なぜトヨタは水素エンジンでレースに出たのか。激闘の24時間に密着取材

2021.06.11

水素エンジンで耐久レースに参戦したトヨタ。なぜ開発途上の技術を過酷なレースに投入するのか。森田記者が密着取材した。

驚きのニュースが飛び込んできたのは、2021422日。トヨタが水素エンジンの技術開発に取り組んでおり、その水素エンジンを積んだ車両で、1カ月後に開催される「スーパー耐久(S耐)シリーズ2021 3戦 富士24時間レース」に参戦するというのだ。
(関連記事:発売めどもない水素エンジンで、なぜレースに出るのか?

水素エンジンは、ガソリンの代わりに水素を燃やしてエネルギーを得るエンジンだ。水素を使って走行するクルマとしてはMIRAIがあるが、あちらは水素を化学反応させて発電し、その電力でモーターを回して走る方式。FCEV(燃料電池車)の名の通り、電気自動車(BEV)に近い。一方、水素エンジンは、水素を燃料として直接燃やす。ガソリンエンジンと大きく違うのは、「二酸化炭素(CO2)をほぼ排出しない*」ということだ。

*走行時にごく微量のエンジンオイル燃焼分を除き、CO2は発生しない。空気を取り込んで燃焼させるため、ガソリンエンジンと同様にNOx(窒素酸化物)は発生する

ガソリンや軽油などの化石燃料を燃やすと、CO2が発生する。ところが水素を燃やしたときに出てくるのは、基本的には「水」だけだ。つまり水素エンジンは、長年積み上げられてきたエンジン技術を生かしながらカーボンニュートラルにも貢献できる、大きな可能性を秘めた技術なのだ。

とはいえ、まだまだ研究段階の技術。そんな技術を、24時間耐久レースというモータースポーツの中でも特に過酷な舞台でデビューさせるという。水素エンジンがレースに出るのは、もちろん世界初のことだ。なぜトヨタは、この無謀ともいえる挑戦を決断したのか。そしてチームはこのレースをどう戦い抜くのか。森田記者が富士スピードウェイでの24時間の戦いに密着した。

カーボンニュートラルの選択肢を増やしたい

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

2021522日、レース当日。まず森田記者が訪れたのは、多くの報道陣が詰めかける記者会見場。ほどなくして、ROOKIE Racingのレーシングスーツに身を包んだ豊田章男社長が現れた。ROOKIE Racingは、豊田社長がチームオーナーを務めるモータースポーツのプライベーターチーム。今回の24時間レースでは、豊田社長も「モリゾウ」としてドライバーを務める。

「水素エンジンで走ることの意義や、思いをうかがいたい」という記者からの質問に、開口一番「あくまでゴールはカーボンニュートラル」と言い切った。菅総理からカーボンニュートラルへの目標が発表されて以来、豊田社長は日本自動車工業会(自工会)会長として、カーボンニュートラルの選択肢を増やしてほしいと訴え続けてきた。

もしカーボンニュートラルを実現するための選択肢として電気自動車(BEV)しかなければ、日本では100万人の雇用が失われてしまう、と豊田社長は強調する。日本の電力は、欧州などと比べて火力発電の割合が高い。その日本で、製造時に多くのエネルギーを使うBEVを製造すると多くのCO2を排出してしまうため、必然的にクルマの生産を海外に移さざるを得なくなる。

だがカーボンニュートラルに向かう道はBEVだけではない。水素やバイオ燃料などの「カーボンニュートラル燃料」を使うという道もある。日本として、どのようにカーボンニュートラルを目指すのか、選択肢をたくさん持っておくことが大切なのだ。その選択肢のひとつを、モータースポーツの場で実証実験できる機会が訪れた。それが今回参戦する意義である、と豊田社長は力を込めた。

では、なぜ今なのか。「この水素エンジンのカローラを走らせるために、本当に多くの方々が関わっています」と豊田社長。レース出場が決まるはるか前から、コツコツと研究を続けてきたエンジニアたち。いつ日の目を見るかも分からない中で水素エンジンという技術を磨き続けてきた多くの人々の努力により、いよいよレースに参戦できるだけの技術が結集した。だからこそ、今回は「何が何でも走りきりたい」と豊田社長は強い決意を示す。

豊田
何が起こるか分からないのも、またレースです。すべてをお見せしてまいりますので、カーボンニュートラル実現に向けて、このスーパー耐久の場を借りて世界初の試みをするということを、ぜひとも皆さんも心をひとつにして応援いただきたいと思っています。

