トヨタイムズ

トヨタ春交渉2021 番外編 労使協で語られた「カーボンニュートラル」の本質

労使交渉 2021.03.10 UPDATE

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3月10日に行われたトヨタの第3回労使協議会。トヨタ生産方式(TPS)をいかに強みにできるかを議論した後、話題は「カーボンニュートラル」に移った。

組合からは、「カーボンニュートラルという言葉はよく聞くようになったが、まだまだ自分ごとにできていない。どのような取り組みなのか、私たちがどんな行動を取るべきか、教えて欲しい」という声が上がった。

会社側で手を挙げたのは、寺師エグゼクティブフェロー。昨年まで、副社長・執行役員を務め、技術開発を統括してきた。今年からはエグゼクティブフェローという役割で、カーボンニュートラルを含めた技術部門の特命担当を務める、この領域のエキスパートだ。

「『CO2を出さないようにすること』『クルマのEV化により仕事がなくなる会社が出て大変』と思っている人もいるかもしれないが、カーボンニュートラルは正しく理解することから始めないといけない」。

そう切り出した寺師は、トヨタで働くすべての人がカーボンニュートラルの本質を理解できるよう、10分間にわたり丁寧に解説をした。トヨタイムズでは、労使協議会の本編記事とは別に、その全文を掲載する。

寺師エグゼクティブフェローのカーボンニュートラル解説

CO2排出の少ない国・地域が有利?

寺師エグゼクティブフェロー

ものをつくる。つくったものを運ぶ。運んだものを使う。それをリサイクルしながら最後は廃棄する流れで社会は成り立っています。この中で発生するCO22050年までにゼロにしようという考え方が「ライフ・サイクル・アセスメント」をベースにしたカーボンニュートラル。

従来、EVは走るときにCO2を出さないゼロエミッションなクルマだと言われていました。しかし、「ライフ・サイクル・アセスメント」は、生産から、使って廃却するところまで、すべての過程でCO2をカウントするやり方です。だから、同じクルマでも、つくる国のエネルギーのあり方次第でCO2の値が変わります。

ここでスライドを見てください。

日本は、石炭や天然ガス、石油といったCO2を発生させる化石燃料を使った火力発電比率が75%と非常に高く、コストも高い。この値が海外では低いということは、トヨタの海外工場で同じクルマをつくった場合、海外でつくるほうがCO2排出量は少なくなることを意味します。

カーボンニュートラルの考え方に基づき、発生するCO2に応じて税金をかけようという動きもすでに始まっています。

過去、「人件費が安いところでつくるのがいい」という考え方で生産をシフトしたこともありますが、これから先は、「CO2排出の少ないエネルギーでつくれる国にシフトしよう」という動きになる可能性もあります。

寺師エグゼクティブフェロー

以前のトヨタイムズ記事でも取り上げたとおり、電源構成に基づくCO2排出量だけで言えば、カーボンニュートラルのためには「トヨタのヤリスは、東北ではなくフランス工場でつくる方が良い」ということになってしまう。

続いて、自分たちの日々の仕事や生活が、カーボンニュートラルとどのように関連しているか、説明した。

全員がCO2排出のスイッチを押している

もう少しCO2との関係を説明すると、我々は会社に来たら機械や設備、パソコンのスイッチを入れますが、そのスイッチは電力会社につながっています。スイッチを押せば、化石燃料で電気をつくっている火力発電所からCO2が出てしまう。都市ガスでもプロパンガスでも同じことが言えます。

「うちの職場は太陽光発電で再エネ電気を使っているからCO2フリー」という人もいるかもしれないが、先ほどのEVと一緒で、太陽光パネルをつくるときに、既にCO2が出てしまっています。

「うちの工程は電気すら使っていない。からくりを動力にしているからCO2フリーだ」と思っても、そのからくりをつくる金属や樹脂をつくるとき、運ぶときにCO2が出ている。部材を発注した時点でCO2のスイッチを押していることになります。

トヨタに限らず、部品会社、仕入先すべてで同じことが起きています。

これは仕事だけでなく家庭生活でも同じ。24時間生活して、身の回りで行っていることはすべて、CO2を発生させるスイッチになっている。

これらで発生しているすべてのCO22050年、あと30年でプラスマイナスゼロにしましょうというのが、菅総理のカーボンニュートラル宣言なのです。いかにハードルが高いことか、分かると思います。

すべての行動は「CO2を発生させるスイッチだ」という表現を使い、皆が当事者であること、そしてカーボンニュートラルがいかに壮大なチャレンジか、あらためて理解を求めた。それを踏まえ、寺師は、トヨタで働く人たちができること、やるべきことを示した。

トヨタができる3つのこと

私たちは何をしたら良いのでしょうか。方向性は3つあると思っています。

1つ目は、省エネです。先ほど見てもらった発電方法は徐々に再生可能エネルギーなどに変わっていくと思います。ただ、日本の得意技は「少ないエネルギーでものを安くつくる」という省エネです。これは我々のTPS、原価低減活動そのものだと思います。

クルマをつくって、買って、使っていただくことにおいても、「EVが良いのか、PHVが良いのか」ということではなく、PHVHVも含めて、その場に最も合う効率的なものをうまく使いながら、徐々にCO2を減らしていく活動が非常に大事だと思っています。

