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トヨタの改善で農業をやってみたら「ヤバイ」ことになった!

2023.06.15

本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は、トヨタが農業?

豊田会長の「謎の白線」

鍋八農産の改善現場を視察した豊田会長(当時社長)は「この農場はおもしろいね」と話し、自らも改善案を出す。そのひとつが先ほどの白線。

実はあの線は、トラックからの荷下ろしをスムーズにするためのライン。正しい位置にかんたんに停車でき、作業の効率化につながる。トヨタの工場では見慣れた風景なのだとか。

鍋八農産での改善は10年以上続き、今では従業員の意識も向上。トラクターでの事故がニュースになれば、従業員が自らヘルメットを被ることを提案するまでになったという。

「あそこの農場だけヘルメットかぶってるよ」。そう笑われることもあるそうだが、家族のため、暮らしのために働く従業員にとって安全はすべてに優先される。

「ムダや安全という言葉が現場から自然と出るようになった」と、八木社長は嬉しそうに語る。成功体験を持つと、次の改善が自然とはじまるのだ。

土の成分まで「見える化」へ

TPSでの現場改善以外にも、取り組みがある。その秘密がこの画像だ。

田んぼに色付けされた画像。これは開発中の土壌センシング技術である。

農業では「土」が非常に重要だが、土壌センシング技術は、土の中に光を照射。その反射光を測定することで“土壌の成分”を把握する開発中の技術だ。

土壌の分析結果に基づいた適正適肥により、収穫量の向上を図るとともに、肥料の蒔きすぎを防ぐことで環境負荷低減も目指している。

八木社長も「これができれば魔法だ!」と目を輝かせた。

アグリバイオ事業部 土壌センシング推進グループ 清水克哉 主幹

土が肥料を捕まえておく力(保肥力)が強いところと弱いところがあって、弥富市は砂地で保肥力が弱かったんです。一方、出島や中洲があった名残から保肥力が高い場所も。

細かく土壌センシングをすることで、場所ごとに、必要な時に必要なだけ肥料をあげられる。資材費だけでなく環境負荷も削減でき、持続的な経営につながります。

さまざまな改善を取り入れたことにより、八木社長も、本来の経営者としての仕事に集中できるようになっていく。

八木社長

全体を俯瞰して見られるようになると「なぜ米ってこんなに安いんだろう」とか「なぜこんなに生産費が高いんだろう」と考えるようになりました。

米の価格が暴落する年がある一方、コンビニではおにぎりがいつも同じ価格。「農家はこんなに苦労しているのに…」と悔しくなったのを機に、自社でおにぎり屋を始めました。

仕事がラクに安全に。改善で余力が生まれた八木社長、孫と接する時間も増えた

おにぎり屋の経営以外にも、米を使った化粧品のEC販売も開始。農業での成功モデルとして注目を集めている。

そんな八木社長、トヨタ社員のある言葉に腹が立ったという。

それは「改善は生き物と一緒で、止めた瞬間に続かなくなりますよ」という言葉。八木社長は「バカやろう!絶対続けてやる!」と心に誓ったと笑う。

アグリバイオ事業部のメンバー。左から/前出・平井達也シニアエキスパート、山形政勝シニアエキスパート、奥村真也主幹、藤井康宏グループ長、前出・清水克哉主幹

若い人に「農業って楽しい」と思ってもらいたいと語る八木社長。トヨタでは、今回取材した米づくりの現場だけでなく、野菜や畜産など、サービスを拡大している。改善の積み重ねにより、近い将来、農業には新たなイノベーションが生まれているかもしれない。

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