エンジンでもカーボンニュートラルは実現できる

記者会見で「水素社会の実現に向けて、世界初の挑戦をする」という豊田社長の強い意気込みを目の当たりにした森田記者。続いて水素プロジェクトを指揮するGazoo Racingカンパニープレジデントの佐藤恒治氏に今回の挑戦について聞いた。

はじめに、水素エンジンとは何かを改めて解説してもらった。

佐藤
水素エンジン車は、ガソリンの代わりに水素をタンクに貯め、それをエンジンで燃やしてエネルギーを取りだして走ります。

森田
トヨタはすでにFCEV(燃料電池車)のMIRAIを出していますから、もう水素でクルマが走っているじゃん、と思う方もいると思うのですが。

佐藤
MIRAIも今回のクルマと同じように水素を使いますが、あちらは水素を使って発電しています。だから(MIRAIには)エンジンはないんです。でも今回のクルマは、エンジンはあって、燃料が水素になっているだけなんですね。

今まであったエンジンをそのまま使いながら、燃料をカーボンニュートラルなものに変えられる。ということは、最初にガソリン車として出しておいて、後々(水素に)置き換えていくということだってできるかもしれません。クルマのつくりかたが変わっていく、そういう未来の扉を、いま開けようとしています。

BEVとはまったく違うアプローチで走行時のCO2排出をゼロにする、カーボンニュートラルへ向けての新たな選択肢。それが水素エンジンなのだ。

佐藤氏は、これまで「エンジンはなくなるかもしれない」「でも本当にカーボンニュートラルの選択肢はひとつなんだろうか」と迷いながら開発を進めてきたという。そんなとき、モリゾウさん(豊田社長)は悩む佐藤氏に「先が見えないなら、やってみればいいじゃん」と声をかけた。その結果が、今回のレース参戦である。

だが、なぜいきなりモータースポーツ、それも過酷な耐久レースに投入したのだろうか。佐藤氏はレースに出ることで「技術を鍛えるスピードが速くなる」という。

佐藤
24時間レースにいきなり出ることで、とにかく課題を出す。その課題を、次のレースまでに直す。もしカーボンニュートラルに対して有効な技術の開発に時間がかかっていたら、いつまでたってもカーボンニュートラルは達成できません。

その技術を手の内にするスピードを速めようと思ったら、モータースポーツのフィールドで鍛えて、アジャイルに(迅速に)やっていくことが大切です。

モータースポーツは特殊な世界だと思われていますが、我々は「大いなる実験場」だと思っています。だからレーシングカーをつくっているのではなく、みんなでカーボンニュートラルな世の中をつくるための実験をしている。そこが大事だと思っています。

白い煙の正体は?

ピットを訪れた森田記者は、ついに水素エンジンを搭載したカローラと対面。ROOKIE Racingカラーに身を包んでいるものの、見た目は普通のカローラとあまり変わらない。だが後部座席をのぞき込むと、そこは水素タンクで埋まっていた。24時間の耐久レースをなるべく少ない給水素回数で走り切るために、カローラには巨大な水素タンクが積まれている。それでも約30分に1回は給水素が必要になるという。

いよいよエンジン点火。迫力ある重低音がピット内に響き渡る。「これが水素エンジンの音です。もう、普通のエンジンの音ですね」と、森田記者。

車体後部のマフラーから立ち上る、白い煙。なんと森田記者は、顔を近づけて吸い込もうとしている。そう、水素を燃やして出るのは「水」。この白い煙の正体は、湯気(水蒸気)なのだ。

森田
あ、これ無臭ですよ。分かります?このアクリル板が曇るの。水蒸気だ。

ワクワクするスポーツカーを将来に残したい

続いて森田記者は、GRプロジェクト推進部の伊東直昭氏に、水素エンジン開発の経緯を聞いた。伊東氏は、カーボンニュートラルの時代、10年、20年先にスポーツカーが生き残れるのか、という問いが開発のきっかけだったと振り返る。

「ワクワクドキドキするようなスポーツカーを将来に残したいという思いで、水素エンジンという選択肢の検討をはじめた」と伊東氏。「エンジンは、操る人の個性や技量に応じて違う反応を示すんです」と目を輝かせる伊東氏は、生粋の“エンジン好き”のようだ。

