トヨタイムズスポーツ
2022.07.25
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走幅跳の見方が変わる! 芦田創が6回のジャンプで創る"試合展開"とは

2022.07.25

大会での6回のジャンプにはそれぞれ奥深い物語があった! 知られざる走幅跳の動作や技術、メンタル、試合展開まで、トヨタアスリートの芦田創選手が徹底的に解説する。

7月20日に配信されたトヨタイムズ放送部は、陸上の走幅跳を特集。右上肢障がいでT47クラスの日本記録を持つ芦田創選手をゲストに迎え、自身のジャンプの映像と心理を徹底解析した。6回のジャンプをどのような戦略で組み立てるのか、ファウルを次の跳躍にどうつなげるのか、シンプルに見えて深遠なる走幅跳の世界に迫る!

「芦田語録」に視聴者も期待

芦田選手は総務部に所属しており、リオ2016パラリンピックでは4x100mリレー銅メダルを獲得。放送部には準レギュラー的にスタジオゲストで出演してきたが、走幅跳がクローズアップされることには「ロングジャンパーとしては幸せな企画。取り上げていただけると本当にうれしい」と喜んでいた。

講演する機会も多く、独特の分析やボキャブラリーに富んだ発言が「芦田語録」と呼ばれることも多い芦田選手。視聴者からは「出るかな、語録」と期待するコメントが寄せられていた。

今回は、「6回のジャンプで”試合展開”を創る 」という特集のテーマに、芦田選手が名前の「創(はじむ)」が掛かっていることを発見。「そう」と読み違えられることが多いそうで、「あしだそう(足出そう)。こっちが陸上っぽくって良かったんちゃうかな」と関西人らしい一面を見せていた。

森田キャスターが気になった「試合展開」の言葉

走幅跳を特集したきっかけは、5月に開催されたジャパンパラ陸上で放送部が行ったインタビュー。計6回のジャンプの流れを「試合展開」という言葉で芦田選手が説明したのを聞いて、森田京之介キャスターが走幅跳の知られざる魅力に気付いたからだった。

「こんな言葉(試合展開)が出てくるのは想像していませんでした。走幅跳って相手がいるわけでもないし、目の前のジャンプにとにかく全力で挑む、そんなスポーツだと個人的には思っていました」と、森田キャスターは走幅跳への先入観が覆されたことを説明した。

番組では、6月に神戸で行われたパラ陸上の日本選手権を取材。森田キャスターが自らカメラを手に、芦田選手の6回のジャンプ全てを現場で実況した。その映像をスタジオで芦田選手本人と見ながら、一つ一つの跳躍の動作や心理状態をたっぷりと時間をかけて分析した。

いいジャンプがいい記録とは限らない

最初に解説した1回目の跳躍はファウル。ジャンプ前に考えていた試合展開や、2回目に向けての軌道修正について、自身の考えていたことを芦田選手が詳しく説明していく。

2回目は6m69の記録を残したが、「ミス跳躍だった」と芦田選手は分析する。踏切の一歩前が大股になっているスロー映像を見ながら、自分のミスについて徹底的に解説。アスリートがここまで“自分のミス”を掘り下げるシーンは正直あまり見たことがない。

スタジオでも実際に芦田選手が体を動かして、踏切の際の動作などを再現した。ジャンプ後の動きなどの解説を聞いて、森田キャスターは「記録だけ見ると2回目の方がいいジャンプに見えるけど、全然違う!」と納得していた。

走幅跳は奥が深い「メンタルゲーム」

3回目は攻めすぎて、明らかなファウルに。「(2回目で記録が出たので)今度は欲との勝負になってくるんですよ。3回目は助走を速く走ろうだとか、踏切をギリギリ攻めようだとか、いろんな欲が出てくるので。そこも冷静になれないと、世界大会で勝負するのが難しくなってくる」とメンタル面での難しさを教えてくれた。

その後の跳躍では身体の重心が傾いたり、疲れが出てきたりとフィジカル面についても解説。合間にコーチと何を話したのかなど、それぞれの跳躍について理論的にわかりやすく語ってくれた。

