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ライバルのいすゞと日野が協業? なぜそこにトヨタも?

2021.03.25

トヨタは、なぜ商用事業に加わったのか? ライバル同士のいすゞと日野は、なぜ手を組んだのか? その真意に迫る。

トヨタ自動車、いすゞ自動車、日野自動車は3月24日、商用事業において新たな協業に取り組むことに合意したと発表した。

いすゞと日野の商用事業に、トヨタのCASE技術を組み合わせることで、CASEの社会実装に向けたスピードを加速し、輸送業が抱える課題の解決やカーボンニュートラル社会の実現を目指すという。

また、協業を推進するため、新会社「Commercial Japan Partnership Technologies(CJPT:コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ)」を設立。あわせて、トヨタといすゞが資本提携を結ぶことも発表された。

乗用車を生産するトヨタが、なぜ自ら商用事業に加わるのか? 業界のライバルであるいすゞと日野はなぜ手を組むことにしたのか?

会見で豊田章男社長が「3社のうち、どこか1つが欠けても実現することはできない」と語った今回の協業。

トヨタイムズでは、3社トップが会見で行ったスピーチと質疑のやりとりを通じて、その真意に迫る。

トヨタ・豊田章男社長:「ユーザー目線」で見出した協業

最初に口を開いた豊田社長は、「3社が手を組む意義」について話しはじめた。なぜ、この3社なのか? トヨタの抱えていた課題も告白しながら、その経緯や考え方の変化をリアルに説明した。

私からは、この3社が手を組む意義についてお話させていただきます。

これまでずっと、日野の下社長とは、トヨタグループにおける連携強化について議論をしてまいりました。

同じグループ企業でも、ダイハツとは、「乗用車」という共通点がありますので、クルマづくりにおいて、相乗効果を生みやすい面があったと思います。

これに対して、「商用車」は日野独自の事業であり、乗用車を基本とするトヨタのクルマづくりとの関連性を見出すことがなかなかできませんでした。

しかし、CASE革命によって、状況は一気に変わってまいりました。特に電動車は、インフラとセットでなければ普及が難しいということを燃料電池車「MIRAI」の導入で実感いたしました。

まさに、「やってみたからわかった」ということだと思います。

「こういうクルマをつくれば良い」というメーカーの目線ではなく、CASE技術を使っていただくにはどうすればよいか」というユーザー目線でモノを考えるようになり、日野との協業の方向性が見えてまいりました

今、求められていることは、CASE技術を磨き、普及させることだと思っております。そのためには、インフラとセットで商用車に実装することが最も大切ではないかという考えに至りました。

そして、もうひとつ。「ユーザー目線」で見ると、荷主の方々は、日野といすゞ 両方のトラックを使われております。日野といすゞが一緒にやれば、日本の商用車の「8割」のお客様と向き合い、その現実を知ることができる

そこに、トヨタのCASE技術を使えば、多くのお客様の困りごとを解決できるかもしれない。そう考えて、いすゞの片山社長にご相談をすることにいたしました。

「もっといいモビリティ社会」をつくるためには、「競争」だけではなく、「協調」していくことが、ますます大切になってまいります。

今回の協業は、3社のうち、どこか1つが欠けても実現することはできませんこの3社の強みを生かすことにより、輸送の現場で、困っている多くの仲間を助けることができるのではないかと思っております。

この想いは、東北復興への願いともつながってまいります。

東日本大震災以降、私は毎年3月に、東北の地を訪問してまいりました。私にできることは、「震災を忘れないでいること」ではないか。そう考えてきたからです。

今年は、震災から10年という節目の年になりますので、どこの場所を訪問させていただくのが良いか悩んでおりましたところ、未来に向けた取り組みを進めている、福島県浪江町を訪問する機会をいただきました。

現場では、福島県の内堀知事や浪江町の吉田町長からも復興への想いを伺いました。そこから動き出したプロジェクトがございます。

浪江町で製造されるグリーン水素を使って、いすゞと日野のFCトラックがモノを運びます。そして、コネクティッド技術で、「つくる」「運ぶ」「使う」をつなげ、ムダとムラのない配送の実現に貢献してまいります。

