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トヨタ春交渉2021 #3 「トヨタ生産方式」「カーボンニュートラル」「SDGs」一人ひとりに何ができるか

2021.03.10

誰のためにTPSに取り組むのか。どのようにCO2排出を減らすのか。トヨタの向かうべき方向が見えてくる。

【TPS】は、生産現場だけのものではない

組合の声に反応するように、生産を担当する岡田執行役員がTPSの可能性について言及。モノづくりで培ってきたトヨタの強みであるTPSを、生産現場以外のあらゆる領域で活用し、550万人の仲間に役立てること。そして自動車産業全体の競争力を強化していくことである。

岡田執行役員

TPS はトヨタの現場で脈々と受け継がれ、トヨタらしいモノづくりをつくり上げてきたと思っています。

さらに、オリンピック・パラリンピック大会の人の輸送、Woven Cityの地下物流、農業、コロナワクチン接種会場の運営まで、どんな場面においても、共通の思想・言語として、その効果を発揮しています。

社長が「TPS は生産現場だけのものではない」と言うのは、そういうことだと思います。

事技系職場で取り組むTPS活動を通じて、日頃、当たり前にしてきた仕事の中に「こんな見方があるんだ」「こういう見方をすると改善につながるんだ」という素直な実感が広がっています。

まさにこれが「スタートであり続ける覚悟を持ってやっていこうよ」ということにつながると思います。

TPS には、応用領域の普遍性があり、それは生産現場だけのものでも、トヨタだけのものでもないことをみんなが理解し始めています。

自動車産業に従事する550万人の皆さんために、もっともっとお役に立てることはあるはずです。

私たちのよりどころであるTPS という共通の基盤に立って、みんなで一緒にやっていける自動車産業にしていけるよう一緒に頑張っていきたいと思います。

岡田執行役員

そして次の議題は、連日メディアにも取り上げられ、世間の関心も高い「カーボンニュートラル」について。

【カーボンニュートラル】生産から廃棄までの全体でCO2削減を

オールトヨタで一丸となってカーボンニュートラルに取り組めるよう、組合から会社に質問が投げかけられた。それは、「会社として、どのように取り組むのか、どう行動すべきなのか」という内容である。

まず先陣を切って話し出したのが、電動化を推進してきた寺師エグゼクティブフェロー。

自動車業界だけでなく、国やあらゆる業界と手を取り合い、クルマのライフサイクル全体でのCO2排出削減を考えなければならない、という課題。そして、今後トヨタが取り組むべき“3つの方向性”についても話が出た。

寺師エグゼクティブフェロー

ものをつくる。つくったものを運ぶ。運んだものを使う。それをリサイクルしながら最後は廃棄する流れで社会は成り立っています。この中で発生するCO2を2050年までにゼロにしようという考え方が、カーボンニュートラル。

いかにハードルが高いことか、わかると思います。

私たちは何をしたら良いのでしょうか。方向性は3つあると思っています。

①省エネ:日本の得意技は「少ないエネルギーでものを安くつくる」という省エネです。これは我々のTPS、原価低減活動そのものだと思います。

②技術開発:CASEやAIなどいろいろある中でも、カーボンニュートラルに関わる「水素」の技術がとても大事だと思います。

③仲間づくり:トヨタグループだけが頑張れば達成できるものではありません。「すべての企業と国民が一体となって成し遂げましょう」という壮大な国家プロジェクトだと考えたほうがいいと思います。

「あと30年」という考え方もありますが、「まだ30年ある」という考え方もできます。今から30年前を振り返ると、プリウスもMIRAIも出ていませんでした。だけど、ハイブリッドや燃料電池の技術開発は始めていました。

だから今も、AIやCASEをみんなでやろうという動きになっているし、これから先、新たな技術が出てくるかもしれない。今やるべきことは、カーボンニュートラルを正しく理解して、みんなで一緒に行動していくことだと思います。

寺師エグゼクティブフェローが10分で解説する「カーボンニュートラルの本質」はこちら

寺師エグゼクティブフェロー

環境車といえども、最後は、お客様に選んでもらえるかどうかが重要である。

EV(電気自動車)に注目が集まりがちななかで、先日、欧州のカーオブザイヤーでヤリスのハイブリッド機能が評価されたことにも表されるように、電動化は地域の電力事情や、マンションで充電しづらいといったライフスタイルによってニーズが多様であることを忘れてはならない。

大切なのはお客様のニーズに応えつつ、カーボンニュートラルを目指すことである。

ここで、日本自動車工業会(自工会)や自動車 5 団体連携の推進を担当する長田執行役員から、550万人の仲間としっかり連携する重要性が語られた。

長田執行役員

カーボンニュートラルが世界で一番進んでいるのは欧州だと思います。メディアを通して、「EVにしなければならない」という認識が一番広まっています。

EU全体で、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー化を進め、その電気をEVで使い、CO2の排出を抑えていくということを強力に進めています。

