コラム
2023.09.28
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交通死亡事故ゼロへ 安全啓発の現場に共通した想いとは

2023.09.28

交通死亡事故をゼロにするためには、クルマの安全技術を高めるだけではなく、ドライバーや歩行者の意識改革も必要だ。トヨタが取り組む2つの活動を追った。

トヨタが進める交通死亡事故ゼロに向けた「三位一体の取り組み」。前回はクルマに備わっている安全技術について触れた。

今回は、ドライバーや歩行者といった「人」に対する啓発活動を取り上げる。

ハンドルを握る人も、そうでない人も、誰もが安心安全に暮らすことができてこそ真のモビリティ社会。

2023年718日に開催されたタテシナ会議を報じたトヨタイムズニュースの中で、豊田章男会長は、このように語っている。

「三位一体という中で、(クルマを)扱う人。人に対してどう啓蒙していくか。今までの、新しい技術やデータ活用によって安全を確保するというものから、人の啓蒙をどうするか、新しい指針が出たと思うので大変意義があった」

安全技術や交通インフラが整備されてきても、最後にクルマを操るのは人。トヨタイムズでは、2005年に開設したトヨタの交通安全センター「モビリタ」、1969年から発行を続ける「交通安全絵本」の現場を取材した。

クルマの限界を知り、安全運転につなげる

富士スピードウェイ(静岡県小山町)の敷地内、サーキットに併設される形でつくられたモビリタ。ここには10万㎡のフラットコースや35度のバンク、「低ミュー路」と呼ばれる滑りやすい路面などの設備が設けられている。

受講者はここで、高速度からの急ブレーキや、スリップしやすい場面でのハンドル操作といった、一般道では通常経験できないクルマの「走る、曲がる、止まる」を安全に体験。同時に、こういった危険に陥らないための運転の心構えを学ぶことができる。

低ミュー路は濡れて滑りやすくなっており、適切なハンドルやアクセル操作が求められる。

2021年からは、受講者の運転データを見える化して指導する「走行データ計測プログラム」を開始した。

このプログラムでは、左右の旋回やアクセル、ブレーキ操作時にかかるG(重力加速度)を、車載機器で測定しグラフ化。凄腕技能養成部のインストラクターが、インストラクターの運転と受講者の運転データを比較し、ハンドル操作の量やアクセルの踏み込みなど、どうしたら安全にクルマの性能を引き出せるかを伝える。

ただ安全運転だけを教えるのではなく、「Fun to Drive」も重視するトヨタらしい講習だ。

「走行データ計測プログラム」の様子。受講者の運転データはすぐにグラフ化され、インストラクターはデータをもとにアドバイスする。

ただ、プログラム立ち上げに際して、「安全」と「Fun」の両立は一朝一夕にはいかなかった。そこでモビリタの企画・運営管理を行っている社会貢献推進部の布垣直昭部長が相談したのは、モリゾウだった。

マスタードライバーのアドバイス

布垣部長がモリゾウから貰ったアドバイスは、「安全やFun、あるいはエコというものを分けて考えるのではなく、一緒に考えるべきではないか」。

モリゾウは、モータースポーツの現場などでのデモランを引き合いに出し、一見すると派手な運転でも「『ここまでであれば絶対大丈夫』という安全の線引きがきちんと自分の中にある」として、「(線引きの)コントロールのいかんで、Funにもなり、エコにもなるんじゃないか」と話したという。

布垣部長は、「講習の中で安全やFun、エコといった要素を分けて考えるのではなくて、最後は全部が繋がって、背景に安全があるという考え方で教えられるといいなと思い始めた」と振り返る。

具体的な講習内容に落とし込んでいくにあたっては、凄腕技能養成部にも協力を要請。試行錯誤を繰り返す中で見えてきたのが、計測機器を使った運転の見える化だった。

グラフとして見えることで、運転を楽しみつつ安全も担保することができる。

布垣部長と共に立ち上げにかかわった、凄腕技能養成部の佐野幸弘エキスパートもまた、「事故で亡くなる方をゼロにするのはもちろんですが、安全運転と同時に、クルマを運転する楽しさ、エコとの両立した新しい安全というものを考えてきました。運転は、なかなか人にお伝えするのが難しいですが、見える化することで、お客さま自身が運転の特徴や、癖を自覚できる。上手い運転と比較することで改善を促すきっかけになるんじゃないかと思った」と開発時の想いを振り返る。

実際に受講者からは「運転の間違っていたところがよくわかった」「一般道を運転するのが楽しくなった」という声があり、今では2カ月前から始まる予約が2~3日で埋まる人気プログラムとなっている。

モニター内の赤いグラフは「G-Gダイアグラム」と呼ばれ、左右の旋回、ブレーキ・アクセル操作でかかったGを示す。正円に近いほどスムーズな運転。

ただし、どれだけクルマの限界を体感しても、安全を想う心が育たなければ画竜点睛を欠く。

布垣部長は「最後の最後、安全を願う人がそこに乗っていないと完成しないんじゃないか」として、このように続けた。

布垣部長

安全を本気で願う過程に、体感というものがあってしかるべきだと思いますし、座学だけで人が変われるかというと理屈じゃない部分もあります。

体感や経験を通じて、少しでも安全へ想いを来してほしいなと感じています。

そういったこと(安全を願う心)が入ることによって、計測プログラムであれ、なんであれ、仏像に魂が入るように、安全プログラムにも心が入る。そういった部分を僕らは、これからますます大事にしていかないといけないんじゃないかなと思っています。

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