自動車業界が大変革期にある今、トヨタの原点に立ち返るべく始まった「初代クラウン・レストア・プロジェクト」。第4回では、愛車として何十年も乗り続けられる品質を追求したボデーの修復と特殊な塗装についてお届けする。
100年に一度の大変革期を迎えた自動車業界。トヨタ自動車ではあらゆる部門で前例のない画期的な取り組みがスタートしている。
そのひとつが2022年の春、社内のさまざまな部署から多彩な人材を集めて元町工場でスタートした「初代クラウン・レストア・プロジェクト」である。
トヨタイムズでは、その意義とレストアの現場をリポートしていく。第4回はいよいよ本格的に始まったレストア作業。その中でも、トヨタ社内と関連企業の技術とノウハウを活かし、何十年も乗り続けられるレストアを実現する、ボデーの板金と特別な塗装工程についてご紹介する。
お気に入りの愛車でカーボンニュートラル
今回はレストアチームの奮闘をご紹介する前に、去る1月13日に「東京オートサロン2023」のステージで、豊田章男社長がクルマが大好きな仲間たちへ届けたメッセージについて触れたい。
この場で豊田社長は、「クルマ好きだからこそできるカーボンニュートラルの道がある」「クルマ好きを誰ひとり置いていきたくない」とコメント。
そしてスポーツカーやモータースポーツファンの間で今も絶大な人気を誇る5代目「レビン&トレノ」 、通称「AE86」をベースに、オリジナルの状態を極力残した形で、水素エンジン車とBEV(バッテリーEV)に改造したコンセプトカー「AE86 H2 Concept」「AE86 BEV Concept」を紹介した。
では、なぜトヨタはこの2台を出展したのか? それは、2050年のカーボンニュートラルは新車のBEVシフトだけでは達成不可能であり、「保有車」、つまり既に走っているクルマのカーボンニュートラル化も必要だということを伝えるためである。
その選択肢の一つが今回のコンバージョンだ。それは、冒頭で紹介した豊田社長のメッセージに象徴されるように、カーボンニュートラルへと向かう現代においても、トヨタは愛車に乗り続けたいと願う人たちを置き去りにしたくない、クルマ好きだからこそできるカーボンニュートラルへの道を実現すべく、あらゆる手を尽くして新たな選択肢に挑戦していこう、という意志の表れでもあるのだ。
クルマ好きが憂慮する「BEVシフト一辺倒の未来」
ヨーロッパを筆頭に世界ではいま、「クルマのカーボンニュートラル化には、新車のBEV化しか道はない」という声が強い。
しかし、これだけでは世界が目標にする「2050年までのクルマのカーボンニュートラル化」を達成するのは難しい。
現在、世界で1年間に販売される新車は約8000万台。一方、既に世界で走っている保有車は約15億台以上。つまり新車は保有車の1/20以下に過ぎないのだ。
そこで有効なのが、エンジンを改良して燃料を水素にスイッチする水素エンジン化と、ボデーやシャシーをそのままにパワートレーンを電動化するコンバートEV化だ。それにより、街中を走る保有車が排出するCO2を削減することができる。
保有車をこのようにコンバージョンして乗り続けるには、ボデーやシャシーがロングライフであることが望ましい。CO2はクルマをつくる、走らせるときはもちろん、廃棄、リサイクルされる過程でも放出される。だから、保有車をレストアによりロングライフ化して長く乗り続けることができれば、廃棄、リサイクルの過程で排出されるCO2も減らすことができる。
そして、自動車メーカーだからこそ実現できる高品質なレストアは、今後、保有車のロングライフ化において重要な役割を果たすことになるだろう。
その意味で、初代クラウン・レストア・プロジェクトは、2台のAE86のコンセプトカーと同様に「保有車のカーボンニュートラル化」につながる、挑戦的な取り組みといえる。それを踏まえ、今回リポートするボデーの修復では、愛車に何十年も乗ることができるレストアにつながる、ある特別な試みが塗装工程でなされたのだ。
では、ここからは流線型ボデーのレストア現場に戻ろう。現場ではレストア・プロジェクトメンバーの粋な計らいにより、トヨタイムズのプレートをつけたボデーが取材陣を出迎えてくれた。