「軽」との協業で、物流が革新される理由とは

2021.07.22

商用事業でCASE技術の普及を進めるプロジェクトに、ついに軽自動車も参画。会見の詳細を公開する。

今年3月、いすゞ自動車、日野自動車、トヨタ自動車の3社で、商用事業でのCASE技術の普及に向けたプロジェクト「Commercial Japan Partnership(以下、CJP)」を開始。輸送業が抱える課題解決や、カーボンニュートラル社会の実現を目指している。

今回、そのCJPに、スズキとダイハツが参画することが発表された。軽自動車メーカーが参画した意図とは。そしてどのようなシナジーが生まれるのか。3社トップの会見や質疑での発言を通じて、その真意に迫る。

トヨタ・豊田章男社長:軽は国民車であり、ライフライン

会見で最初に話したのは、2社に声をかけた豊田社長。軽自動車と、スズキ・ダイハツへの想いを語った。

豊田社長

「人々の暮らしをもっと良くしたい」「次世代に、もっといい日本、もっといい地球を残したい」。これが私たち自動車産業の「ミッション」であり、今日、この場に出席している3社の創業の原点でもあります。

3月に発表いたしました いすゞ、日野、トヨタによる商用事業での提携も同じ想いで動き出したものです。「輸送」の現場で困っている仲間の仕事をもっと楽にして、「輸送」が支える豊かな暮らしを守り抜く取り組みが始まっております。

今回、このプロジェクトにスズキとダイハツを迎え、私たちは、「軽自動車」が支える人々の暮らしをもっと良くしていくことに挑戦してまいります。

日本の自動車保有台数の7800万台のうち、3100万台が「軽」です。地方に限って言えば、そのシェアは50%を超えております。

日本の道路の85%は、「軽」のサイズだからこそ、スムーズに行き来ができる狭い道路です。

道がクルマをつくる。まさに、軽自動車は、日本の道がつくった「国民車」であり、人々の暮らしとともに進化し続けてきたプラクティカルでサステナブルな日本の「ライフライン」と言えます。

しかし、いま、CASE革命やカーボンニュートラルという時代の要請が、「軽」の世界にも大変革を迫っております。

私は、どんなに時代が変わっても「軽」をなくしてはいけない、お客様を置き去りにしてはいけないと思っております。

60年以上にわたって、この「ライフライン」を守り、けん引されてきたのがスズキとダイハツです。乗用車だけではなく、農業や配送など、さまざまな仕事を支える商用車もつくり続けておられます。

「軽商用」は、収益面だけを考えれば、非常に厳しいと思いますが、日本に「なくてはならない」クルマです。だからこそ、必死になって、努力し、工夫し、やり続けてこられたのがこの2社だと思います。

そこにあるのは自動車産業としての使命感であり、お客様のことを一番に考える「ユーザー目線」だと思います。

この両社が一緒にやることで、7割近い「軽」ユーザーの現実を知ることができます。そこに、トヨタのCASE技術を使って、「軽」をさらに進化させ、人々の暮らしをもっと良くするためのお手伝いができるのであれば、こんなにうれしいことはありません。

これからのクルマは、インフラとセットで考えることが不可欠です。今まで以上に、政府には政府の、民間には民間のリーダーシップが問われてまいります。さらに、カーボンニュートラルは全国民・全産業が一緒になって取り組まなければ実現できない「みんなの課題」です。

3月に、いすゞ、日野、トヨタの協業を発表した後、自治体、インフラ事業者、運送事業者など、多くの方々から「一緒にやりたい」というお声をいただきました。

このプロジェクトにスズキ、ダイハツが参画し、一緒に動くことで、「商用」に加えて、「軽」の軸でも協調の輪が広がり、多くの人が笑顔になる、もっといいモビリティ社会に一歩近づけると思っております。

私たちは、個社の枠を超えて、日本のため、地球のために、「意志と情熱」をもって、行動してまいります。ぜひとも、皆様方のご理解とご支援をお願いいたします。

スズキ・鈴木俊宏社長:「芸術品」のバトンを未来につなぎたい

続いて鈴木社長が発言。軽自動車メーカーの使命とCJP参画への経緯を説明した。

鈴木社長

今年の3月にトヨタ、日野、いすゞのCJPの会見を見て、大型トラックの物流拠点を結ぶだけでなく、物流拠点とお客様の家までを結びつけることで、より社会を豊かにできるのではないかと思いました。

