東京オートサロンで始まった喧嘩三番勝負の一番「米国生産カムリ カスタム対決!」がS耐24時間レースで行われた。この勝負を通して語られたモリゾウの想いを取材した。
2026年6月5日から7日かけて富士モータースポーツフォレストで行われたスーパー耐久シリーズ(S耐)第3戦富士24時間レースでモータースポーツを通した日米の文化交流が行われた。
この交流は、昨年のS耐最終戦で行われたジョージ・グラス駐日米国大使を招いたNASCARのデモランから行われている。
S耐24時間に持ち込まれた喧嘩三番勝負
今回、その文化交流を盛り上げようと行われたのが、チームGAZOO Racing(GR)のモリゾウこと豊田章男とチームTOYOTA Racing(TR)のジャイアーノこと中嶋裕樹副社長による「米国生産カムリ カスタム対決!」だ。
この「米国生産カムリ カスタム対決!」は今年の1月に幕張メッセで行われた東京オートサロンの会場で発表されていた喧嘩三番勝負の一番である。
6月5日に行われたプレスブリーフィングに現れたのは、チームGRのモリゾウとレーシングドライバーの佐々木雅弘選手。
チームTRはジャイアーノとプリウス開発時にモリゾウと喧嘩したこともあるというTRの特攻隊長、Mid-size Vehicle Companyの泉屋亨主幹だ。
トヨタイムズの富川悠太キャスターの紹介によってさわやかに登場したモリゾウと佐々木雅弘選手。
一方でチームTRはティアドロップのサングラスをかけて、悪役レスラーのような出立ちで登場した。
この対決が始まった理由について、ジャイアーノはこう説明する。
ジャイアーノ
カムリというクルマは今、残念ながら日本では売っていません。アメリカで人気のあるクルマで、昨年アメリカへ行ったときに若い人たちがカムリはものすごく人気あると言っていました。
アメリカといえばSUVだろと思っていたんですけど、若い人はお父さんお母さんがSUVにずっと乗っているので、逆にセダンがクールでかっこいいと。
この話をモリゾウさんにしたら、全然僕が知らないうちに、2つの喧嘩だったはずが三番勝負だと言って、このカムリ対決が仕組まれていました。喧嘩を売ったわけではなく売られました。
この勝負に「負けるわけがない」と自信を見せるジャイアーノに対して、モリゾウも応じる。
モリゾウ
あのね、負けないんです、私。常に、負けないの。
東京オートサロンで行われた一番勝負「チームモリゾウ(GR)vsダイハツ親子ゲンカ」。ダイハツのハイゼットトラックカスタム対決でもモリゾウは僅差で勝利を収めた。モリゾウは今回の勝負についてもこのように話す。
モリゾウ
勝つときしか仕掛けませんから僕は。だから負ける時には喧嘩売らないから。自信とかじゃないの。実績、事実。
カスタムされたカスタムはまさかの姿に
両チームが自信を見せる中、2台の米国産カムリがアンベールされた。
チームGRはエアロバンパーに、オーバーフェンダー、リヤに大型スポイラーとレーシングカー風の出立ち。しかしこのクルマは見た目だけでは無かった。
チームGRの佐々木選手は外観からではわからない、こだわりのカスタムについて、このように説明した。
佐々木選手
上品さも楽しみながら、パッと見た瞬間に「かっこいいな、このカムリ」というのを目指しています。市販化を目指して僕らはやっています。
これ中身がすごいんです。実はこれ、このままでは分からないんですけれども、エンジンがすごいんですよ。7気筒のエンジンが載っています。
これには司会を務める富川キャスターも混乱した様子で「ちょっと待って、気筒って偶数じゃ無かったんでしたっけ?」と質問する。
佐々木選手
フロントに3気筒エンジン、リヤに4気筒エンジンが載っています。ツインエンジン。