2つ目は、技術開発です。CASEAIなどいろいろある中でも、カーボンニュートラルに関わる「水素」の技術がとても大事だと思います。

再生可能エネルギーには、太陽光発電や風力発電といったものがありますが、太陽光なら昼間が多い、風力なら風があるときが多いなど、これらの発電能力はどうしても山谷ができます。その山の電気を使って水素に変えて、谷を埋めるという平準化をするために、水素がとても大きな役割を担います。

だから、「電気か水素か」とか「EVFCVか」ではなく、再エネも水素の技術も必要、EVFCVも両方必要という前提で、技術開発をしていかなければいけません。

カーボンニュートラルの実現のためには、対立軸で物事を捉えず、全方位で技術開発を進めることの重要性を伝えた。続いて、水素にはさらなる可能性があることにも触れた。

水素そのものにも、もっと大きな意味があります。水素を燃やして火力発電しようという動きがあります。また、水素ガスと空気中の二酸化炭素を結合させて、メタンガスをつくり、e-fuelと呼ばれるガソリンをつくる。

これも水素がカギになる技術です。水素を使って、「CO2フリーの化石燃料」をつくろうという技術が、動き始めているのです。今年になって、欧州の航空会社がこのe-fuelを混ぜて飛行機を飛ばす実験を始めたという報道もあります。

これが実現すると、インフラがそのまま使える。ガソリンエンジンやトランスミッションなども、そのまま使える可能性もあります。

AIやCASEに磨きをかけて、こうした新しい技術をWoven Cityで実証実験を行うことができます。新しい技術と経済合理性をどう実現していくか、そこが我々の技術開発の見せどころだと思います。

最後に示されたのは「仲間づくり」。これまでの労使協議でも、550万人の仲間と一緒に仕事をする重要性を確認してきたが、カーボンニュートラルは日本全体、地球全体で取り組むべき問題だからだ。

3つ目が、仲間づくり。カーボンニュートラルは「あと30年で実現させましょう」ということになっています。

トヨタグループだけが頑張れば達成できるものではありません。(クルマを走らせる)550万人、そしてさらにその先を見ると、「すべての企業と国民が一体となって成し遂げましょう」という壮大な国家プロジェクトだと考えたほうがいいと思います。

あと30年」という考え方もありますが、「まだ30年ある」という考え方もできます。今から30年前を振り返ると、プリウスもMIRAIも出ていませんでした。だけど、ハイブリッドや燃料電池の技術開発は始めていました。

だから今も、AICASEをみんなでやろうという動きになっているし、これから先、新たな技術が出てくるかもしれない。今やるべきことは、カーボンニュートラルを正しく理解して、みんなで一緒に行動していくことだと思います。

寺師の説明後、日本自動車工業会(自工会)や自動車5団体連携の推進を担当する長田執行役員が続いた。菅総理のカーボンニュートラル宣言を受け、自工会は、日本のカーボンニュートラルへの貢献に全力でチャレンジする方針を決めている。

長田は、カーボンニュートラル対応で前を行く欧州と日本の置かれた状況が違うことを説明し、国・地域の実状に応じた対応が必要だと補足した。

日本に最適なソリューションを

長田執行役員

カーボンニュートラルが世界で一番進んでいるのは欧州だと思います。メディアを通して、「EVにしなければならない」という認識が一番広まっています。

EU全体で、風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギー化を進め、その電気をEVで使い、CO2の排出を抑えていくことを強力に進めています。

その中で、日本もそのようにしてはどうかとメディアでは取り上げられています。

EUの場合、インフラ含めた再生可能エネルギーの整備を10年間、しっかりと行ったうえで、自動車だけではなく、サプライヤーや住宅などの関連する産業をどうするか、長い間議論をし、CO2フリーになる大きな流れをつくってきました。

自動車5団体だけでは200万人の会員です。残りの350万人は、輸送業界、タクシー業界、ガソリンスタンドなどの人たちで、彼らあっての550万人です。

このような人たちが、自動車を動かしており、どのようにCO2を削減するか一緒に手を携えていかなければ、カーボンニュートラルは達成できません。「550万人で一緒に」が前提にあります。

残念ながら、日本の再生可能エネルギーは、東日本大震災以降、あまり進んでおりません。産業政策がどう絡んでいくのか、自動車はどう貢献していくのか。そのようなことを、自工会含め、我々がしっかり行っていくことが重要だと思います。

日本において、火力発電は約8割を占めています。LCA(生産から廃棄までの全ライフサイクルで排出するCO2を総合評価する手法)で見ると、当面はHVが最適解。地域の現実性をとらえて、カーボンニュートラルにしっかり取り組むことが、トヨタが進めるべきことだと思います。

長田執行役員

トヨタにおいて、これほど丁寧なカーボンニュートラルの解説を聞く機会はほとんどない。本来、労使間の課題を話し合う労使協議の中でこの解説が行われたこと自体が、カーボンニュートラルが自動車産業や日本の未来を左右する重要なテーマであることを印象づけるものだった。

第3回労使協本編の記事はこちら

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