そのためには、商用車の58%を占める軽商用車も参加しなければならない、参加することでもっと世の中に貢献できるとの想いを4月初めのスズキの営業拠点を集めた会議で話しました。

1949年に軽自動車の規格が制定されて以降、軽自動車は、人々の暮らしや仕事に寄り添い、生活を豊かなものにするため、地域の移動、農林水産、建設、小売、物流など、さまざまな用途に使われてきました。

今、日本ではあらゆる産業がカーボンニュートラルの実現に向けて活動しており、軽自動車の世界も例外ではありません。

お求めやすい価格でカーボンニュートラルに貢献する軽自動車を市場に送り出すこと、お客様の生活になくてはならない存在であり続けることが我々の使命です。

しかし、この使命を実現しようとすると、単独では非常に難しい。社会全体で、同じ目標に向かって取り組んでいかないと達成できません。

ダイハツも同じ想いを抱かれており、一緒になってできることはないかを相談させていただいておりましたが、そのような中でトヨタから「一緒に日本のライフラインを守っていこう」とお声がけいただき、その理念、目的に共鳴してCJPへの参加を決めました。

トヨタからCJPにダイハツとスズキも入ったらどうかと提案いただいたとき、豊田社長も自分と同じ考えを持っていることが分かり、非常にうれしかったです。

うちの相談役の鈴木修は、軽自動車を、サイズや排気量、そして、何よりお求めやすい価格などさまざまな制約のなかでつくり上げられた「芸術品」と表現しました。

国民車でありライフラインである軽自動車を、時代の変化にあわせて進化させ、お客様の生活をより豊かにする道具として先人たちがつくり上げてきた「芸術品」のバトンを未来につなぎたい。それが我々の使命であり、願いです。

同じ志を持つ仲間として、まずは5社で一緒に取り組んでいきたいと考えています。

ダイハツ・奥平総一郎社長:大動脈から毛細血管まで一気通貫で

鈴木社長のバトンを受け、ダイハツの奥平社長が語り出す。軽でのカーボンニュートラル、CASE対応の重要性と具体的な協業内容についても語られた。

奥平社長

豊田社長のお話の通り、軽自動車の保有は3100万台で、全体の約4割、うち800万台は軽商用車です。

軽の保有は底堅く推移しており、軽商用車は法人のみならず、個人のお客様含め根強いニーズがございます。

これだけ多くのお客様にお使いいただいている軽において、カーボンニュートラルへの対応、CASE技術の普及を実現していくことで、人々の生活をより安全・安心、豊かにすることは、我々軽メーカーの責務と考えております。

一方で、これまで我々軽メーカーは、シンプルな工場、簡素な設計素質、スリムな固定費など廉価なモノづくりを徹底的に突き詰めることで、低燃費技術や先進安全技術を、価格を抑えて導入してまいりました。

また、軽の現時点のLCALife Cycle Assessment)観点でのCO2排出量は、当社調べですが、登録コンパクト車と比較して約30%程度低く、小型のハイブリッド車に匹敵する値です。

このお求めやすい価格を維持しながら、CASE技術を普及し、CO2を現状よりさらに低減していくことは並大抵のことではないというのが我々の認識です。まさに100年に一度の大変革です。これらの課題を単独で対応することは非常に難しく、業界の枠を超えた取り組みが必要です。

そこで、以前から鈴木社長とは「お客様のために一緒にできることがないか」と議論を重ねてまいりました。そこへ豊田社長から今回のお話をちょうだいし、今日に至ります。

商用のプロであるいすゞ、日野に、トヨタのCASE技術が加わり、そこに軽を支えてきたスズキ、ダイハツが参画することで、大動脈から毛細血管までカバーする一気通貫の商用基盤や、先進技術と廉価なモノづくりの融合による、軽にふさわしい電動化の実現など大きなシナジーが生み出せると確信しております。

