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モリゾウとしてマスタードライバーとして社長として...トヨタのクルマを変えた豊田章男

2023.06.08

トヨタ11代目社長・豊田章男の社長在任14年を振り返る特集。前編は商品を切り口に変革の軌跡を見ていきたい。

「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」を体現

4代目プリウスが、TNGAを体現し、走行性能の向上と原価低減を担ったクルマであったのと同様に、GRヤリスもまた多くの役目を与えられた一台だ。

豊田もマスタードライバーとして鍛えたGRヤリス(中央)

トヨタは2017年、1999年を最後に途絶えていたWRC(世界ラリー選手権)に「ヤリスWRC」で参戦する。

極限の環境下でクルマを走らせるモータースポーツでは、通常時にクルマが走る状況よりも、さらに高い限界性能が要求される。ヤリスWRCもまた、そうした環境下で、パワートレーンやサスペンション、クルマの制御が鍛えられていった。

2017年にWRCに参戦したヤリスWRC

同時に、数多くのトラブルや故障が起こる競技の世界では、1戦を終えると、次戦までの間にクルマを改善しなければならない。ドライバー、エンジニア、メカニックは、それぞれの専門領域を越えて、限られた期間に改善を施す。

まさに道がクルマを鍛え、クルマが人を鍛える状況がモータースポーツの現場にあった。

WRCで得られた知見をボデー剛性や足回りなどに反映させ、次のWRC参戦車両のベースとして開発された「GRヤリス」が2020年に発売される。

GRヤリスは、市販車をモータースポーツで勝てるように改造する従来のつくり方ではなく、モータースポーツで勝てるクルマのベース車両を市販車でつくる、逆転の発想が採られている。

これまで「86」や「スープラ」を復活させてきた豊田だが、いずれもSUBARUBMWとの共同開発であり、トヨタがゼロから開発するスポーツカーに並々ならぬ情熱を注いできた。

GRヤリスの開発では、初期から豊田もマスタードライバーとしてハンドルを握り、車両の開発に自ら参画してきた。

2020年9月の発売後間もなく、GRヤリスはスーパー耐久シリーズ2020富士24時間レースでクラス優勝を果たすと、2021年には英国カーオブザイヤーを受賞。GRブランドをけん引する一台となっている。

スポーツカーの開発は式年遷宮

豊田はスポーツカーの刷新にも着手する。

2000年代、トヨタのスポーツカーは生産終了が相次いでいた。2代目スープラが2002年、アルテッツァが2005年、MR-S2007年に終了。

当時のトヨタは、海外を中心に販売台数を伸ばし、規模の拡大を追求する中で、「売れるクルマ」「儲かるクルマ」を軸とした戦略を立てており、「一部のクルマ好きのためのクルマ」と位置付けられたスポーツカーは、重点ラインナップから外されてしまっていた。

それでも豊田は、レクサスLFA2010年)、862012年)と立て続けにスポーツカーを復活させた。LFAが発売される前年、豊田はトヨタのクルマ情報サイト「GAZOO」の中でスポーツカーの開発を続ける理由を記している。

レクサスLFA。2009年の東京モーターショーで市販モデルを発表。2010年12月から限定500台生産・販売した

スポーツカーの開発は、伊勢神宮の「式年遷宮」みたいなものだと思います。

伊勢神宮の式年遷宮とは、20年に1度、東から西へ、あるいは西から東へ、お社を完全に引越しするものです。

そうすることで、そのお社を建設する素材や材料の調達など、技術や技能の「伝承」を行っています。

(中略)

時代が悪いから、開発をやめると言うことではなく、将来を見据え、こういう時代でも技術や技能の伝承を続けることは、とても大切なことだと思います。

もちろん、20年前にはなかった多くの技術が、このLF-ALFAのプロトタイプコンセプトカー)には盛り込まれています。

カーボン素材や、時速300kmからでも安全に曲がれ止まれる技術、各種の機能部品など、色々な技術のブレークスルーもたくさんあります。

そんな開発が、今後、さまざまなクルマに活かされていくことを考えると、開発をやめるという理由は、見当たらないように思います。

2009.5月 GAZOO特集記事「伊勢神宮の式年遷宮…?」)

群戦略とカンパニー制

「売れるクルマ」「儲かるクルマ」優先をする中で、クラウンやカローラといったロングセラーモデルは、「時期が来たらモデルチェンジをする」という考え方に陥っていた。

豊田は「時代のニーズに合わせ、変化し続けるからこそロングセラー」と考え、時期を待ってマイナーチェンジを加えるのではなく、需要に応じてタイムリーに「もっといいクルマ」を提案できるよう、開発、生産、調達、営業、管理部門に至るまで、クルマづくりを見直す。

カローラはセダンであることにこだわらず、「カローラスポーツ」「カローラクロス」を。ヤリスも「GRヤリス」や「ヤリスクロス」といったラインナップを追加するなど、商品を群で展開するようになった。

カローラスポーツ、カローラツーリング、カローラ、カローラクロス

2016年にはカンパニー制を実施。製品軸ごとに「Toyota Compact Car Company」「Mid-size Vehicle Company」「CV Company」「Lexus International Co.」「新興国小型車カンパニー(2017年設立)」、機能軸ごとに「先進技術開発カンパニー」「パワートレーンカンパニー」「コネクティッドカンパニー」を立ち上げた。

トヨタという組織を、製品を軸に小さく分割。企画から生産までカンパニー内で完結させることで、意思決定のスピードを高めた。

カンパニー制の狙いについて、豊田は当時、次のように語っている。

本年4月の組織改正では、「もっといいクルマづくり」の原点である「製品」を軸により自立した小さなカンパニーに思い切って分けることで、「もっといいクルマづくり」をもう一歩前に進めてまいります。

(中略)

小さなカンパニーになることで、1,000万台の議論の中では埋没してしまうクルマが生き残る可能性が生まれてくる。

性能、デザイン、価格などお客様の価値観、使い方が多様化する中、何が重要で、何が重要でないかカンパニー単位で議論することで、お客様が望むクルマをよりスピーディーにお届けしていきたいと考えております。

今後、各カンパニーがレクサスのようなやり方をしていった時に、商品ラインナップが変わっていく、あるいはクルマの発想自体が大きく変化していくことも狙いの1つです。

2016年5月 3月期年次決算発表あいさつ)

カンパニー制の導入によって、売れる量、儲かる量で優先順位を決めるのではなく、各カンパニーが「社会や地域に必要とされているクルマなのか」を考え、開発の優先順位を決められるようになった。

2017年に24年ぶりにコースターが、2018年にはセンチュリーが21年ぶりのフルモデルチェンジを果たしている。

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