機能の壁を越え、もっといいクルマづくりを追求する。時には本音でぶつかりながらも。眼前の難局を共有した労使。強い収益構造をつくるため、必要なのは覚悟と行動だ。
両副社長の想い
会社からはほかにも、仕入先や製造現場が具体的に動き始める金型着手の段階で、場合によっては、マネジメントがアンドン*の紐を引く役割を担うこと、職場の応受援をやり易くするために負荷の視える化、工程の洗い出しを進めるという提案もあった。
*生産ラインにおいて異常を他者に伝えるための設備。
ここで、会社と組合のやり取りを聞いていた宮崎洋一 副社長が、おもむろに手をあげた。
宮崎副社長
会社と組合のやり取りを聞いていて、思うことをいくつかお話させていただきたいと思います。
今回の労使協が始まる前に、近さんから「いろいろな取り組みはやるけれども、やった結果として、固定費がさらに上がってはダメなんだ」ということをお話させていただいたと思います。
今日のやり取りと前回から、組合からの気持ちが伝わってきて、悔しい想いを本当にしていること、皆さんが変わってきてくれていると感じていました。
今日、会社の方から「こういうことも一緒にやっていこう」という話をさせてもらいましたが、結果としてそれが「競争力、生産性が上がり、損益分岐台数が下がる」というところまでいかないと、話し合いだけで終わってしまう。気持ちの掛け合いだけで終わってしまう。
今、話を聞いていて、揚げ足を取るつもりも水を差すつもりもありませんが、もう1つ踏み込もうよと思ったのは、いいことであれば「一部の職場からトライする」とか「意志あるところからトライする」ではない。
気持ちは確認したのだから「意志あるところばかりにしてくださいよ」という感じがする。「一部からトライ」ということが、もしかすると私たちの古い考え方かもしれない。
いいことだと分かっているのであれば、(意志ある職場だらけにして)一気にやればいいじゃないか。こういう発想もできると思うので、そこまで踏み込んで会社と職場は会話をさせていただきたい。
製技(製造技術)の皆さんの話を聞いて「設備が故障しているのか、そうだったのか。前向きに動かなきゃ」と(感じました)。それに気づいてくれたことは、ありがたいことだと思いますが、「今なの?」というのも正直感じています。
僕が後ろ(会社側)に向かって言いたいのは「なぜそんなコミュニケーションを、職場でしてくれていないんだ?」「現場がそれだけ困っているのであれば、みんなで設備を止めないように改善するのが普通じゃないのか?」と。
アクションが遅い。このままだと、気持ちはあったけれど行動するのにいつまでかかるのかなと思います。
今日(労使で)目線は合いましたが…会社と組合が一緒になって設備が止まらないように改善する。これは一生懸命やろう。
でも万が一止まったら?
「大丈夫ですよ、僕たち必ず挽回しますから!」というぐらい(気持ちが)感じられると、皆さんからいただいている高い要求に対しても考え始められると思います。
冒頭に近さんからありましたが、マイナスをゼロにして終わるだけでは、皆さんの要求に対して応えられない。「プラスになるんだな」というのを感じさせてもらうところまで、ぜひ(お願いしたい)。
水を差すつもりはないですし、背中を押していきたい。会社としても皆さんと一緒になって、競争力をもっともっと高めていくようにしたいので、そこまでの会話を、会社のメンバーには、皆さんに問いかけていってほしい。皆さんと一緒に競争力につながるようなことを、今日からでもやって欲しいと思います。
皆さんから見て、会社の提案や回答が「いやそんなものでは、まだダメですよ」ということがあれば、遠慮なく言ってもらう。我々も一緒に動いていきます。
ぜひこの後の会話でも、気持ちを合わせていただいて、行動につながるような話し合いをさせていただきたい。
「アクションが遅い」。宮崎副社長の言葉は、前に座る組合、後ろに並ぶ会社、双方に向けられる。
江下圭祐 書記長は、意志ある職場から変えていこうという考え方が、アクションのスピード感を鈍らせているということもあると危機感を表し、もっと踏み込んだ議論が必要とする。
また「個人的に」と前置いたうえで「居心地がいいところに居座っているような感覚も覚えています。修羅場にある中で、一人ひとりがゼロからプラスにしていくということは、その居心地の良い空間から抜け出して、突っ込んだ挑戦をしていかないといけない」と続けた。
「まずは意志ある職場でトライ」と発言していた飯田副委員長は、このコメントには「安全確保を第一に、即座に実行に移すという強い想いがあった」と補足。「できるところから取り組んでいく」といった後ろ向きな姿勢ではなく、むしろ組合員の中には、新しい勤務形態の事例を調べるなど前向きな変化も現れているとし、こうした動きを推進していくと表明した。
