エンジン音が響き渡る入社式。トヨタで一歩を踏み出すからこそ、近健太新社長が最初に贈ったメッセージは「誰かのために」という原点だった。
「誰かのために」が生む、モノづくりの喜び
近社長
もっといいクルマをつくり、クルマの未来を変えていく。そして、次の100年につなげていく。そのためには、私たち一人ひとりが自分自身を成長させることが必要です。
私から皆さんへのエールを込めて、豊田章一郎名誉会長の言葉を贈りたいと思います。
「新しいモノをつくるために知恵を絞り、汗をかき、時間を忘れて熱中する。
その瞬間が極めて楽しい。苦心した末にモノができあがったとき、それを誰かが使って、喜んだり、助かったりしたとき、このうえない喜びと感動に包まれる。
だから、もっと勉強し、働いて、もっと良いモノをつくろうと思う」
不安は、向き合おうとしている証
近社長
皆さんはこれから、それぞれの職場で仕事を始めます。
不安を感じている人も多いと思います。それは、とても自然なことです。
不安を感じるのは、真剣に向き合おうとしている証拠です。だから、無理に強く見せる必要はありません。
トヨタには一生懸命がんばる人を助けてくれる職場があります。
皆さんより先に悩み、失敗してきた上司や先輩たちがいます。
一緒に励まし合い、支え合える仲間がいます。
そうした中で、もっと勉強し、働いて、もっともっと自分自身を成長させてほしいと思います。
最後に、もう一つだけ。
私はクルマが大好きです。
皆さんにも、もっとクルマを好きになってほしいと思っています。
ここまで語ると、近社長は突然「中嶋(裕樹)副社長、よろしくお願いします!」と声をかけた。
「クルマを好きになってほしい」。近社長から新入社員へのプレゼントだった。
空気を震わせたエンジン音
近社長に呼ばれた中嶋副社長は、おもむろに演壇に展示されていた「GR GT3」のシートへ。
「準備は良いですか?」近社長の言葉にサムアップで応える。
エンジンが始動した瞬間、会場に重低音が響き渡り、思わず息をのむ新入社員たち。
数十秒間、空気を震わせるようなエンジンの咆哮が場を支配した。
中嶋副社長がエンジンを止めると、近社長は余韻を噛みしめるように「マスタードライバーであるモリゾウの強い想いのもと誕生した新しいレーシングカーです。かっこいいですよね」と、会場を見渡して語りかけた。
近社長
皆さんは今日の私の言葉を覚えていることはないでしょう。でも、この音はずっと覚えていると思います。
これから一緒に頑張っていきましょう!改めて、皆さん入社おめでとう!
新入社員たちにとって、この日の記憶は、どのようなかたちで心に残っていくのだろうか。
「スポーツカーのエンジン音が響く入社式だとは想像していなかった。自動車会社に入社した、という実感が湧き上がってきた」と、熱っぽく語った新入社員。
「ジャパンモビリティショーでセンチュリーを見た時から、『いつかあのクルマに乗ってみたい』と憧れていたが、GT3もかっこいい…。いつか自分も、あのようなクルマに携われるようになりたい」と、興奮を隠せない新入社員。
この日のエンジン音を胸に刻み、新入社員たちはそれぞれの場で、もっといいクルマづくりに取り組んでいく。
「一歩一歩、前へ」 新社長としての初日
この日は、近社長にとっても社長就任の初日。
入社式の後に行われたメディアの囲み取材で、近社長は一つひとつの質問に丁寧に答えた。
近社長
登壇する前は、恐らく新入社員の皆さんは(背後の)スクリーンを見ているだろうから、自分とは目が合わないだろうと思っていましたが、壇上に立つと、皆さんがこちらをしっかり見ていた。私の目に入った限りでは、おそらく緊張もしていたと思いますが、本当に皆さん良い表情をされていた。一生懸命な目でこちらを見ていた。
本当に頼もしい限りだと感じましたし、彼ら、彼女らの視線をしっかり受け止めて、トヨタという場で成長していってもらえるよう、われわれ経営陣も一緒に成長していかなければならない、という責任を感じました。
これからの経営については次のように語った。
近社長
何か遠くを目指すというよりも、今日何ができるか、ということにフォーカスして、出来ることを、1日1日、一歩一歩進んでいくことが大事だと思います。
トヨタの中で、もっといいクルマづくりに関わらない人はいない。(一見、クルマづくりから離れたところにいるように見える)人事や経理も、人材育成や、収益基盤づくりという形でつながっている。
今一度、われわれ全員がもっといいクルマづくりをするんだ、という意識を持つことが重要だと思っています。