今年もやりますトヨタイムズスポーツ特別企画。場所は再び高校球児たちの聖地・甲子園球場。アジア大会も控える中、熱狂が生まれる場所に集まったのは...?
甲子園の“魔物”
森田
福井選手は1番熱狂した瞬間というのは?
福井
やっぱり甲子園で優勝したときは、大阪対決だったので満員でしたし、さっき話したように、いろいろ抱いていた想いもあったので1番喜べました。心から「よっしゃー」って気持ちになれたのは、あの瞬間だと思います。
今でも映像見たら思うんですけど、優勝が決まってみんながマウンドに集まるとき、もう誰も気を遣うことなく集まったんです。足を踏まれたりもしたんですけど、そんなことも忘れるぐらい嬉しかったのは、あの瞬間が1番かなって思います。
森田
その熱狂の正体をもう少し深掘ると、何に対しての熱狂なのか。自分たちが積み重ねてきたものが報われたことなのか、応援してくれた熱量なのかっていうのはどうですか?
福井
(試合)後半って、どんどん雰囲気が変わってきます。前半のホームランと後半のホームランって、同じホームランでも歓声が違うと経験上思っていて、その決勝戦は僕たちが3対0でリードしていました。ですが8回裏、一気に3点取られて、初めて甲子園が生きていると思ったんですよ。
バックネットの方からゴーっとうなりのようなものが起こって、どんどんヒートアップしていって…。もう観客が一球一打に声をあげて、追い込んでからもボールになるだけで「おぉ」みたいな。
そういう雰囲気に、最後は後押しされて、(勝った瞬間に)全部放たれたみたいな。そんなイメージです。
森田
どんどん溜まって、放たれた。
福井
1回戦から勝ち上がっていくにつれて溜まっていくので、決勝戦の9回とかはものすごい。
森田
その大会のすべてが詰まった状態がそこに。
福井
観客も最後なので声を出すし、心動かされる。それが決勝戦であり、優勝の瞬間かと思っています。
森田
佐竹さんは、プレーしているときは実は冷静で、いろんなことを考えているとおっしゃっていました。福井選手は、キャッチャーというポジションで、ある意味冷静じゃなきゃいけないところ。そこについてはどうですか?プレーしているときに熱くなって我を忘れるみたいなことはありますか?
福井
守備ではないですね。打席ではめっちゃあります。
福井
これは僕が勝手に思っていることなんですけど、人生で5回ぐらいゾーンに入ったことがあるんですよ。この前の岡崎で打ったタイムリー*も、気づいたら一、二塁間にいました。記憶がないんです。
*2026年6月にあった都市対抗野球大会 東海地区2次予選・第2代表決定戦、レッドクルーザーズは2点ビハインドの9回無死1塁、福井選手が代打で1点差に迫る適時二塁打を放った。チームはこの回同点に追いつき、延長10回サヨナラ勝ちで本選出場を決めた。
何年かに1回ぐらいのレベルで、打った瞬間を覚えていない、気づいたら走っている、一塁ベースの前にいる、みたいなことがあります。中学生のときに初めてゾーンに入ってから、これまで何回かだけあるんですが、そのときは我を忘れています。
森田
熱狂しているかもしれない。
福井
熱狂していると思います。
森田
スポーツってそうやって熱狂する、我を忘れる瞬間があるし、佐竹さんは周りの熱狂をすごく感じています。福井選手は六大学野球でも社会人でも大きな舞台を経験しています。
熱狂の熱みたいなものは、ステージが変わるごとに変化することはありますか? 甲子園で感じた熱と、東京ドーム、神宮球場で感じた熱は違うものですか。
福井
違いますね。カテゴリーが上がれば上がるほど、熱が冷めていく感じはあります。
高校野球が1番ガチャガチャしていて、早慶戦はなかなか入るんですけど、大学生になって、ちょっと大人になっている感じです。
森田
見ている人たちも?
佐竹
甲子園って(学校を)応援しているのはアルプススタンドじゃないですか。ほかの人は、みんな(高校野球の)ファンなんですよ。
でも早慶戦とかは、早稲田大学を応援する側と慶応義塾大学を応援する側がいる。社会人もそうなんですよ、基本的には。そこは違うと思います。
森田
そういう意味では、(観客席の)真っ二つ感は、大学・社会人の方があるかもしれない。
佐竹
さっき福井が「生きている」って言ったのは、まさしくそうで、負けている方が追い上げてくると、そっちを応援するファンがいっぱいいる。
森田
球場全体がそうなっちゃうんですよね。
佐竹
そういうところから“甲子園の魔物”って生まれるんですよ。僕ら(大学・社会人)は多分どれだけ追い上げられていても、自分たちを応援します。どちらを応援するかはっきり決まっている。
そこがこの独特な空間。それって甲子園だけじゃないかと。プロ野球でも分かれていると思います。
森田
佐竹さんは「社会人野球は大人の甲子園」「大人が本気で喜んで、泣いて、そういう魅力が社会人野球にはある」と言っていたじゃないですか。そこについてはどうですか。
佐竹
そう思っています。ただ今は残念なことに、さっきも言ったように、応援する目的がある人しか来ていない気がしています。社会人野球ファンはまだ少ない。
僕は本当に甲子園ぐらいの魅力はあると思っていて、だから今目指しているところは、甲子園です。
勝手に人が集まる。僕らが「頑張って来てください」とか声かけしなくても、勝手にチケットが売れる。それが目指すところです。
熱狂のカギはストーリー?
