販売店・仕入先の「人への投資」は? 本音の対話はさらに拡大

2024.04.24

「人への投資」を議題に据えたトヨタの労使協議会。では販売店・仕入先の現状はどうなっているのか? 本音の対話は自動車産業550万人の仲間へと広がっていく。

【仕入先】悩みは価格転嫁と競争力のバランスをどう保つか

続いては仕入先について。

労務費分の価格転嫁を含めた人への投資が本当に波及するのか。全トヨタ労連の西尾清人 副会長は、加盟組合から届いた不安の声を伝えた。

全トヨタ労連 西尾副会長

価格転嫁については、「各社間の話し合いにおいて、具体的な数字や根拠を説明することが難しい」、「『価格改定』という言葉が出てくると、どうしても『値下げ』という固定概念が非常に強く、話し合いが進みにくい」といった声があります。

また、「会社からは『価格転嫁は企業間の取引の問題』と言われ、労使の話し合いを行いづらい」、「トヨタグループの海外拠点との取引や、部品製造以外(設備・サービス等)の取引は、どこまで対象となるかわからない」、「従前からの取引が継続的に行われる中で、単価を見直すタイミングが難しい」などといった、さまざまな現場の悩みがあります。

そして、「本音の話し合いができる環境づくりが重要」と続けた。

トヨタの熊倉和生 調達本部長は、「サプライチェーンの深いところまで労務費分の転嫁を含む『人への投資』を浸透させていくには、発信を続けることが重要」と語る。

一方で、クルマには適正価格があり、競争力を失うことは避けなければならない。

デンソーの調達戦略担当である簗瀬久資 執行幹部は「価格転嫁と競争力のバランスを取るのはすごく難しいと思います」と述べつつ、「お互いにVA *1 、VE *2 とか過剰品質、仕様を変えるということを精力的にやっていますが、互いに疲弊しない、Win-Winになるコスト競争力を前面に押し出してやっています」と続けた。

*1Value Analysis。既存の製品・資材サービスを研究し、コスト低減する活動。

*2Value Engineering。設計段階から材料や製造方法を見直してコスト低減する活動。

トヨタ紡織の細江英昭 調達本部CPOは、「これまでいかに原価・価格を抑えるかということに注力してきた調達メンバーは、すぐに値上げ(価格転嫁)のマインドに切り替えられないだろう」と予測する。

自社だけが良ければ良いとの考えを変え、サプライチェーン全体を盛り上げようと、意識改革を図ってきたことで「少しずつ変わってきた」と実感を述べた。

これにはアイシンの大島振一郎グループ調達本部長も「議論を続けてきたことで、仕入先の会社としっかり話し合いができる関係性になりつつあるのを肌で感じています」としつつ、課題も挙げた。

左からデンソー簗瀬 執行幹部、トヨタ紡織 細江英昭 調達本部 CPO、アイシン大島振一郎 グループ調達本部長

アイシン 大島調達本部長

競争力の話も出ましたが、仕入先さんにもいろいろなタイプの会社がおられ、自らまい進できる仕入先さんと、そうすることが難しい仕入先さんがみえます。

前者の仕入先さんは自分で改善できて、自助努力で競争力を磨いていますが、それが難しい仕入先さんもいらっしゃって、今一番苦しんでおられます。

現場が低稼働になっていたり、補給部品でスペースがなかったり、改善のアイデアがなかなか出せなかったり。

そういう方が一番困っているんです。そこにどう入り込んで、一緒に汗を流すか。

競争力は地道なVASSA * 、電気使用の低減も含め、どれだけ一緒になって取り組んでいけるかが重要だと思います。

*Smart Standard Activityの略。基準の適正化を主な手段とする改善活動

トヨタの加藤貴己 調達副本部長は、「さまざまな仕入先さんに届くように、トヨタがティア1の会社に適正価格の考え方などを明示的に示している。その考え方がティア深くまで浸透するように、引き続きティア1さんと協力して進めたい。発注者の立場、受注者の立場それぞれの声をつなぎながら、やり続けていきたい」とコメントした。

ここまで加盟組合の苦悩と、グループ3社の適正取引の実現に向けた取り組みを聞き、熊倉本部長は、取り組みのさらなる波及・浸透に向けてメーカーの立場から寄り添っていくことを誓った。

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