一方でチームTRのカムリはフロントのボンネットとチンスポイラーを限界まで延長し、引っ張りタイヤに深リムのホイール、それを包み込むビス止めのオーバーフェンダー、リヤにも延長されたリヤスポイラーと反り立つエキゾーストを持つ。
竹ヤリ(エキゾーストのこと)出っ歯(フロントのチンスポイラーのこと)というカムリの原型を留めないド派手なエアロは、往年の「街道レーサー」を思わせるスタイルで登場し会場を沸かせた。
このクルマのポイントについて、MS Companyの泉屋主幹改め、泉屋特攻隊長はこのように説明した。
泉屋特攻隊
誇張しすぎたハンマーヘッド。それと同じく飛び出たチンスポ出っ歯。サイドは圧倒的に張り出したビス止めオーバーフェンダー。
そして、シューティングスターをあしらったリヤスポイラー。さらには天まで届く竹やりマフラーとまさに、往年のグラチャンスタイルを表現しました。
内装は、真っ先に目に付くシャンデリア、リヤシートには、ビルトインされた2つのスピーカーがあります。
そして、もちろんメーターにもこだわっています。最後にセンターコンソールに目をやるとクリスタルケースとクリスタルシフトノブ。
カムリをつくっているケンタッキーをオマージュしたケンタッキーバーボンが入っています。
これにはモリゾウも「ケンタッキーは馬でしょ?」とツッコミを入れる。
泉屋特攻隊
バーボンといえばジャイアーノはロックでいただくということで、バラ入りの氷があしらわれています。
このようにですね、あの随所にこだわりのこもったカスタムになってます。
全体のイメージはジャイアーノの応接室なので、最後にここにジャイアーノが鎮座して完成です。
チームTRのカムリに込められた秘密
ここでジャイアーノが「まだ誰も気づいてない秘密がもう1つあるんです。」と説明を始めた。それがハンドルの位置だ。ジャイアーノがサングラスを外し、中嶋副社長へと戻り話を進める。
中嶋副社長
ここからはあのトヨタ自動車の中島がお伝えさせていただきます。ちゃんと普通に真面目に戻りました。
カムリを日本へ持ってきたい。タンドラとハイランダーはすでに(国土交通省の)大臣認定をいただいて日本に持ってきて(発売を開始して)います。
受注もいただいているということで本当にありがたいです。我々としては、このカムリをアメリカ生産でちゃんと右ハンドルにして日本の公道を走れるように、全て車検も通るようにして、お客様の元にお届けしようと考えている次第でございます。時期は秋頃を予定しています。
そこにモリゾウが「それを言うためにチームジャイアーノは、何でこんな公道走れないクルマを持ってきたの?」と詰め寄る。
モリゾウの言葉を受け中嶋副社長はサングラスをかけ、ジャイアーノに戻るとこのように続けた。
ジャイアーノ
ごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ。やりたかったんだよ(笑)
そして、またサングラスを外すと中嶋副社長に戻り、こう続ける。
中嶋副社長
もちろんこの形では発売できないですから、ちゃんとしたカムリの形でお届けしたいんですけど。
ちょっと目標がありまして、なんとか年間に1万台ぐらい売りたいなんてこと考えています。
営業担当の副社長の宮崎(洋一)に「今日、言っちゃうよ」って言ったら、言ってもいいって言うわけです。やる気満々なわけですよ。
なので是非とも皆さんに、こういう形ではお届けできないですけど、ベースのカムリをぜひ日本でまた乗っていただければと思う次第でございます。
全てのステークホルダーをWINNERに
関税問題で全てのステークホルダーをWINNER(勝者)にしたいモリゾウは、改めて米国生産車を日本に導入する意味ついて説明した。
モリゾウ
トヨタって今、世界中でクルマをつくらせてもらっているじゃないですか。やっぱり日本の自動車産業を支えるためにはある程度、日本生産の量を確保しとかないと、これだけ経済波及効果の多い自動車産業を築き上げるのは難しいんですよ。
