服やカバンが勝手に発電!?再エネ普及へ想像の斜め上をいく技術を公開

2023.04.25

本業とは関係ないように見える取り組みを紹介する「なぜ、それ、トヨタ」。今回は、変身する太陽電池?

「自家発電車」は可能なのか

この技術が普及すると、具体的にどんなメリットがあるのか。増田博士はこう答えた。

増田博士

送電せずその場で発電できるので、停電がなくなります。

震災時でも「防犯センサー」や「見守り機能」が遮断されることなく作動するので、より安全安心な暮らしに近づけると思います。カーボンニュートラルが叫ばれる反面、大規模停電などの災害が増える昨今、至るところで導入する意義があると考えています。

ちなみに、クルマのボディに貼り付けることは可能なのか。

増田博士

物理的には可能です。すでに検証を始めていて、クルマの凹凸に合わせて太陽光パネルを細かく加工する難しさがハードルになっています。

それから加飾フィルムの色を強くするほど発電効率が落ちるため、意匠性を上げようとすれば発電量が減り、発電量を上げようとすると色や意匠に限界が出るジレンマもあります。そのギャップを埋めるのが、今後の研究開発のカギですね。

この技術はすでに論文でも発表。画期的な発明のため、スポーツ用品メーカーや広告会社、街づくりのブランディングを手掛ける企業などから問い合わせが増えている。

美観地区や、寺社仏閣、ビルの壁面や看板など、あらゆる場所にニーズがある。それだけでなく意外なところでも注目されている。

それは炎天下で作業する人向けの、ファン付きの作業着への導入だ。暑いときにこそ太陽光で発電できるので、バッテリー残量を気にせず出力を上げて使用できる。

また、登山ウェアなどの服やカバンにも応用できるほか、ゼロエネルギー住宅の開発も進められている。あらゆる可能性を秘めたこの研究だが、当初は「ものすごい逆風」があったという。

ものすごい逆風だった

当初、クルマ屋のトヨタで、太陽光発電の研究となると明らかに異端である。

まだカーボンニュートラルの概念さえ知られていなかった時代のため、当然社内の優先プロジェクトになることもなく我慢の連続だったそうだ。

増田博士

いつ研究を「止めろ」と言われるかもわからなかったのですが、脱炭素社会実現への重要な技術だと信じて、少人数で耐えながらがんばってきました。

ようやくカーボンニュートラルの流れが生まれ、太陽光パネルの重要性が理解され始めると、それが追い風となって、社内外から応援してくれる人が増えました。誰からも見向きされない時代もあったので、今、みなさんに関心を持ってもらえることが本当に嬉しいですね。

研究を続けるモチベーションとなったのは、豊田会長(当時社長)の言葉だったという。

増田博士

社長がまずは「バッターボックスに立とう」と言ってくださったことは大きな励みでした。日の当たりづらい部署でも、自らフィールドに立っていいんだと。

増田博士の背中を押したメンバーは他にもいる。環境問題解決という大志を抱いて入社し、孤軍奮闘する先輩の背中を見てきた後輩研究者だ。

CN開発部 富澤亮太

増田さんの背中を見ながら、社内の逆風を感じながら仕事をしてきました(笑)。なんとしてもこの技術を世に出したいという想いでがんばっています。

カーボンニュートラルは達成しなければならない「ノルマ」として捉えられがちですが、街を彩る太陽光パネルで、誰かの幸せにつながるプラスの側面として開発を進めていきたいです。

渋谷で、前代未聞の実証実験

ちなみにこの研究、昨年8月、渋谷のど真ん中でチャレンジングな実証実験が行われた。

人通りが絶えないSHIBUYA109前で、広告物がデザインされた加飾フィルムを太陽光パネルに貼り付け、本当に発電していることを実証する挑戦だ。どう見ても太陽光パネルには見えないが、発電できるのか。

失敗が許されない大衆の前で扇風機を動かして、発電を見える化。猛暑の都会に涼しい風を届けられたのか、この動画を確認いただきたい。

逆風を、追い風に変えたのは、時代の変化に乗ったからではない。意志ある情熱と行動をとり続けたからだ。

コストを抑えるために量産ベースにのせるなど、クリアすべき難題はまだまだある。クルマ屋だからこそできるカーボンニュートラルの実現へ、研究者の熱い情熱が、今も開発を加速させている。

RECOMMEND