づいてさまざまな意見が出て、各チームのリーダーを中心にプロジェクトメンバーの議論は白熱した。

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