機能の壁を越え、もっといいクルマづくりを追求する。時には本音でぶつかりながらも。眼前の難局を共有した労使。強い収益構造をつくるため、必要なのは覚悟と行動だ。
自ら技を磨く「場」へ
秋山副委員長からはほかにも「視野をもっと広げるため、一人ひとりもっと外に出ていかなくてはいけない」という発言もあった。
社外に出て知見を蓄えるという観点では、田原支部が平時から仕入先を訪ねることで本音を話してもらえる関係を築けたエピソードを披露。立ち居振る舞いが仕入先の負担になっていないか、メンバーで自問自答するきっかけになったという。
議長を務める河合満おやじも「50特別研修(外を学ぶ機会)」が始まった当時を振り返った。
河合おやじ
50特別研修を始めたのは7年前。トヨタの教育は、一律教育、集合教育。全部枠にはめられて温室で育つ教育ばかり。本当にこれでいいのかと疑問に思っていました。
これまではレポートを数枚書いてそれを発表して指導を受けることが、工長になる教育でしたが、19年前に人事が1回だけ(50特別研修を)やりました。
何も知らない7人を他社へ、何も言わず、とにかく行けと言われただけで一カ月そこで面倒を見てもらいました。私は生涯の教育の中で、それが一番育った印象がある。これこそ教育だということで、ぜひこれを復活させようと、7年前提案しました。
ただ各職場からは、組長で、しかもその年齢・資格の人間を社外で一作業者として働かせるのかと、ずいぶん反発を受けました。
社外70社に(受け入れを)お願いしましたが、ほとんどが「トヨタの人は受けたくない」「めんどう見をしないといけないから仕事が増える」と反対されました。
私もずいぶん(協力してくれる会社を)回りました。
研修生には、1カ月目はトヨタの看板、立場を全て捨てて、先方にどうしたら仲間として受け入れてもらえるか、そういう人間力を養えと(話しました)。2カ月目はともに一緒に汗かいて、がむしゃらに頑張ってくれ。3カ月目は、お世話になった先方に感謝の気持ちを置いてきて欲しい。「改善をやるとこんなに楽になるよ」というきっかけを置いてきて欲しいと(伝えました)。
「『自分がこれをやった』と手柄を立てて帰ってきた人はダメ。手柄はいらない。向こうに少しそういう財産を置いてこい」と言って6年やりました。
「(自動車産業を支える)550万人(の仲間)」という言葉は使いますが、本当にそういう人たちはどういう苦労をしながら我々を助けていただいているか。それを感じてほしいということもありました。
こういうことを、もっと事技職も業務職の皆さんも(取り組んでほしい)。社外だけじゃなく、前後工程でもトヨタの中では、勉強しようと思ったらいくらでも(機会が)あるんです。技を磨く「場」はどこだと自ら考えて、そういうところへ行く。
とにかく自ら働いて動き出すっていうことをやらないと、こういう会話になっても誰か決めてくれないと動けないというのが、こういう風に育てられた実態かもしれません。それを今回で切り替えましょう。
事技職が社外の「場」で知見を深めた事例では、事業・営業・カスタマーファースト(CF)支部が、お客様や販売店の指摘から対策に取り組んでいる事例を報告。機能上問題ない部分であったとしても、お客様の不安に対応する販売店スタッフの姿を目の当たりにして「(現場の)レポートだけを見て分かったつもりになっていた」「想像力、思いをはせていくということが足りていなかった」と述懐した。
CF本部の宮本眞志 本部長は、将来にわたって収益構造で苦しまないようにするためにも、人材育成の重要性を説く。
宮本本部長
クルマづくりでの我々の最後の目的は、いいクルマをお客さまにお届けして、喜んでいただき幸せの量産をすること。その観点で言うと、今の会社が置かれてる状況は、失敗の繰り返しで本当に仕事が増えている。
品質問題でラインが止まってクルマがつくれない。その結果、無償修理が増え、損益分岐台数が上がるという構造で今苦しんでいます。これを明日解決できる方法はないかもしれませんが、5年、10年先、こういうことが続かないようにするにはやはり人材育成だと思います。
その観点で言うと、本当に大事なのは、知識や技能を磨くことはもちろん、その根底にある人を磨くということをしなきゃいけないと思います。
その一番の近道は、自分がやった仕事が良かったかどうかを、ちゃんと自分で知ることだと思います。よく(豊田章男)会長がおっしゃっていました。レストランでは、料理人は、お客様のフィードバックを直接聞いて、自分に生かす。
まずかったら叱られる。おいしかったら褒められる。それで技能が上がっていくし、技術が上がっていくし、志も上がっていく。だからこそ、そのような場づくりは本当に大切だと思います。
そういう意味で、今はどうかというと、本当にプロジェクトが目白押しで忙しく、現場もパンパンで、何かプロジェクトが終わったら、「はい次」となってしまう構造になっていると思います。
宮本本部長は続けて「プロジェクトが終われば、そのまま開発、製造のメンバーがCF本部の分室や販売店に向かい、お客様の声を聞いて、それぞれの部署に戻るということをやってはどうか」とも提案した。
熊倉和生 調達本部長は、これまであまり仕入先を直接訪れることのなかった人事や経理部門も、現場に行くことで「何が起こっているか、修羅場とは何かということを勉強しながら先に進んでいけると思う」とする。
「仕入先さんのサポートという意味でも、一緒になってやっていければ、それが将来の競争力につながる」と、今後の機能の壁を越えた取り組みに期待を寄せた。