具体的な協業の内容を、今後検討していくことも含めてご説明いたします。

1点目はコネクティッドです。日本の物流事業者は約6万社存在しており、その約70%が従業員20人以下の小規模や個人の事業者様であります。まだまだ一人ひとりのお客様の困りごとに寄り添えていません。

今回の協業により、これまで把握しきれなかった現場のお客様の声の吸い上げや、トラックからラストワンマイルを担う軽商用までをつなぐデータ含めた基盤を構築することで、物流全体の効率化などを実現していきたいと考えております。

2つ目はお客様の安全を守る、ADASAdvanced Driver-Assistance Systems、先進運転支援システム)などの先進安全技術です。各社の技術、ノウハウを持ち寄り、将来の展開も見据えて、より廉価な先進安全技術の開発に向けて検討を進めます。

3つ目は軽・商用領域の電動化です。カーボンニュートラルに向け、電動ユニットなどの技術協力を実施し、開発リソーセスを集約することで、廉価で魅力的な軽の電動車の開発にチャレンジいたします。

また、これら3点を各社と連携させていただくことで、軽も含めた社会実装にトライいたします。豊田社長のおっしゃる「まずやってみる」を我々も実践してまいります。

本日をもって、スズキ、ダイハツの2社は、いすゞ、日野、トヨタによる商業プロジェクトであるCJPに参画させていただき、商用事業を起点に取り組みを始めます。

協業の推進にあたっては、Commercial Japan Partnership TechnologiesCJPT)の株式を株式譲渡によりそれぞれ10%ずつ取得いたします。

今後も軽メーカーとして、ライフラインである軽自動車が、お客様にとって「お求めやすく、身近な存在」であり続けるために、小さく・軽く・安くにこだわり、商品・サービスを提供してまいります。この協業でそれを「加速」させてまいります。

「軽」が加わるメリット

3社長の発言後、質疑応答が行われた。出てきた質問は、この連携における「軽」の役割と今回の協業で得られるメリットについてだった。

鈴木社長

商用車の58%を軽が占めていますが、コネクティッドで、大型物流と小口配送のラストワンマイルが一体化できると思います。

これまでも血管としてはつながっていましたが、そこの引継ぎなどが1つのルートではなく、紙やベテランの技でつながっていました。

それがコネクティッドでつながると、大型物流でのドライバー不足、積載量の効率の悪さなど把握しながら、毛細血管を担っている軽が入り込んで、物流の効率化が図れると思います。

毛細血管の網目をより細かく、流れを良くし、カーボンニュートラルの時代に合った物流が構築できるのではと思っております。

私どもが追求しないといけないのは「下駄代わり」のポジションを極めることだと思っています。

軽自動車だけでは不可能と思います。バッテリーの量を減らしながら、どうやって走らせることができるか、充電ポイントなどのインフラ整備なども含めて、下駄代わりのクルマ、芸術品を進化させていきたい。

スズキが長年取り組んでいる「小少軽短美」を、自社だけでなく、サプライヤー、ユーザーも巻き込みながら、下駄代わりのクルマを極めることをしっかりやっていきたいと思っています。

また、ダイハツの奥平社長からは、物流現場の働きやすさにつながる効果が期待できることについても語られた。

奥平社長

まずは物流の大動脈から毛細血管、トラック物流から小口配送の軽商用までを一気通貫でつなぎたい。コネクティッド基盤を一緒にしたいということです。

通信機器のシステムの標準化、仕様についての共同開発を今年の春に発表していますが、そういうことも付け加えながら、CJPのプロジェクトの中で実装して検証していきたいと思っています。

大動脈としてのトラックはコネクトされてきていますが、軽商用はまだで、お客様のスマホに頼っているところがほとんどという状態です。

このCASE技術の導入で、データをみんなで共有することができるのが大きな利点になり、お客様により良いサービスの提供をできるのではないかと思っています。

また、物流の効率化を図ることでムダを省き、ドライバーにとってもよりよい働く現場が提供できるのではないかと期待しています。

自動車メーカー3社長とともに登壇し、プロジェクトを遂行するCommercial Japan Partnership Technologiesの中嶋裕樹社長からは、具体的なプロジェクトも紹介された。