ところが関税問題とかになってくると、そもそも我々はアメリカでもクルマつくっているよねと。
メイド・バイ・トヨタじゃなくて、メイド・バイ・トヨタ・イン・アメリカ(米国生産)、メイド・バイ・トヨタ・イン・チャイナ(中国生産)、メイド・バイ・トヨタ・イン・アジア(アジア生産)、いろんなとこでつくらせてもらっています。
そういうクルマを日本に導入する。特にカムリというクルマは、あれだけ日本にファンもおられながら、今は残念ながら日本生産は無いです。
日本販売も止まっていますから、そういう意味で「こういう可能性もあるよ」(と示す)。それでトレードバランスも多少改善すれば、関税問題も少しは見直しになるんじゃないかと。
私は関税問題で全てのステークホルダーをWINNER(勝者)にしたいと言っています。1番WINNERにしたいのはお客様です。
ガバメント(政府)もWINNERになってもらいたい。そして、どのマニュファクチャラー(製造メーカー)にもWINNERになってもらいたい。そうなると、やっぱりこういう一手もあるよねと。
単に関税交渉もいいんですけど、それだけじゃなくて、やっぱり自動車産業って本当に多くの方が関わっていますから、そういう方が今の強みを活かした形で、なんとか両方がWINNERになる方法の1つになってくれたらいいなと思っています。
会場に集まった米国生産車
この言葉の通り、米国産カムリ対決が行われたイベント広場にはメイド・イン・アメリカの日本車が並ぶアメリカパークが設けられていた。
ここでは、すでに発売となっているトヨタ・タンドラのほか、日本市場への導入を検討しているミッドサイズ3列SUVモデルSUBARUアセント、今年の後半に導入予定のホンダPASSPORT TRAIL SPORT ELITE(パスポートトレイルスポーツエリート)、2027年初頭より販売を開始すると発表した日産ムラーノなどが展示された。
6月5日の練習走行後にモリゾウは、米国生産の日産ムラーノを見つけ日産のフラッグを両手に「アメリカ生産のクルマで日本にお持ちしました。日本のお客様にも、ぜひ使っていただきたいと思います。日産ムラーノ」と紹介する動画をSNSのXに投稿している。
ST-USAクラスに出場するマスタング
カムリの生産地といえば「馬」と話すモリゾウ。S耐には、北アメリカ大陸で野生化した馬の名を由来にしたクルマも参戦している。
それが、ST-USAクラスに出場するバースレーシングプロジェクトのBRP★HOJUST MUSTANG DHR 250号車だ。
馬のマークが象徴的なフォード・マスタングで、米国の建国250周年に合わせゼッケンも250を付ける。
ST-USAクラスは、昨年の最終戦から新設されたアメリカ製車両およびチームの招聘を通じて、日米両国のモータースポーツおよび自動車文化の交流促進を狙うクラスとなっている。
24時間レーススタート前にはこの250号車を応援するため、全国からマスタングオーナーが集結し68台のマスタングパレードランが行われ会場を盛り上げた。
そして、肝心の喧嘩三番勝負「米国生産カムリ カスタム対決」の結果はというと、チームGRの『モリゾウ』カスタム5,812票、チームTRの『ジャイアーノ』カスタムが4,670票となり、1,142票差でチームGRが勝利した。
ちなみに、東京オートサロンで約束した喧嘩三番勝負のもう一番。GRに対してTRを立ち上げた社内抗争。
「モリゾウの力を借りずにトヨタのエンジニアだけで、必ず今年のル・マン24時間で優勝し、トロフィーをここに叩きつける」と語ったジャイアーノ率いるTRは、このレースの翌週に行われたル・マン24時間レースで1位と3位でフィニッシュし、宣言通り勝利を掴み取っている。
モリゾウにトロフィーを叩きつけるジャイアーノは、また別の機会にお伝えしたい。