連載
2024.01.18

鋭いツルハシを持つ若者たちを先導。トヨタは何をしているの?

2024.01.18

本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は森の学校!?

雨のなか、ツルハシを持つ集団が、山の急斜面を駆け上がっていく。トヨタは一体何をしているのか?

道なき道。その先で行われていたこと

ここは、世界遺産にも登録された岐阜県白川村・合掌集落の近くの山。「加須良(かづら)古道」の入り口だ。

毎年、雪によって山道が崩れるため古道の整備作業が必要だという。豪雪地帯では欠かせない作業なのだ。

この整備作業は「SDGs担い手育成講座」という教育プログラムの一環。トヨタの社会貢献推進部とトヨタ白川郷自然學校が、白川村民と一緒になって進めている。

ここでトヨタ白川郷自然學校について紹介したい。

「學校」といっても生徒がいる訳ではない。入学式や卒業式もない。ここは誰もが宿泊できる「体験型宿泊施設」であり、トヨタが所有する温泉施設である。

2005年に開校、面積は東京ドーム37個分というから驚きだ。そもそもなぜトヨタが白川村に自然學校を持っているのか。

トヨタ白川郷自然學校 山田俊行學校長

この地にはかつて小さな集落がありましたが、豪雪で集団離村した経緯があります。

当時の白川村村長とトヨタの名誉会長、故・豊田章一郎氏に親交があって、1973年にトヨタが離村費用を賄うかたちで馬狩地区を購入。離村後も7棟くらいの合掌家屋が残っており、トヨタの保養所として買い取ることになったのです。

施設内に飾られている豊田章一郎氏の書

ところが1980年、8mもの豪雪に見舞われ、現存する1棟を残してすべてつぶれてしまいました。保養所は閉鎖され20年近く放置されることに。

しかし、1997年に潮目が変わったという。

トヨタ白川郷自然學校 山田學校長

気候変動に対する国際的な目標を定める「京都議定書」が交わされたのを機に、世の中の環境意識が向上。エコヴィレッジ構想を掲げていた白川村の村長からも「保養所跡地を有効活用できないか?」と相談があった。

1997年にトヨタが世界初の量産ハイブリッドカーのプリウスを発売するタイミングともリンクし、自然學校の開校につながりました。

學校のキャッチフレーズは「Wild and Smile」(天気が良い日は外へ出よう)。子どもには思い切り楽しんでもらい、大人には元気になってもらうことがテーマだ。

専任のインタープリターやガイドが多様なプログラムを開催しており、未来のサステナブル人財の育成を目指している。

近隣の白水湖で手漕ぎボートに乗り込み、秘境の谷を目指す体験 
家族で夜の森へ出かける「ワクワク!ナイトハイク」。真冬でも季節を問わず年中自然を楽しめる
車いすユーザーの「森の散歩」など、誰もが楽しめるアクティビティが用意されている 

でも、なぜトヨタが?

子どもから大人までが楽しめる体験型宿泊施設。そこで3年前から、毎年20名ほどの学生を集めて行われているのが「SDGs担い手育成講座」だ。

テーマは「誰もが自然と共にウェルビーイングでいられる社会、その社会づくりのプロを目指すこと」。

でも、なぜトヨタが?社会貢献推進部 窪田博樹プロフェッショナル・パートナーはこう話す。

社会貢献推進部 窪田

現代社会の危機は、人類の選択の積み重ねとも言えます。

だからこそ、一人ひとりが何かを選択する場合「少しでも環境や社会に良いものを」という視点が、ウェルビーイングでいられる社会の実現には欠かせません。

また、その妨げになっている社会課題に関心を持ち、解決へと主体的に行動できる人づくりが急務です。

これからを生きる若年世代に届けたいのは、白川郷の大自然に身を置き、生きる知恵に触れ、ただ学ぶだけではなく五感で感じることや、交流することの大切さ。

行動を起こす際に、共感してくれる仲間がいれば、想像以上の何かがもたらされるかもしれない。そんな可能性を感じられるプログラムを学生と共につくり上げているところです。

冒頭の古道整備のほか、明かりを使わず真っ暗な森に入るナイトハイク、焚き火を囲みながらゲストや仲間と議論するイベントなど、多様なプログラムが組まれている。

参加者の柳原琢磨さんは「地域への貢献や活性化へのお手伝いがしたくて、学生の間にいろんな体験をしようと参加した」と話す。

他のメンバーからは「SNSだと仲間もつくりやすい。でも…」と気になる言葉が飛び出した。

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