伊東
カーボンニュートラルって、ちょっと我慢するようなネガティブなイメージがありますが、カーボンニュートラルでもこんなに楽しいことができるんだよ、というところを見せていきたいなと思っています。

伊東氏は、大きいものから小さいものまで対応でき、4気筒やV6など、乗りもののキャラクターを生み出せるのもエンジンならではの魅力だという。

さらに森田記者は、水素の安全性についても質問した。「水素は危ない」というイメージについて、伊東氏はどう考えているのだろうか。

伊東
ガソリンも扱い方を間違えると危ないですし、もちろん水素も扱い方を間違えれば危ないことは、我々は身をもって体験しています。ただ、「ガソリンと比べて危ない」というのは違います。クルマの設計や実装が水素に合ったものになっていれば、安全・安心なクルマとしてお届けできると思っています。

水素ステーションが2台あるワケ

ピットエリア脇のスペースに、2台の巨大なトラックが止まっている。その前には「H2 STOP」の看板。ここが、レースを戦うカローラに水素を充てんする場所だ。水素エンジンでレースを戦うのは世界初の挑戦だが、サーキットでレーシングカーに水素を充てんすることもまた、前例がない試みだ。そこにはどんな苦労があるのだろうか。GRプロジェクト推進部の蟹江庸司氏と市川正明氏、そして商用ZEV製品開発部の沢田豊氏に聞いた。

今回の水素充てん設備は、岩谷産業、大陽日酸といったパートナー企業とともに取り組んでいる。クルマとともに、インフラ側も進化させていくためだ。いくら水素エンジンの技術が進化しても、水素をクルマに届けられなければ実用化できない。水素社会を実現するには、クルマ側とインフラ側の両方が進化していくことが大切なのだ。

蟹江氏は、もともと工場を建設したり、工程を組み立てたりする生産技術の出身。今回は、「サーキットに、水素を安全に充てんできる工程を3日間だけつくる」のがミッションだ。

レースの現場は、水素をできるだけ短時間で充てんしなくてはならない。そのために考えたのが、2台の移動式水素ステーションを組み合わせて使う方法だ。

市川
よく我々は風船に例えるのですが、風船を膨らませるとき、しっかり肺活量がある人が2人いるとします。1人が途中まで膨らませて、苦しくなったら隣の人に代わってもらう。そして隣の人が残りを吹き込み、パンパンに膨らませて出ていく。そんなイメージですね。

森田
それが一番早いということですか。

市川
そうですね。

市川氏は、最初に24時間耐久レースの話を聞いたとき、てっきりレース前のパレードランに参加するのだと思った、と苦笑いする。だがよく聞いてみると、「レースに出る」ということが分かった。そこからあわててFIA(国際自動車連盟)やJAF(日本自動車連盟)と協議し、給水素のルールづくりを進めたという。「我々が得た知識や経験が、今度は世界のモータースポーツのルールづくりに役立つんだと思うと、武者震いする思いです」(市川氏)。

グリーン、ブルー、グレー。3種類の水素とは

続いて森田記者は、水素の製造や水素ステーションの設置を手がける岩谷産業の取締役・常務執行役員である津吉学氏に、今回のレースで使われる水素について聞いた。

今回のレースで使う水素をつくっているのは、福島県浪江町にある世界最大級の水素製造施設「FH2R(福島水素エネルギー研究フィールド)」だ。ここでは太陽光エネルギーを利用して水素を製造している。今回は「どうせ使うならグリーン水素を使ってもらおう」ということで、FH2Rでつくった水素を持ち込んだという。

グリーン水素とは、製造過程でCO2を排出せずにつくられた水素のこと。太陽光発電の電力のみを用いてつくられたFH2Rの水素は、これに当たる。

一方、メタノールやLNG(液化天然ガス)といった化石燃料から水素を取り出すこともできるが、そのとき同時にCO2も発生してしまう。こうしてつくられた水素は、「グレー水素」と呼ばれる。また水素の製造過程で発生したCO2を回収し、地中に埋めるなどの処置を施した場合は「ブルー水素」となる。一口に水素といっても、こんな違いがあるのだ。

