大分県のオートポリスで行われたスーパー耐久選手権第4戦。会場には共にカーボンニュートラル社会の実現を目指す九州の「仲間」たちの姿があった。
トヨタ、SUBARUのガチンコ勝負にマツダが参戦
レースに目を向けると、このレースから開発車両が走る「ST-Q」クラスにまた1台、仲間が増えた。
それが、MAZDA SPIRIT RACING12号車のロードスターだ。このST-Qクラスへの参戦はマツダとしては、バイオディーゼルで走るMAZDA3と2台体制となった。
12号車ロードスターは2L 直列4気筒エンジンを搭載する。このクルマが使用するカーボンニュートラル燃料は、ガソリンの代替燃料となり、ST-Qで参戦を続ける28号車のGR86、61号車 SUBARU BRZが使用している燃料と同じものを使用する。
ロードスターの参戦について説明するラウンドテーブルでは、マツダエグゼクティブフェロー ブランドデザインを務めるMAZDA SPIRIT RACINGの前田育男代表、カーボンニュートラル・資源循環戦略部の木下浩志部長、パワートレイン開発本部長の松江浩太本部長がそれぞれ想いを語った。
MAZDA SPIRIT RACING 前田代表
今期の目標はBRZ、86とロードスターの3ワイド(3台横並びの状態)。ロードスターは、まだその速さを持っていませんが、このような戦いができるBRZと86の戦いがうらやましくて仕方がないので、そこに食い込んでいきたいと思っています。
今回デビューさせる12号車、ロードスターCNコンセプトは2.0Lでカーボンニュートラル燃料を使用して走るクルマです。
シリンダーヘッド、配管部の変更で馬力としては200馬力弱程度。将来的にはどこまで軽くできるか挑戦していきたいです。
このS耐のチャレンジを始めて、我々にとって有益なのは、参加しているメンバーの知見と経験が圧倒的な勢いで増えていくことだと思います。
みんな本当にいい目をしているし、技量も経験値も人間力も上がっていく。そういった試練の場だと思っていますし、始めてよかったと思います。これはやり続けないといけないと思っています。
マツダ 木下部長
クルマのカーボンニュートラルを「着実に進める」ために大切なことは、お客様に対してさまざまな選択肢を提供することだと思っています。
まずは、適材適所で投入するマルチソリューションとしての電動化。これに加えて、バイオ燃料や合成燃料といった内燃機関で活用できるカーボンニュートラル燃料の実用化や普及拡大。これもまた、クルマのカーボンニュートラルに向けた課題解決策の一つだと捉えています。
2021年11月からMAZDA2とMAZDA3をベース車両としてS耐に参戦して、最初は次世代バイオディーゼル燃料の普及に向けて実証実験を実施してきました。
今回、オートポリスで次世代バイオ燃料の55号車に加え、トヨタ、SUBARUに続いて、ガソリン代替となるカーボンニュートラル燃料を12号車に導入して参戦します。
一昨年シーズンのST-Qクラスへの参戦以降、私たちは化石燃料を1滴も使わない挑戦を続けてきました。
将来に向けて多様な燃料に対応できる技術の選択肢を開発していくとともに、トルクフルな前輪駆動のディーゼル車両に加えて、軽量な後輪駆動ガソリン車両と幅広い特性を持つ車両を活用して、レースフィールドでマツダらしい走る喜び、運動性能の開発も続けていきたいと考えています。
マツダ 松江本部長
今回の参戦目的は、レースの極限状態での実証実験とガソリン代替のカーボンニュートラル燃料のテスト。これが第一ステップです。
加えて、私たちと一緒にこのレースをやっている他のOEMの仲間たちと情報を共有しながら、燃料の市場適合性の調査も並行して進めたいと思っています。
カーボンニュートラルに向かってBEVを中心に強く進んでいますが、いろいろな国のさまざまな情勢を考えると、このカーボンニュートラル燃料が脱炭素社会に向けての一つの可能性だと考えています。