福島の皆様とともに「運ぶ」人の仕事を楽にし、「使う」人に新しい暮らしを提案してまいります。

私たちは今、「何が正解かわからない」時代を生きております。その中で、まずやってみること。そこから次が見えてきて、またやってみる。その繰り返しで、トヨタは、ここまで生き抜いてまいりました。

今回は、輸送の現場に入り、3社で力を合わせて、まずやってみる今まさに、そのスタートポイントに立ったと思っております

「ユーザー目線」で、「現場」を中心に動き出そうとしている3社の取り組みにぜひともご期待いただきたいと思います。

日野・下義生社長:輸送の課題解決に「個社を超えた協調を」 

続く下社長は、物流事業者の事情を知る立場として、輸送現場が抱える切実な問題を紹介。「このままでは、荷物が届かなくなる日が来るかもしれない」と物流を取り巻く環境の深刻さを訴えた。

まず初めに、お客様や社会の課題解決に向けて、今回の枠組みは確かな一歩を踏み出した、と感じております。

私自身、普段から輸送の現場の方々と接していて、皆さんの課題をもっと解決したいという想いを強く持っていました。

このような観点から豊田社長とは常にトヨタと日野の連携について議論をしてまいりました。

また、片山社長とはライバル会社の立場を超えて、物流事業者の方々やドライバーの皆様の課題解決をするために、ともに協調できることがないかと話し合ってまいりました。

このような背景を踏まえ、今回3社の取り組みがスタートできますことを大変うれしく思っています。

ここで、少し、輸送の現場についてお話しさせていただきます。現在、日本には6万社を超える物流事業者の方々がいらっしゃいます

日々、荷物を積み込み、運び、そして届ける。大変な重労働の中でも、輸送に関わる方々は一つひとつの大切な荷物を、待っている人々に確実に届けるため、必死に取り組んでいらっしゃいます。

私たち日野自動車は輸送というライフラインの中心で働かれるお客様と同じ目線に立ち、多くの課題解決に取り組んでまいりました。しかし、物流を取り巻く環境は厳しく、このままでは荷物が届かなくなる日が来るかもしれません

課題の一つ目は「ドライバー不足」です。ドライバーのなり手がいないということです。

ドライバーは、交通事故のリスク、長時間労働、運転以外の仕事の多さなどの環境面で、非常にハードな仕事です。長距離輸送におけるドライバーの仕事は、運転以外の仕事の時間が、運転時間と同じかそれ以上にあります

