職場の挑戦の余力創出と未来への足場固めへ――。1年を通してトヨタ労使が深めてきた"家族の会話"の総決算が始まった。
2月14日、トヨタ自動車労働組合から会社に対して労使交渉の申し入れが行われた。
トヨタの労使交渉は、1年間を通じた話し合いの“総決算”の場として位置づけられている。
昨年の労使協議会(労使協)では、「誰もが、いつでも、何度でも失敗を恐れず挑戦できる職場」の実現を重要な議題に据えた。
8月には、より実効性のある取り組みへと移していくため、労使懇談会(労使懇)を開催。失敗を過度に恐れてリスクを取らない意識、本音で話せない上意下達の風土、作業負荷が高く定着しない社外応援、といった現場の悩みが共有された。
労使懇の後もさまざまな現場で本音の会話を重ねてきた労使。今回の申し入れに際しても、鬼頭圭介委員長は、賃金・賞与(ボーナス)の要求に先立ち、話し合いたいテーマを伝えた。
選ばれ、持続的に成長する産業・会社であるために
鬼頭委員長
昨年を振り返りますと、クルマをつくりたくてもつくれないという状態から一転し、一台でも多く、一日でも早く、もっといいクルマをお客様にお届けするために、それぞれの役割・立場で懸命に取り組んだ1年でした。
これはトヨタだけではなく、仕入先、販売店を含めお客様にクルマをお届けすることに携わったすべての仲間にも言えることです。
本年の要求は、そうした頑張りにしっかりと報いたいという想いを執行部・職場で十分に討議し、全組合員6万8千人の総意として、可決決定したものです。
この1年、昨年の労使協で改めて確認した「労使共通の基盤」という軸をぶらすことなく、産業で働く550万人の仲間に向けた取り組みや、職場の風通し改善など、労使あらゆる層で様々な課題について話し合いを進めてきました。
足元では、職場があまりに余力なく無理をしすぎているのではないか、このままの仕事のやり方を続けて本当に大丈夫なのかと思われるような実態があることも事実です。
改めてそうした実態を深掘りし、何を見直していくかについて、本年の労使協で議論させていただきたいと思います。
また、自分たちの処遇・働き方のみならず、お支えていただいている仲間含め、働く場としての魅力を、維持、向上していくために何をすべきか、といった点もぜひ議論をさせていただきたいと思いますので、よろしくお願いします。
続けて申し入れの詳細が読み上げられた。
鬼頭委員長
自動車産業・トヨタが生き残りをかけ、これからも選ばれ、持続的に成長する産業・会社であるために、労使で以下を話し合いたい。
①産業全体の競争力向上と持続的な成長に向けて一人ひとりができることは何か? また、取り組みを加速させ、産業全体に波及させていくためにできることは何か?
②トヨタで働く多様な一人ひとりがこれまで以上にいきいきと働き、能力を最大限に発揮し続け、トヨタで働く中で幸せを感じることができるためにやるべきこと、できることは何か?
なお、すでに報じられているように、7.6カ月(夏:3.8カ月、冬:3.8カ月)の賞与のほか、職種や資格に応じた賃上げも要求している。
徹底的に、本音で
申し入れ書を受け取ったのは、議長を務める河合満Executive Fellow。モノづくり一筋50年以上、誰よりも現場を知る“おやじ”だ。ちなみに名刺も“Executive Fellow”ではなく、“おやじ”と印刷されている。
河合おやじ
「一日でも早くお客様にクルマをお届けしよう」という現場の努力や、未来に向けた、多種多様なプロジェクトに取り組んでいる皆さまに、改めて感謝を申し上げます。
そしてこの1年、執行役員や本部長・プレジデントも現場に入り込み、労使の話し合いを、毎日のように積み重ねてきました。
私たち労使共通の基盤は、62年前の労使宣言で示された、「会社は従業員の幸せを願い、従業員は会社の発展を願う」という想いです。
この想いに少しでも近づけるよう、年間を通じて話し合い続けているからこそ、トヨタの労使協議会は、全員参加の「経営会議」のようになってきています。
現在、全社を挙げて取り組んでいる課題は、「挑戦の余力づくり」と「足場固め」です。仕入先や販売店の皆さまに支えられながら、高水準な生産や、モビリティカンパニーに向けた新たなチャレンジを進めていくなか、多くの職場で、負荷の高い状態が続いています。
今、しっかりと立ち止まって、未来に向けて進んでいく「足場」を確実に固めようという強い想いで、佐藤社長をはじめとした役員や幹部職が、取り組みをリードしていきます。
だからこそ、現場にある根深い問題にも本気で向き合えるよう、労働組合の皆さんは、会社にとって耳の痛い意見も、率直に伝えてください。
徹底的に、本音で話し合っていきましょう。
河合おやじからの言葉を受けた鬼頭委員長。「組合としても、課題の核心から目をそらさず、今まで取り上げてこなかったことも含めて、労使で、さらに一歩踏み込んだ、本音の議論をしていきたいと思います」と返した。
労使宣言
ここで河合おやじが語っている「労使宣言」は、1962年に締結された。
当時は乗用車の貿易自由化が目前に迫り、近い将来日本も国際市場で厳しい競争に直面することが予想されていた。そのような危機的状況に、労使が一枚岩となるべく誓ったのが、この労使宣言だ。
2019年の労使協では、豊田章男社長(当時)が、労使双方に向かってこの宣言を説いた。
今に続く「100年に一度の大変革期」と言われる難局。一丸になる必要がありながら、双方の主張は一向にかみ合わなかった。
「今回ほど、ものすごく距離を感じたことはない」。
豊田社長はこう語り、労使宣言を解説することで原点に立ち戻るよう必要性を訴えた。
トヨタイムズでは毎年、申し入れに際して、この2019年の労使協を振り返っている。(詳細は「春交渉2019」および「特集 異例の秋交渉」を参照。)
「またか…」と思う方もいるかもしれないが、それだけ2019年は、労使関係が見直される契機となった重要な年なのだ。
特に今年の労使協は、豊田社長から佐藤恒治社長、西野勝義委員長から鬼頭委員長へと、労使双方が新たな体制となって始めての開催となる。
どんなに時代や体制が変わっても、ぶらしてはならない原点がある。今年はどのような“家族の会話”がなされるのか。
第1回の協議は来週2月21日を予定している。