最終的には、カーボンニュートラル燃料が市場で普及していくこと。そこに向けて自動車メーカーが一丸となって、さらに石油メーカー、政府、行政が歩み寄れるための技術議論ができるように進めていきたいと思っています。
今回カーボンニュートラル燃料をガソリンの代わりに入れてベンチテストでデータをとってみました。
程度の差はありますが、先人であるトヨタやSUBARUが先に出しているデータの傾向と同じような結果が得られています。
ここから先、レースの世界、サーキットの上で極限状態の実証実験をやっていきます。
このレースでトヨタとSUBARUと同じ物差しでいろいろな情報交換をさせてもらいながら、カーボンニュートラル燃料がレースの世界でも、実際の市場でも使える、そんな実績を積み重ねて普及につなげていきたいと思っています。
その後、GRパワトレ開発部 小川輝主査とSUBARUのスバル技術本部技術管理部担当部長兼スバル研究実験センター長で61号車「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」を指揮する本井雅人監督の2人が加わり、質疑応答が行われた。
3社で同じカーボンニュートラル燃料を使用する意義について、それぞれ次のように話した。
3社でやるから3倍のスピードで開発も進む
マツダ 松江本部長
3社でやることで多くのデータが揃います。実績を積むと多くの課題が見えてくると思います。一緒にやっていって多くデータを集めて課題を出すことで燃料の開発が加速していく。それが一番大きな意義だと思います。
同じ環境でやっていくとマツダ、トヨタ、SUBARUのエンジンでそれぞれ違いがあります。違いがあることで、ちょっとずつ違う課題が見えてきます。
それによって、より良い燃料、より市場に導入しやすい燃料ができるのかなと思います。
そうして燃料もエンジンも多様化に対応していけると思います。
3社で集まることで、よりカーボンニュートラル燃料を導入したい、普及させたいという想いも強く伝えられると思います。
SUBARU 本井監督
いわゆる燃焼の観点では同じところもあるし、違うところもあります。技術的に深いところを会話すると開発のスピードも上がっていくので、相乗効果を狙っていきたいです。
大きなうねりを起こすためには仲間がいっぱいいた方がいいと思います。一方で勝負も仲間がいっぱいいた方が燃えると思います。そのためにも仲間は必要です。
GR 小川主査
前田さんがレースに出ることで知見と経験が圧倒的に増えるとおっしゃいましたが3社でやると3倍になります。
昨日もマツダとエンジニア同士でやりとりをしました。レースの過酷な条件もそうですが、一般の市場で走る場合も3社で同じ条件で観測しませんかと提案してもらいました。
それをやることでマツダは2.0Lの直列4気筒エンジン、SUBARUは水平対向の4気筒エンジン、そして、我々は1.6Lの直列3気筒ターボエンジンになるので、いろいろな比較がしやすくなるんじゃないかなと思います。それにより知見が圧倒的に増えることを期待しています。
マツダの2.0Lエンジンは燃焼も速く、ベースがしっかりしているエンジンなので、我々のTNGA NAエンジンに当てはめるとどうなるかというデータがきっとたくさん出てくると思います。
マツダが気づいたことを共有してもらえると信じています (笑)。それを活かせると我々もゼロから開発、評価をしなくて良くなるので、もっともっと速く知見が増えると思っています。
カーボンニュートラル燃料も我々は5社でレース期間中に必ずワイガヤをやっています。それぞれ、燃料メーカーさんとの機密保持契約もあるので話せる範囲で、結果は共有しています。
今はホンダ、日産と違う燃料を使っていますが、将来は同じ燃料を使いたいと話しています。
大分県のオートポリスで行われたS耐第4戦を通して見えたのは、カーボンニュートラル社会の実現に向け取り組む、九州ならではの山の登り方と、さらに加速したST-Qクラスの共挑だった。