例えば、荷姿がバラバラのモノを2時間かけて手積みし、5時間走行、到着地では荷受け時間まで1時間待機、その後検品、荷下ろしにまた2時間という事例もあります。

市内配送においては、eコマースの進展による多品種少量、時間指定の宅配によりドライバーの負担は増え続けています

課題の2つ目は「輸送の効率」です。輸送において最優先されるのは納入時間と場所指定です。また、荷量は季節や時間帯でも変わります。

そのため、効率的な輸送が行いにくく、帰りは荷物がないということもあります積載効率は50%を下回っているのが現状です。

課題の3つ目は「カーボンニュートラル」です。

日本の輸送におけるCO2を低減することは、カーボンニュートラル達成に向けても必要なことです。仕事の道具であるトラックは電動化するだけでは不十分です。

コストを抑えつつ、輸送に使い勝手の良い電動車を広く普及することができなければ、CO2削減を達成できません。

そして、先ほどお話しした輸送効率の向上もカーボンニュートラル達成に向けて、輸送におけるCO2を削減するための非常に重要なファクターです。

以上のような課題は、輸送に対する世の中の期待が高まった結果ですが、それに対する解決策を私たちが提示し切れていないことも事実です。

これらの輸送の課題を解決するには、個社を超えて協調する領域が大変多いと思っています。

個社を超えたコネクティッドの連携により、待ち時間を減らすことや積載効率を上げることが可能になります。

また、今回の取組みにより、より多くの事業者の方々に電動車を使っていただけるようになります。

そして、何よりこれらの課題解決が進めば、輸送の仕事に魅力を感じ、ドライバーをはじめ、物流の担い手が増えることも期待できます

欲しい時に荷物が届き、人々の生活が笑顔に包まれるよう、私たちは物流事業者の皆様、そして輸送に関わる全ての方々と物流改革に向けてオープンに取り組んでまいります。

いすゞ・片山正則社長:「社会のため」のイノベーションを求めて

下社長のバトンを受けた片山社長。CASEという大きな時代の変化の中で経営のかじを取ってきた想いを語るとともに、3社協業の可能性と協業領域について説明した。

私が社長に就任して、今年が6年目です。日々いろいろな出来事が起こる中で、この間ずっと「会社とは何か」を考えてまいりました。

至った結論は、「社会のためにイノベーションを起こす力と、その姿勢」です。

CASEという巨大な波に直面する自動車業界には、まさにこのイノベーションが不可欠で、残された時間は少なく、待ったなしの状態です。

また、国をあげてのグリーン成長戦略の達成は、エネルギー産業や製造業など、全産業のイノベーションが実現して、初めて達成できるという壮大なチャレンジです。一つの産業の変革の遅れが、全体の調和を乱すという繊細な構造でもあります。

商用車メーカーとして、何としてでも、その責任を果たさなければならないと感じ、あらゆる機会を活用してイノベーションを起こすことを考え続けてまいりました。

カミンズ、ボルボグループとの提携もまさにこの想いで進めてきた案件です。

日々、このような想いで、経営の指揮を執る中で、豊田社長、下社長と「お客様」「社会」そして「モノづくり」に対するお互いの熱い想いをお話しする機会がありましたこれが、今回の提携のきっかけとなったと感じています。

もちろん、日野は最大のライバルで、日々、世界中で戦っています。それは、これからも変わりません。しかし、その戦いの根底には「もっと物流を良くしたい」、「社会を良くしたい」という両社共通の想いが流れています。

また、トヨタは乗用車メーカーですが、トヨタの「社会をもっと良くしたい、日本をもっと良くしたい」という想いに、乗用車・商用車の違いはありません。

トヨタは創業以来、数々のイノベーションを起こしてこられました。モノづくりで言えば「TPS」、電動化で言えば「ハイブリッド」、「FCV」と、数え上げればキリがないほどの会社です。

商用車を最も理解する日野と、小型商用車にも活用できる可能性が高い、「膨大な技術」、「強力な実行力」を持つトヨタ。

この3社で力を合わせれば、CASEの荒波を乗り越えるイノベーションを起こし、お客様に、もっとお役に立てる小型トラックを、ソリューションをご提供できるのではないかと思うに至りました

次に、3社で合意した技術協業について、ご説明いたします。

はじめに、商用車の電動化についてです。カーボンニュートラルは、自動車業界のみならず、日本の産業全体で取り組まなければならない課題であり、物流事業者様含め、CO2削減に取り組む多くのお客様から電動化車両のご相談をいただいております。

EVやFCVの普及には、コスト削減やインフラ整備等、多くの課題がありますが、今回3社は小型トラックのEV化、FCV化に共同で取り組み、車両コストを下げるとともに、福島県での社会実装を含め、社会、お客様と一体となってEVFCVの本格的な普及に取り組んでまいります

もう一つは、コネクティッドです。物流量増加に伴う人手不足、再配達や多忙な荷役によるドライバーの負担増、デジタル化の進展による、新たな輸送ニーズの高まりなどに対応するためには、デジタル化時代の「産業の大変革」に応えていかなくてはなりません。

トラックがムダなく、効率的に動くことは、カーボンニュートラルにも寄与します。コネクティッド技術は、その大きなキーになると思います。

日野、トヨタのプラットフォームと結び、他のパートナー様の参加も仰ぎながら、お客様の問題解決につながる、商用版コネクティッド基盤を構築するとともに、さまざまな物流ソリューションの提供を考えていきたいと思っています。

我々の他にも、この協業に志を同じくする方がいれば、常にオープンな姿勢で臨んでまいります

最後に、トヨタといすゞは、株式持合いの資本提携合意書を締結しました。これは、トヨタが、既に行われている「仲間づくり」であり、この資本関係が共同技術開発の加速と成功の支えとなることを期待しています

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