中嶋社長

CJPでは、福島で水素活用プロジェクトを立ち上げました。

地場の産業や大手のコンビニ各社やスーパーマーケットと手を取り合って、福島でつくられたクリーンな水素を活用して配送に使っていくなど、「水素を活用する都市の原単位」をつくるプロジェクトを進めています。

今回、東京のような大都市でトラックをベースとした幹線物流と倉庫までの小型トラックの活用や、生産者から消費者、大動脈から毛細血管までをつないでいくためのコネクティッド技術の活用を検討しています。

ジャストインタイムの流通が可能になれば、倉庫のあり方など変化するのではないかと考えています。

これから、パートナーとなる5社が力を合わせることによって、より生活に密着した物流の改善を行い、業者がランニングコスト低減のメリットを享受できれば、サステナブルな物流改善につながるのではないかと考えています。

ここまでは物流の効率化など、働き手のメリットが語られてきたが、得られるのはそれだけではないという。中嶋社長は、消費者の実感につながるメリットについても説明した。

中嶋社長

(大型から小型まで)一気通貫でのメリットは、生産者から消費者までのトータルのリードタイムが短くなります。短くなれば、中間在庫になるような倉庫などのありようも変わってきます。

消費者にとってはより早くタイムリーに必要なものが届くことにもなりますし、生産者からすると新鮮なものが新鮮なうちにお客様に届くといったこともあります。トラックから軽自動車のラストワンマイルまでつながることは、さまざまな可能性が秘められていると認識しています。

2社をつなぐ豊田社長の想い

鈴木社長、奥平社長のあいさつの中にもあったように、2社に声をかけた豊田社長。2社のCJP参画の橋渡しをした「接着剤」の役割を果たしていたが、会見では豊田社長にも軽への想いやこだわりを聞かれる場面もあった。

冒頭のあいさつでも、軽を「国民車」「ライフライン」と語っていた豊田社長は、「軽」への想いを次のように補足した。

豊田社長

スズキ、ダイハツは、世の中が必要ものをつくるという使命感、お客様の暮らしに寄り添う生活者目線(にあふれており)、これは両社の創業の原点でもあり、大変尊敬しているところでもあります。

日本だけでなく、スズキはインド、ダイハツはマレーシアなどにおいて、軽で培った技術、経験を活かして国民車をつくり、海外のお客様の笑顔にもつながっていると思います。

どんなに時代が変わっても、両社が必死につないできた軽自動車の歴史と文化を守り、発展していくことが自動車産業としての使命と考えています。

そして、会見では登壇者の間に笑いが起こった場面があった。それは、豊田社長が「私が好きな軽自動車は何だかわかりますか?」と、質問者に逆質問を投げかけたときのことだった。

答えは「2シーターミッドシップエンジンカー」。つまり軽トラだ。運転席の下にエンジンがある軽トラは、レイアウトで言うとレーシングカーや本格的なスポーツカーと同じミッドシップとも言える。軽の商用事業参画という会見においても、カーガイモリゾウの顔をのぞかせた。

すべては、よりよい暮らしへつなげるために

ダイハツの奥平社長は、このプロジェクトで「お客様視点で、お客様の困りごとを解決していく」と話す。

CJPTの中嶋社長も「自動車産業の550万人の仲間のうち、270万人の方が輸送という業務に携わっている。そういった方々の困りごとに耳を傾けて、解決することができれば、結果としてカーボンニュートラルへの近道につながる」とお客様視点の大切さを話していた。

それは、CJPを始めた想いに通じている。

豊田社長

前回のいすゞと日野でもそうでしたが、スズキ、ダイハツもメーカーとしてはライバルです。ただ、お客様としては協調してくれた方が、より役に立つということでCJPをつくりました。

カーボンニュートラルをはじめ、これからの時代は「みんなで一緒にやっていくこと」が今まで以上に大切になっていく。その中でトヨタの役割は「接着剤」になること。

今後もCJPのパートナーシップは、志を同じくする仲間でますます広がっていくだろう。「人々の暮らしをもっと良くする」「次世代に、もっといい日本、もっといい地球を残す」という自動車産業の使命を果たすために。

この会見のラストに、豊田社長から、6月に会長職を退任したスズキの鈴木修相談役へのメッセージも語られた。

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