森田
熱狂することは、大人になるほど薄れてくる。「童心」とか言うじゃないですか。何も考えずに楽しめるのは、子どものほうが得意で、大人になって「でもこれはこういうことだしな」と、いろんなことが分かるほどに、冷静になってきちゃう部分があります。けれども、そんな大人たちが熱狂するために必要なことは何だと思いますか?
福井
なぜ大人になると薄れていくか、子どものころほど盛り上がれるか、少し考えたんですが、その背景みたいなところが大事かなと思います。
例えば「○○高校、甲子園初優勝がかかっています」となるだけで、たぶん高校野球ファンは応援したくなるじゃないですか。
僕が今熱狂するパターンって、例えば怪我をしていた選手がめちゃくちゃリハビリを頑張って、東京ドームのマウンドに上がり、そこで抑える。すごく感動するし「あいつ良かったな」って思えるんですけど、社会人野球を見に来る人たちは、多分そこ(怪我をしてリハビリを頑張ってきたこと)を知らないんですよ。
森田
熱狂にはストーリーが必要ってことですね。
福井
そうです。だからトヨタイムズスポーツの活動が大事だと思うんです。それを見てきた人は、より熱狂できると思うんですよ。
森田
我々の果たす役割は非常に大きいというわけですか。
アジア大会がこの先ありますけど、確かにあまり知らない選手が出場しても、なかなかストーリーを感じづらい。だけどその選手たちにも絶対ストーリーはあるじゃないですか。
それをみんなが知ることが、この空間に来て熱狂するためにすごく必要ってことですね。
佐竹
僕は3つ要素あると思っていて、まず高校野球がなんでこんな盛り上がるかというと、郷土愛みたいなものがあるんですよ。
自分の地元を応援するというのは絶対ありますよね。全然(通っていた学校とは)違う高校でも、自分の出身地のところが勝っていたら気になる。これは社会人野球とか大学では無い。
「(社会人野球だったら)豊田市がある」というと、じゃあ豊田市のトヨタ自動車に関係ない人が、すごく気にしているかといえば…?
もちろんメディアに出ていないからということもあります。まずスタート地点で全然認知度が違うということは1個あります。
それから高校生にはドラマがある。(大学・社会人に比べて)やっぱりメンタル的には幼いので、それこそ応援の力がもろにプレーに出ちゃうんですよ。
もう1個は、僕らめちゃくちゃ熱量高くプレーしているんですけど、それを制限されることがあるんです。
例えば都市対抗で逆転ホームランを打ちました。自然とみんなブワーってベンチを飛び出すじゃないですか。でも「戻りなさい」と指示される。
福井
ルールですね。ハイタッチは(ベンチの)中でしなさいと。
佐竹
それを見て「なんでみんな盛り上がらないんだろう」「ベンチから出てこないんだろう」と感じてしまうと思うんです。そこはぜひ、今後考えていただきたい部分です。
ファーストのランナーコーチがセーフとか(ジェスチャーする)。もう必死にやっているんで、セーフになりたいじゃないですか?バッターランナーも、ギリギリのタイミングでセーフとか(ジェスチャーする)。あれ自然に出てるんですよ。それも注意されます。
誰も審判への敬意を欠いているつもりなんてないんですよ。気持ちが入っているだけなんです。もう少し大らかに受け入れられるといいなと思っています。
2023年のWBCで、村上(宗隆選手)がメキシコ戦で打って、周東(佑京選手)が帰ってくるとき、みんなベンチを飛び出す。あれが1番絵になるじゃないですか。
あんなスーパースターが、あれだけ日本のために頑張って、サヨナラ勝ちにみんなが出てくる。観ている側からすると「ありがとう」、感動じゃないですか。
森田
そういう意味では、熱狂に秩序はいらない?
佐竹
いらないです。だって逆転サヨナラホームラン打ったのに、チームメイトがみんなベンチに座ってたら、応援している方も「はぁ?」ってなっちゃうでしょ?
森田
佐竹さんは感情のコントロールどうですか?
佐竹
僕は言ったように、イライラしているなとか怒っているなと思ったら、わざと怒っている顔をして、相手に「怒っているな」って思わせるようにしていました。そこで相手の裏をかきたい。
抑えようとするんじゃなくて「イライラしているように見せたら相手も考えてくれるかな」って。
いったん冷静になっています。
僕は自分1人では何もできないと思っているんで、巻き込もうとします。それこそ演じて観客やチームを巻き込む。
森田
もしかしたら最後の熱狂は、コントロールして生み出せる人もいるかもしれないですね。
佐竹
そうですね。僕は引退のとき1個だけミスしたことがあって、(グラウンドに)出ていくのが早過ぎたんですよ。
僕が出てウワーってなったときにアナウンスされたんですよ。ちょっと早過ぎたって思いました。
森田
そうですね。アナウンスの前に19番が見えていたんですよ。
佐竹
あれには裏話があって、19年の都市対抗のときは次の回から投げるって決まっていたのでベンチにいたんですよ。ベンチにいたから、タイミングを見て出て行けたんですよ。
24年のときはピンチでの登板だったんで、ずっとブルペンにいたんです。そこで「行くよ」って言われてから出て行ったので、アナウンスの状況とかが分からないんですよ。
それで、パッと出て行ったら早過ぎた。
これは(終わった試合なので)関係ないかもしれないですけど、僕が抑えても、打たれても、もう絵になる状況だったんで、どっちでもいいと思いましたね。抑えたら抑えたで絵になるし、打たれたら打たれたで、それで引退という場面、打たれて負けましたも絵になるなと思っていたから、何の緊張もなかったです。
福井
すごいです。
佐竹
でもこれは、僕も20代後半ぐらいから、こうやって考えたら自分は良いパフォーマンスができるんだと学んだから。