津吉
最終的には、風力や太陽光といった再生可能エネルギーから水素を直接つくれば、どこからもCO2が発生しませんから、環境には一番いいということになります。

森田
それがグリーン水素ですか。

津吉
はい、それがグリーンです。

森田
グレー、ブルー、グリーンと3つあって、今回はグリーン、と。

津吉
はい。

スタートドライバーは小林可夢偉選手

午後3時のスタート時刻が近づき、森田記者は富士スピードウェイのホームストレートにやってきた。いよいよ、世界で初めて水素エンジンを搭載したレーシングカーが走り出す。スタートの合図とともに、白い煙を上げながら小林可夢偉選手が駆るカローラが飛び出した。

1週目を終え、無事ホームストレートに戻ってきたROOKIE Racingのカローラ。森田記者も興奮気味にその勇姿を見守る。

森田
他のエンジンに負けない音がしています!でもちょっと、他のガソリンエンジンのクルマとは音が違った気がしますね。あれが水素の音か。

ピットに戻ってきたスタートドライバーの小林可夢偉選手と交代で、モリゾウ選手が乗り込む。給水素ゾーンでスムーズに充てんを終えると、勇ましい音を発しながらコースへと戻っていった。

この技術はしっかりやるべきだ

森田記者はさっそく、ドライビングを終えたばかりの小林可夢偉選手にインタビューした。実は可夢偉選手、水素エンジン車でレースに参戦するきっかけになった人物。昨年、豊田社長とともにトヨタの研修施設を訪れた際に、水素エンジンの試験車に乗り、直感的に「これしかないかも」と思ったという。その後、多くの人に話を聞き、自分なりに水素について調べていくうちに、「この技術はしっかりやるべきだ」と確信を深めていった。

では、なぜいきなりモータースポーツへの参戦という方法を選んだのか。そんな森田記者の問いかけに、可夢偉選手はハイブリッド技術の例を挙げた。一般的には「エコカー」のイメージが強いハイブリッド車だが、実はうまく使えばガソリンエンジン車よりもパワフルになる。実際にトヨタはハイブリッド車でWEC(世界耐久選手権)に参戦し、圧倒的な結果を残している。100年以上の歴史を誇るル・マン24時間レースのコースレコードは、トヨタのハイブリッド車が持っているほどだ。

水素エンジンも、単なるエコのための技術にしてしまってはもったいない、と可夢偉選手はいう。モータースポーツの場で多くの人に見てもらい、スポーティーなイメージをつくることで、さまざまなクルマに応用できるようにしたいと可夢偉選手は考えている。

レース開始から数時間。ピットでGRプロジェクト推進部の坂本尚之氏に最新の状況を聞いてみると、水素エンジンの課題である異常燃焼が少しずつ出てきているため、リアルタイムでデータを解析して原因を探りながら走らせているという。

森田
いま起きているトラブルは、開発過程では出てこなかったものが出てきているということですか。

坂本
まさに現場で起きていることを、現場のみんなで見ているという状況です。

森田
それがモータースポーツの現場でクルマを鍛えるということなんですか。

坂本
はい。まだはっきり分かっていないことが、たくさんあります。

(中略)

多くの仲間が、思いをひとつにして取り組んでいます。何か、共感するものがあったんでしょうね。“エンジンでカーボンニュートラル”という部分が、心に響くものがあったんじゃないでしょうか。

「失敗してもいい」からギリギリまで詰められる

無事に最初の走行を終えて戻ってきたモリゾウ選手にも話を聞いた。「運転した感覚は、ガソリン車とまったく変わらない」とモリゾウ選手は振り返る。唯一水素の存在を感じたのは、充てんのとき。充てんしている様子が映像でも流され、これだけ多くの皆さまに興味を持ってもらったことに驚いたという。

森田
24時間レースに新しいクルマを出すということは、失敗も多く出てきますよね。

豊田
私の場合、「お手並み拝見」「(失敗したら)そら見たことか」という環境で(社長を)やってきたんですよ。だから余計に「やってみて前へ行こうよ」と言えるのだと思います。

11年前に社長になったときと今では、同じ「責任を取る」という発言をしていても、仲間が違います。今の仲間たちは、失敗するギリギリのところまで詰めてくれる。それは私が「失敗してもいい」と言っているからです。もし私が「失敗するな」と言ったら、安全マージンを取るのが大企業です。