その中で、日本もそのようにしてはどうかとメディアでは取り上げられています。

EUの場合、インフラを含めた再生可能エネルギーの整備を10年間、しっかりと行ったうえで、自動車だけではなく、サプライヤーや住宅などの関連する産業をどうするか、長い間議論をし、CO2フリーになる大きな流れをつくってきました。

自動車5団体だけでは200万人の会員です。残りの350万人は、輸送業界、タクシー業界、ガソリンスタンドなどの人たちで、彼らあっての550万人です。

このような人たちが、自動車を動かしており、どのようにCO2を削減するか一緒に手を携えていかなければ、カーボンニュートラルは達成できません。「550万人で一緒に」が前提にあります。

残念ながら、日本の再生可能エネルギーは、東日本大震災以降、あまり進んでおりません。産業政策がどう絡んでいくのか、自動車はどう貢献していくのか。そのようなことを、自工会含め、我々がしっかり行っていくことが重要だと思います。

日本において、火力発電は約8割を占めています。LCA(生産から廃棄までの全ライフサイクルで排出するCO2を総合評価する手法)で見ると、当面はHVが最適な解ですので、地域の現実性をとらえて、カーボンニュートラルをしっかり行っていくことが、トヨタが進めるべきことだと思います。

長田執行役員

【カーボンニュートラル】EV偏重ではなく、全方位で電動化を進める強み

ここで、Lexus InternationalとGAZOO Racing Companyのプレジデントを務める佐藤執行役員が、“トヨタの電動化の強み”について話を続けた。

佐藤執行役員

TPSの議論で「ヒト中心」という話がありましたが、カーボンニュートラルに対する取り組みも、根っこは全く一緒。「ヒト中心」で、「YOUの視点」で考えるべき問題だと思います。

YOUの視点とは、エネルギー環境と経済への影響を考えながらクルマをつくっていくことで、自動車会社が自動車をつくるだけでは解決しない。

550万人の連携を意識して、連帯してやっていかなければいけなりません。地域ごとにエネルギー事情も違うので、それも踏まえてやっていくのだと思います。

一番大切なのは、「お客様が商品を決める」という原則を忘れないことだと思います。

EVがものすごい勢いで市場に浸透している欧州で、HVのヤリスが大変高い評価をいただいています。正しく世の中を理解したうえで、どういうクルマづくりをしていくのか考えるべきだと思います。

過剰に「EVありき」と考えるのではなく、HV、PHV、BEVと幅広く、電動パワートレインのソリューションをしっかり用意することが、トヨタがやるべきことだと思います。

この表は、地域ごとの電動車の普及状況を示したものです。ご覧のように、日本は35%と電動化で決して遅れてはおらず、欧州・米国・中国に先行しています。

もうひとつデータを示します。パワートレインごとのライフ・サイクルで見たCO2排出量の比較です。

ライフサイクルで考えると、実はEVよりもPHVの方がCO2の排出量が低い。

こういった状況を押さえた上で、現実的なソリューションを考えると、当面は、CO2削減効果が大きいHVを中心に据えて、カーボンニュートラルという大きな目標に向けて動き出すことが大切だと思います。

インフラの整備状況を考えても、走りながら充電できるHVやPHVが持っているアドバンテージを普及させていくことで、少しでも早くカーボンニュートラルの方向に向けて動きだすことが、我々にできることだと思います。

トヨタが培ってきたHVの強みを生かして、足元の課題に向き合いながら、EVが本格化するなら、そこに向けて努力していく。そして、その先にある水素の時代に向かっていくことが大事だと思います。

これまでHVは燃費を意識しながら、エンジンの効率を優先して、動力を取り出すことを考えてきました。ハードは一緒でも、ソフト領域での制御を工夫することで、より将来の電動化にマッチしたHVに進化させられるポテンシャルがあるのではないかと思っています。

カーボンニュートラルに向けては、さまざまな課題があります。EVがマジョリティになるとしても、それまでの時間のコントロールは自動車会社でできるわけではありません。多くの仲間とそのペースを合わせなければなりません。

そうなったときに、我々が持つ強みは、TNGAによる非常に優れたプラットフォーム群を既に手の内に持っているということ。

HVを搭載できるTNGAのプラットフォームを武器にしながら、必要に応じてEVをコンバージョンしてつくることができます。

そうすれば、同じモデルの中でEV、HV、PHVがミックスできるような戦略を取ることができます。

自動車会社としての強みを生かして、電動車をコモディティにしないような、クルマ屋としての意識を持って、未来へ期待を持つことができるモビリティ社会をつくっていきたいと考えています。

これらの話を受け、組合側も、情報を正しく知り、知恵を出し続け、イノベーションを起こしていくことへの意気込みが語られた。

そして話題は「SDGs」について。

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