最後の6回目はファウルに終わったが、「跳躍自体はまとまりがすごくありました」という芦田選手。「(記録が)残った2回ともミス跳躍だったので、正直不完全燃焼でした」とも話し、この日の課題をあらためて振り返った。

芦田選手が1回のジャンプに込める思考を垣間見て、森田キャスターは「そんなに考えなきゃいけないんだと思いましたし、奥が深い」と感心していた。芦田選手が「正直めちゃめちゃメンタルゲーム」と話す通り、その難しさや魅力はまだまだ語り尽くせないようだ。

坂部雄作コーチの言葉の表現力にも注目

放送部では競技終了後に、芦田選手を指導している坂部雄作コーチにもインタビューを行った。走幅跳の奥深さを感じさせるワードが散りばめられており、非常に興味深い内容だ。

「陸上競技は非常に面白くて、冬のトレーニングが早く開花してしまうと、つぼむのも早い。“記録の夏バテ”と言って、冬のトレーニング(の結果が)早く出過ぎると、今度はちょっと記録が納まってくるんですね」と坂部コーチ。芦田選手は再び軽いトレーニングを始めたため体が疲労しており、今回は6m69という記録で良かったと受け止めているそうだ。

6回中ファウルが4回と多かったことについて、坂部コーチは「昔は踏切の準備をずっと続けているような助走だった。それを短距離選手のような最大スピードで、軽自動車から乗用車にエンジンが変わった」と話す。体の硬さが取れて、今は足がナチュラルに回り始めたゆえの結果だという。

「一皮むけ始めた時って、思ったより感覚が前に出たり、コントロール能力がバラバラになるんです。あれは彼が脱皮しかけている現象で、まだちょっと暴れているんですよね。まだ刀を磨く段階ではなく、打ちつけて大きい刀がやっとできたところ」

そう語る坂部コーチは「今日の動きは、次につながる素晴らしい動き。(一皮)早くめくれ始めたので、ペリッとめくれた時に一発いい記録が出るかもしれない。(今シーズンは)7m近くまでは必ず飛ぶと思います」と期待を寄せていた。

助走だけにこだわって復調の兆し

走幅跳は「助走」「踏切」「空中動作」「着地」の4つの要素に分けられる。芦田選手は「助走が9割以上勝負を決めてしまうだろう」という見解を示した。

「踏切・空中動作・着地の練習を一旦置いて、ずっと助走作りのトレーニングを今しているので、ファウルが多くなる。ただ、助走だけにこだわる中で復調の兆しが出てきたのは、もうひと化けする可能性があるので、個人的には楽しみ」と話す。

6月の大会後の練習では、速度のピークと踏切位置が一致するように、助走の位置を調整した。世界選手権やパリ2024パラリンピックに向けて戦いは続くが、「秋の試合で今シーズンの走幅跳をまず完成させることができれば、もう一冬越えた時に、世界大会で大きな勝負ができるんじゃないかな」と展望を語った。

考えて跳ぶことの大切さと難しさ

最後に森田キャスターが、走幅跳で何が大事かについて質問した。芦田選手は「これだけ考えることがあるんですけど、考えていては良い記録が出ないですね。何なんですかね、この奥深さは」と苦笑。自分の限界を突破するために「考えないのではなくて、考えなくてもできるという“自動化”に持っていかなくては」と、究極の目標を口にしていた。

「靴の中砂まみれにならないのかな」といった視聴者からの質問にも、わかりやすく丁寧に答えていた芦田選手。「走幅跳に注目してください! もっと跳躍そのものでお見せできるように、いいジャンプをします!」と力強くアピール。パリに向けての大ジャンプを、手拍子で応援しよう!

毎週水曜日11:50からYouTubeで生配信しているトヨタイムズ放送部。次回(2022年7月27日)は、今年でクラブ創設30周年のサッカー・名古屋グランパスを特集。山口素弘GMをゲストに迎え、レジェンドの楢崎正剛さんやキャプテンの稲垣祥選手らへのインタビューなどをお届けする予定。ぜひ、お見逃しなく!

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