中嶋裕樹 副社長は、変革にはやめる決断をすることもセットだと強調する。
中嶋副社長
開発をやっていれば、失敗もあります。ただ、失敗の問題は質だと思うんです。
1つ目の問題点はミスが多い。
しかし、このミスを調べていくとチェックしなくてはいけない法規の件数など、チェックシートもそうですが、考えなくてはいけないことがすごく増えているんです。その中でも効率を上げて成果率を上げてくれている。ありがとうございます。
ただ絶対件数が増えてしまっている。
2つ目(の問題点)は、昔からやっている技術にも関わらず、残念ながら技術力がないと言われる部分があります。技術力がないのではなく、失敗したときのプランBが考えられていない。これが大きな問題だと思います。
3つ目(の問題点)は、企画がコロコロ変わってしまう問題。環境の変化もあるかもしれませんが、変わっているのは事実です。これに対して失敗はするけれども、質を上げていかなくてはいけないと思います。
ミスの多さは、人の手でやっている限り(ゼロにすることは)無理です。固定費削減は大事ですが、ITでやっていくしかない。人の手ばかりに頼っていてはダメだと思います。
そして、プランBを考える。トヨタにはたくさんの経験者、先輩たちがいます。OBの方もいます。そういう人たちに直接指導を乞う、先生として教えてもらう。
直属の上司には聞きにくいことも、直接、利害関係のない先輩に見てもらうというやり方もあるのではないかと。これはもうすでに下山(トヨタテクニカルセンター下山)で動かしてもらっています。
3つ目の企画が変わってしまうことについては、宮崎さんと僕が責任を持って企画の中身に入り込む。失敗したら我々の責任。こういう覚悟で臨まないといけないと思います。
今日の話を聞いて「プラスでこれをやろう」ということは、すごくいいと思います。だけど、それは必ず「やめる」とセットじゃないと。結果としてリソーセスもどんどんオーバーしていく。
リードタイムについて言えば、残念ながら今の足元のリードタイムは20年前の状態になっています。
これで競争力が上がるでしょうか?
マイナスをゼロにするということは、当然やっていかなくてはいけない。今申し上げたことは全部マイナスをゼロにすることだと思います。
でも、我々のコンペティター(競合)はもっと早く、いい商品を、タイムリーに出してきています。打ち勝たないと、すぐ赤字になってしまう。
そのような厳しい環境の中で「やめる」ということを会社側が断行する。「これをやめるから新しいことをやろう」「これをやめるから、その手立てに合意して一緒にやろう」。やめることを決断するのは、会社側だと思います。
本部長の皆さま方、プラスアルファをやることは当然いいんです。必ずそこに「やめる」ことをセットで(考えてほしい)。「やめる」ことが本当に皆さんにとって有意義かを議論しながらやめていけばいい。
両副社長や会社の想いを受け、秋山大樹 副委員長は感謝を示しつつ「大切なこととして思っていることをお伝えさせていただきたい」として、このように述べた。
秋山副委員長
結果を出すということはもちろんですが、今この場で出た具体的な案については、言葉だけが先行することなく、職場一律ではありませんので、縦横斜め、職場の中でしっかりとコミュニケーションを取って、その目的を深掘っていくことが大事だと思います。
例えば(前回の労使協で俎上に上がった)「3組2交替」や「修羅場」など、言葉だけが会社の皆さんの中に先行して、修羅場をつくればいいなどといった議論の受け止めになってしまった部分が、残念ながら事実としてあります。
我々も勇気を持って発言した以上、それは大変残念だと思っています。大事なことは、ちゃんと裏の想いを我々メンバーも自信を持って言っている訳ですから、その言葉だけを切り取って何かやればいいということではなくて、手段だけやればいいということには絶対にしていただきたくないと思います。
「修羅場」というのは一つの体験であって、そのスパイスを経験という糧にするためには、自らの振り返りももちろんですが、必ず上司や周囲の支援や関係性があってのことだと思います。
「場」だけがあれば良いということではなくて、しっかりとその「場」に対して経験に変えるような上司の問いかけや仲間の想いがなければ「場」はただの体験にしかならない、つまりトラウマにしかならないと思います。
そういった部分を大事にしてこの取り組み一つひとつを絶対にやっていくんだという覚悟で一緒にやらせていただきたいと思います。