3年ぶりに議長席へ戻った豊田章男会長。株主からの問いにどう向き合ったのか。
6月17日早朝、トヨタ自動車の株主総会のメイン会場となる本館ホール(愛知県豊田市)前には、早くも多くの株主が集まり始めていた。
開場を待つ株主の列に、豊田章男会長が姿を見せ、記念撮影などに応じる――。株主の間では知られた光景だ。今年も豊田会長は、特製のステッカーを配って回るなど、株主と直接触れ合うひと時を過ごした。
2026年のトヨタの株主総会を紹介するトヨタイムズ記事。後編は3年ぶりに議長席に戻った豊田章男会長の発言を中心に振り返る。
豊田会長にとっての株主総会とは
「豊田会長が議長になってから株主総会が笑あり涙ありに変わった」という株主。では豊田会長自身は株主総会をどう捉えていたのか。
自身の歩みを振り返り、会社と株主の間での「本音の場」としての株主総会のあり方に思いを馳せた。
豊田会長
私が14年間、前任の佐藤(恒治副会長)が3年間やってきた株主総会で、多くの変化を感じ取っていただいたと思います。
実はコロナ禍のとき、300名の株主の方にここに来ていただきましたが、今日は今現在8,922名(最終的には過去最多9,040人)の方が株主総会にご来場いただいております。
こんなに多くの株主の方に支えられているということで、本当に感謝の言葉しかございません。本当にありがとうございます。
株主総会が変わったというのも、「もっといいクルマづくり革命」と言わせていただければと思いますが、私がこれをやらせていただいた、その原点は、私がエンジニアでないということと、会社が赤字(の状態)で、バトンを引き継いだということの2点に尽きると思います。
そしてもう一つ。あえて言うのであれば、公聴会にトヨタを代表して行った。この3つが、私の全てのスタートポイントになったと思います。
当時赤字で、どちらかというとお金を作っているということで、褒められていたトヨタ自動車。これに対して、(最後に責任を引き受け、全体を守る)しんがり社長じゃないですが「お手並み拝見、早く赤字の責任取って辞めなさいよ」という(中で)バトンを受けた私としては、本当にこのトヨタ自動車(の社長職)を受けたとき、大変なプレッシャーも感じましたし、自分は一体何をしたらいいのか正直わかりませんでした。
自分が唯一できることは、トヨタが好きだよね。そして運転大好きだよね(ということ)。
そうなると、自分がニュルブルクリンクで、命を懸けてクルマと接している姿を見せることでしか、トヨタの方向性を変えることはできないと思いました。
それから当時は、私が運転するということに対して「ボンボンの道楽だ」とか社内外からも、大変厳しいご指摘もいただきました。今では、いろいろなところに行くと、そういう方の応援で元気をいただいておりますし、何よりも「クルマ変わったね」と言っていただけることが一番の喜びです。
もう一つの大きな変化は、やはり米国公聴会の証言台に立った日が、私にとってはターニングポイントだったんじゃないかなとも思っております。
会社存亡の危機に直面したとき、トヨタの現在ではなく、過去も未来も背負って戦うこと、トヨタだけでなく、グループ会社、販売店、仕入先まで含めた責任を取ること。それがこの(創業家の)名前がついた私の役割なのかなと思って、毎日毎日戦ってまいりました。
何とか株主様を初め多くの仲間たちに支えられ、今会長となって、またこの議長席に戻ってくるようなことになっておりますが、当時と今で一番違うのはクルマづくりの仲間がいるということです。
私には部下はおりませんが、仲間がおります。その仲間たちとともに、もっといいクルマをつくっていくトヨタに、ぜひともご期待いただきたいです。
株主様というのは会社のオーナーです。一時は、株主総会は1年に1回、自分たちを鏡に映してみるときだと思っていました。ですが、トヨタの株主総会ぐらい、日本に1個ぐらい、オーナーである皆様と、こちら側の執行メンバーのみんなが、本音で話し合う場があったっていいのではないかということで、(これからは)こういう株主総会にしていきたいと思っております。
私も久々に議長に戻って、議長から指名される側ではなく、指名する側(になりました)。これもなかなかいいもんだなと思っております。指名されるとなると、ドキドキしていないといけませんが、こちらがコントロールを握っています。
他のメンバーは大変でしょうが、許されるならもうちょっとやってもいいかなと思います。ただ、これは会社が決めることですが。
(会場から笑いと歓迎の拍手)
株主のみなさまと一緒につくり上げる株主総会です。ぜひとも世界に誇れる株主総会をつくっていきたいと思いますので、これからも温かくも厳しいご指摘をいただいて、それがオーナーの役割だと思います。
オーナーとしてぜひそういう役割をお願いすることによって回答にかえさせていただきたいと思います。
本当の意味での再発防止
豊田会長
まず、なぜ私が会見に臨んだかというと、あのような問題が起きると、どうしても世の中は「再発防止」というところに目がいくと思います。
毎日現場ではいろいろなことが起こります。計画通りにはまいりません。そういった中で、初動を正しく(取り)、何か間違いがあったらすぐ止まり、直す。それでトヨタは長きにわたり「品質」という期待に応えてきたと思います。
そんな中で再発防止と言われますと、世の中は「犯人捜し」になるんですね。トップの役割というのは、決断することと責任を取ることだと思います。
また、当時会見に臨んだ豊田会長は、メディアとの質疑応答で「(問題発生の)撲滅は無理だと思う」と発言している。この時の言葉の真意について続けて説明した。
豊田会長
トヨタほどのグローバルで大きな会社になりますと、一人の原因で問題が起きるわけではございません。いろいろな人が関わってクルマをつくっております。
そんな中で「犯人はこの人です」というときに、一番的確な人物は私自身だと思っているんです。私自身が「私が犯人です」と自首することにより何が起こったかというと、現場が落ち着き、本当の意味での再発防止が行われたと思っております。
工業製品である以上、ばらつきがあります。1,000万台のクルマを売っておりますと、意図してなくてもそういうことは起こる可能性がございます。
そうした時に、私が「二度と起きませんよ」ということを公の場で言ってしまうと、大企業というのは「会長に恥をかかせてはいけない」と(問題を)隠す可能性もあるんです。隠すことこそが一番の問題だと思います。
問題は起きるということを認めた上で、責任者が責任者の行動をとる。それによって、現場が落ち着いて次の日から仕事ができる。
「物と情報の流れ図」(を使った不正が起きる真因の追究)を本当の前工程からやりました。
「間違いはなくならない」という言葉は、開き直りではない。問題を隠さず、すぐに止まり、直すために、責任者が責任者として前に立つという趣旨を改めて強調した。