「イマーシブアート」とは、名画やアートを壁や床に投影し、時には光や音、映像などとも組み合わせて、空間全体で作品世界を体験できる新しいアートの鑑賞形式。従来の「見る」から、より一層作品やその時代に没入できるのが特徴となっている。

ムービアム・ヨコハマで展示されるのは、19世紀末のオーストリア・ウィーンを舞台に活躍したグスタフ・クリムトの代表作『接吻』や、その弟子であるエゴン・シーレの『死と乙女』など約280点で構成されたイマーシブアート。

金箔を使用するなど、華やかな装飾を極めたクリムトと内面の不安を視覚化したシーレ。「美の黄金時代」と題し、激動の世紀末ウィーンを生きた2人の芸術家の作品とその時代の総合芸術を、当時の音楽なども交えて再構築する。

また、俳優の山口智子氏がプロデューサーを務める「LISTEN. ONE MOMENT」も同時開催。「LISTEN.」は、山口氏らが10年をかけて世界の音楽文化を巡り、映像ライブラリーに収めてきたプロジェクト。日本初の大規模展示「ONE MOMENT」は、初のイマーシブアートとなる。

この日、トークセッションに登壇したのは、山中竹春 横浜市長、都倉俊一 文化庁長官、山口氏、シグリッド・ベルカ駐日オーストリア大使とトヨタグループを代表して豊田章男 会長。トヨタイムズニュースの富川悠太が進行役を務めた。

トヨタと聞くとクルマのイメージが強いかもしれないが、文化・芸術の振興にも力を入れている。販売店と一緒に地域で活動するアマチュアオーケストラを応援する「トヨタコミュニティコンサート」は40年以上の歴史を持つほか、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のメンバーを中心に、コンサートツアー「トヨタ・マスター・プレイヤーズ,ウィーン（TOMAS）」も開いている。

そんな中、今回取り組んだのが「アート」。その狙いを豊田会長は、こう明かした。

1859年の開港以来160年以上の歴史を誇る横浜港は、国際貿易の玄関口として重要な役割を担ってきた。

そして、トヨタが世界に出ていく節目にも横浜港があった。

豊田佐吉が自動織機の発明と事業の両立に悩む中、横浜港からアメリカ・シアトルに赴き、グローバルな視点を持つに至ったのは1910年のこと。

息子の喜一郎が、サンフランシスコで自動車の必要性を強く認識することになった米欧視察も、横浜港から出発した。

日本初の本格的乗用車「トヨペット・クラウン」が、アメリカ市場に進出するために送り出されたのも同港。

豊田会長は「ここを起点に世界の道を開いていったのかなと感じています」とし「何か『横浜を知りなさい』という力が働いたのかな」と話した。

これには山中市長も「そんなご縁があったんだ…」。

戦後復興、高度経済成長期を支えてきた山下ふ頭は現在、産業用としての役割を終え、今後は市民のための再開発が進められていくという。

そんな土地に生まれた「ムービアム・ヨコハマ」について、山中市長が「歴史と未来が交差する場所になると感じています」と言うと、山口氏も「何か新しく生み出していこうとする…ワクワクしますね」と応えた。

ちなみに、喜一郎をモデルにした2014年のドラマ『LEADERS』で、主人公「愛知佐一郎」の妻・晴子役を演じたのは、この日豊田会長の隣に座った山口氏。こちらも「不思議な縁」と笑顔で振り返っていた。