5月の広島開催が近づくG7サミット。トヨタ チーフ・サイエンティストのギル・プラット博士は世界に発信する日本らしい脱炭素の取り組みとして、多様な選択肢の重要性を伝えた。
BEVの普及はアマラの法則に従う
最後に、アマラの法則についてお話をしたいと思います。過去の委員会でも触れられたと聞いています。アマラは、人は技術革新のスピードを短期的には過大評価し、長期的には過小評価する傾向があると言いました。
しかし、アマラの法則は常に正しいのでしょうか?
これは反例としてよく使われる写真です。13年隔てたニューヨークの同じ通りの写真です。この写真を見ると、馬からクルマへの移行期間が短いので、アマラの法則に逆らうように見えます。
しかし、これは本当でしょうか?
実は、この写真は我々を欺こうとしています。ニューヨークの一つの通りだけでなく、アメリカ全体で見ると、馬がクルマに取って代わられるのに、13年ではなく、50年かかったことが分かります。
そして、世界的には50年よりもさらに長い年月を要したのです。
アマラの法則は、馬が自動車に代わるという点においても、正しかったのです。電池材料の不足とクリーンな電力を使う充電インフラの世界的な格差により、BEVの普及もアマラの法則に従うことになるでしょう。
敵は炭素。内燃機関ではない
G7、そして、世界が日本から学ぶべきことは、こうした制約があってもカーボンニュートラルの達成は可能であるということです。
重要なのは、無駄を最小限に抑え、最も効果のあるところに資源を使うことです。
最近、多くのリーダーが同じような考えを発信しており、とても心強く感じています。ビジネスリーダーやメディアでさえも、私たちが直面している課題を理解し、私たちの現実的なアプローチに賛同し始めているのです。
今こそ、アクセルを踏み続けるときです。私たちの視点を共有し、政府、ビジネスリーダー、そしてメディアに対して、何が最も効果的であるかを訴求し続ける必要があります。
敵は炭素であり、特定のパワートレインではありません。
お客様に多様な電動車の選択肢を提供することで、地理的・経済的環境に関係なく、すべての人がCO2削減に貢献できるようになります。
また、バッテリーに必要な鉱物不足、そしてクリーン電力を使う充電インフラが徐々にしか普及しないという状況においても、CO2削減が最も可能になるのです。
巨大な波のように、気候変動は世界を覆い尽くす恐れがあります。
日本は、他のどの国よりも、資源の制約の中で生き残る方法だけではなく、成功する方法を知っています。
この写真に写っている漕ぎ手の勇気、技術、そして何より忍耐に、皆さんもぜひ触発されてください。そして、日本が最も得意とすることを世界に理解してもらうために、一緒に頑張っていきたいと思います。