スタートから15時間。激闘の夜が明け、レースは残り9時間となった。実は深夜にトラブルがあったという。森田記者はドライバーを務めた松井孝允選手に話を聞いた。

森田
夜中にトラブルがあって、クルマが止まったと聞きました。

松井
コーナーを曲がっている途中で、電気系のトラブルで電源が落ちてしまったんです。再起動したら戻ったので、そのままピットに入って修理になりました。

小林可夢偉さんをはじめ、その場にいたドライバーも復旧を手伝いました。モリゾウ選手も激励に来てくださり、メカニックだけでなくみんなで直すというところは、すごく良かったなと思います。

水素エンジンはレスポンスの良さが楽しい

佐々木雅弘選手には、ドライバーだからこそ感じられる、水素エンジンとガソリンエンジンの違いを教えてくれた。

佐々木
水素は燃焼速度が6-7倍速いため、アクセルのレスポンスがいいところがメリットだと捉えていました。レスポンスの良さは気持ちよさにつながるので、「運転していて楽しい」というところにつながっていくと思います。

森田
FUN TO DRIVE、と。

佐々木
その通りです!

続いて井口卓人選手にもインタビュー。水素エンジンの印象を聞いた。

森田
井口選手の笑顔を見ていると、楽しそうだなと感じます。

井口
カーボンニュートラルを意識しながらですが、エンジン音を聞きながらドライブできているのがすごく楽しいですね。

見事に24時間を完走

撮影:三橋仁明/N-RAK PHOTO AGENCY

残り25分。いよいよモリゾウ選手が最後のスティントに向かう。森田記者も含め、現場の全員とグータッチし、カローラに乗り込んだ。24時間前と変わらぬエンジン音を響かせながらピットを後にするカローラの後ろ姿を、スタッフ全員で見守る。

残り1分を切り、ドライバーたち、チームメンバーたちはホームストレートに集結。見事24時間を走りきった水素エンジンカローラを出迎えた。小林可夢偉選手と抱き合って喜ぶ佐藤プレジデント。

森田
相当喜ばれていましたね

佐藤
ここまで苦しかったので、良かったです。みんなの努力が報われて良かった。感謝です。大勢の人に助けてもらったので、本当にありがたい。

あふれ出す涙を拭いながら話す佐藤氏の口をついて出てきたのは、ともに苦労してきた仲間への感謝の言葉だった。これには森田記者も思わずもらい泣き。

森田
24時間戦い抜くことのハードルの高さと、ここに来るまでの道のりの過酷さ。その両方を乗り越えて今があるということで、佐藤プレジデントがこらえきれなかった涙の理由がすごく分かる気がしました。

未来をつくるのは「意志ある情熱と行動」

水素エンジンによる24時間耐久レース完走という世界初の大仕事をやり遂げたチームメンバーたち。誰もが達成感と充実感あふれる、すばらしい表情をしていた。そんなメンバーを前に、豊田社長、いやモリゾウ選手が今回の挑戦を総括した。

豊田
1500kmを超える距離というと、東京・大阪間を2往復。24時間で走りきりました。水素エンジンを使い、未来のカーボンニュートラルに向けて新たな選択肢を作ろうじゃないかということで、会社の枠を超え、(日本の自動車産業に関わる)550万人の代表者として、皆さんがここに集結したと思います。

カーボンニュートラルで未来をつくるのは、意志ある情熱と行動だと思います。その行動を、スーパー耐久で、多くの皆さんの前で示してくれたと思います。

この行動を、これからも続けていくお約束して、皆さんへの感謝の気持ちに変えたいと思います。本当にご苦労さまでした。そしてありがとうございました。

今日はしっかり寝てください!

水素エンジンが大きな一歩を踏み出した

24時間レースへの密着取材を終えた森田記者。はじめて「水素エンジン」という言葉を聞いたのは、422日の会見だったという。モータースポーツで鍛えるとは、一体どういうことなんだろうという疑問とともに臨んだ取材では、水素を「つくって」「運んで」「使って」「見る」という水素のすべてが詰まっていた。

そしてレース取材で見えてきたものもある。モリゾウ選手がゴールした瞬間、エンジンの開発者からメカニックまで、全員が抱き合って喜びを分かちあっていた。水素エンジンという新しい技術で未来をつくるという「意志ある情熱と行動」が、そこにはあった。

森田
まさにこの瞬間というのは、水素エンジンという新しい技術が産声を上げて、未来に向けて大きな一歩を踏み出した歴史的な瞬間だと感じました。その現場に立ち会えたことを、強く幸せに感じています。その幸せの余韻に浸りながら、この富士スピードウェイを後にしたいと思います。ありがとうございました。

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