「次の道を発明しよう」――。豊田章男会長が、グループ責任者として各社トップに語ったビジョン。この言葉に込めた想いとは。
創業の精神、クルマ屋の本分
豊田会長
今一度、この図を見つめてみてください。
私は「縦」と「横」の広がりに、それぞれの意味を見つけました。
縦の系譜は、「未来を切り拓くブレない意志」によって進化し続けるもの。
横の系譜は、「同志、すなわち志を同じくする仲間」と共に進化し続けるもの。
私たちは、これまで、先人たちが紡いでくれた「縦糸」と「横糸」で織りなされた「自動車産業」で生きてきたと言えます。
それがどれほど幸せなことか。私たちは理解し、感謝してきたでしょうか。
最初に、この気持ちを忘れてしまったのが、他でもない、トヨタ自動車だったと思います。
世界中の人々の暮らしを支える「移動」を、もっと楽しく、もっと豊かなものにするために、「もっといいクルマ」をつくる。
これは創業の精神であり、クルマ屋としての本分でもあります。
それがいつしか、台数や収益を一番に考える会社、クルマではなく、お金をつくる会社に変わってしまった。
数字が伸びれば、たくさんの人たちから褒められます。褒められたい。誰もその気持ちを責めることはできません。
ただ、考えなければならないことは、その台数や収益がどこから出ているのかということです。
先人たちが種をまき、耕し、育ててきた畑から収穫するだけであれば、そんな経営が長続きするわけがありません。
私が社長に就任した当時のトヨタ自動車がそうでした。
リーマン・ショックによって、創業以来、初めての赤字に転落し、自動車産業を支えている多くの方々にご迷惑をおかけしました。
さらには、世界規模でのリコール問題によって、最も大切なお客様の信頼を失ってしまいました。
トヨタ自動車はこのとき、一度つぶれた会社だと思っています。
そこから14年という歳月、そして私自身の全てを懸けて、仲間と共にようやく「クルマ屋」と言えるところまで立て直してまいりましたが、まだまだ油断をすれば、すぐ元に戻ってしまう、そんな状況だと思います。
トヨタグループが進むべき道
これは、トヨタ自動車だけの話ではないと思います。
私たちは、「横糸」で深く繋がっている関係ですので、トヨタ自動車が創業の原点を見失ったように、グループ各社にも今、同じことが起きているように思います。
会社が存続の危機に陥ったとき、私たち経営者の前には、必ず2つの道が現れます。
一つは、「対症療法や一発逆転狙いで短期的な成功を目指す道」です。
もう一つは、「自分たちに存在価値をもたらした創業の原点に立ち戻る道」です。
私たちが行くべき道は、一つです。それは、創業の原点に立ち戻り、おかしくなってしまった体質を立て直すこと。
それだけではありません。
同時に、未来への種まきや挑戦を、何があっても続けていかなければなりません。
私自身も、トヨタらしさを取り戻す闘いを続けながら、TNGAをはじめとする研究開発投資や新しいジャンルの仲間づくりなど、未来への種まきは「絶対に止めてはならない」。「ブレない意志」をもって続けてきました。
なぜなら、それが「縦」の系譜を紡ぐことになるからです。
種まきですから、すぐに成果は得られません。ですが、一人で悩み苦しむ必要もありません。
先人たちは、私たちに「横」の系譜を残してくれています。
私は今、この「横糸」に心から感謝しています。
未来はみんなでつくっていくものです。